第39話 溝、因縁…二人の対立
こんにちは!
今回は前回の拓人とユリナについて掘り下げてみます!
「ふぅ…なんか疲れたわ。」
新宿でまさかの滝澤エレーヌ・ユリナとの望まぬ再会をしてしまった俺。まぁ、案の定言い合いにはなったが、とりあえず警察沙汰にならなくて良かったと思う。滝澤はあの後さっさと帰って行き、俺達は中央線でそのまま八王子方面へ帰った。
「全く、何なのよあの女。」
寶藍がさっきの件でボヤく。こいつも気が強いが、滝澤みたいな高飛車な感じではないのでまだ好感は持てるかな。
「ホントよ。日本だとなんであんな女がモテるのよ。」
ステイシーもボヤいた。まぁ、ああいうのはいつもぶりっ子してるから男性からの好感度は意外と下がらないんだよな。俺は別として。まぁ、お互い愚痴りながら電車は日野駅に到着。俺は先に降りた。
「じゃあな、寶藍、ステイシー。」
「バイバーイ、タクちゃん!」
「SEE YOU、タクト!」
俺は電車を降りて改札を出る。すっかり暗くなった道を歩きながら、それは自宅に向かう。
「ただいまぁ…。」
家に着き、ドアを開けて中に入る。ようやく一息つけそうだ。
「あら、おかえり。遅かったわね。」
「うん、ちょっと新宿で寶藍とステイシーと買い物してた。」
「そうなの?両手に花ね!流石私のイケメン息子♡」
「んな事言ってる場合かよ。」
相変わらずはっちゃけてるうちの母親だったが、腹が減ったので取り敢えず二人で夕食を取ることにした。今日は野菜炒めだ。野球中継を見ながら俺と母親は食べながら談笑していたが、俺はふとさっきの事を思い出し、母親に話した。
「なぁ、お袋。」
「どうしたの、タク?」
「…滝澤エレーヌ・ユリナって覚えてる?」
俺がそう聞くとお袋は少し考え込み、そしてぱっと何かを思い出したような顔で話した。
「思い出したわ!あんたが小学校の時一緒だった、あの外国人っぽい女の子でしょ?いつも高そうな服着てたから印象に残ってるわ。」
「だよねぇ。」
やっぱり覚えてたか。まぁ、今日もそうだったがあいつは昔からいつも高そうな服着てたから、そのイメージは強いよな。
「その子がどうかしたの?」
母親が聞いてきたので、俺は正直に答える。
「今日会った。」
「ええっ?どこで?」
「新宿駅。相変わらず派手な格好で高飛車な言動だったよ。」
そう言うと、母親も段々思い出してきたのか、色々話し始めた。
「そうそう!授業参観のときにずーっと生意気な感じて答えてたわね。私、見ててイライラしちゃった。」
「ああ。特に俺が当てられて正解すると、何かと難癖つけてきたな。」
「でも、どうしてあの子はあんなにもタクと張り合おうとしたのかしら?」
「それが分かんねぇんだよなぁ。」
正直俺は滝澤の事が嫌いだが、一体何がきっかけであいつは俺に目を付けるようになったのか、よくわからなかった。そう考えているうちに、俺も当時の事を段々と思い出していった。
−9年前、4月上旬、東京都日野市内−
この日拓人は小学校5年生になったばかりで、無事新学期を迎えた。ここは市立北日野小学校。拓人の母校で、ごく普通な公立小学校だ。拓人は普段通り登校し、教室に着いた。
「おっはよ~!」
元気にクラスメートたちに挨拶する拓人。ランドセルを置き、仲のいい友人達と談笑を始める。
「この前の『おおきく振りかぶって』見た?」
「見た見た!」
「面白かったよね!」
この当時からアニメが好きだった拓人。アニメの話で盛り上がっていると、隣のグループが何か話始めた。
「ねぇ、今日転校生が来るらしいよ?」
「マジで?」
「どんな子なの?」
「女の子らしい。」
他のグループもその話題でいっぱいだったが、拓人は全く気にせずアニメの話で盛り上がっていた。そしてチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
「おはよー!みんな席に着け!今日から新しい友達が来るぞ!」
先生はそう言うと、生徒たちはワクワクしながら話し始めた。一方窓側の席の拓人は退屈そうにあくびをしている。
「よ~し、入っておいで!」
先生に呼ばれて、入ってきたのはまるで外国人のような風貌の少女だった。背が高く、髪の毛は黒いが日本人よりも色白で少し茶色がかった瞳。そしてどこかのブランド物であろう高級感漂う紺色のワンピースを着ている。クラスメートたち、特に男子生徒のテンションはかなり上がっていた。その女子生徒は黒板に名前を書き始め、自己紹介をした。
「滝澤エレーヌ・ユリナです。日本人ですが、カナダ人のクオーターで、生まれも育ちもカナダです。名前が長いのでユリナって呼んでください。」
自己紹介を終えたユリナは先生に促され、用意された席に座る。そして授業が始まったが、ユリナは元々成績が良かったこともあり、日本の授業も難なく付いていくことが出来た。そして、休み時間には大勢のクラスメートに囲まれて、質問攻めにあっていた。
「ねぇねぇ、ユリナちゃん!カナダってどんなとこ?」
「その服可愛いね!どこで買ったの?」
「趣味は?特技は?」
なんて感じでごちゃごちゃしていたが、ユリナその可愛らしい笑顔を振りまきながら答えていった。そして、ある男子生徒が言った。
「ユリナちゃん、可愛くて勉強もできるなんて羨ましいな!コーディネーターといい勝負かも!」
「コーディネーター?それは何?」
ユリナが不思議そうな顔でその男子に聞いた。
「ほら、あそこにいるデカくてカッコイイやつ!」
その男子が指差した先には他の男子と楽しそうに話している拓人がいた。
「あの子は?」
「あいつは森拓人。ここじゃあ一番頭よくて運動神経よくてカッコイイ奴。」
「なんでコーディネーターなんて呼ばれてるの?」
その質問には別の女子生徒が答えた。
「ガンダム見たことある?」
「無いわ。ガンダムって何?」
「そう…ガンダムSEEDってアニメにコーディネーターって呼ばれる何もかもが完璧な超人がいるんだけど、森君は完璧すぎるからそう呼ばれているの。」
「ふーん。」
ユリナは不思議そうに拓人の方を見ながらそう答えた。
(森拓人ね。後で少し話してみようかしら。)
そう心の中で呟いたユリナ。そして、早速次の休み時間に拓人に話しかけた。
「ねぇ、ちょっといい?」
「ん、何?」
突然ユリナに話しかけられて、不思議そうな表情を浮かべた拓人。そしてユリナは満面な笑顔で自己紹介をする。
「私、滝澤エレーヌ・ユリナ!今日からよろしく。」
「ああ、君が転校生だね。宜しく。俺は森拓人だよ。」
そう返した拓人。しかし、ユリナはその返答に少し不自然さを感じていた。
(何なのこの子。他の男の子達は嬉しそうにしてるのに、なんでこんなにノリ悪いの?しかも、ちゃんと転校生って紹介されたのになんで私の事今知ったみたいな態度取るの?)
若干苛立ちつつも、ユリナは笑顔で質問を続けた。
「あなた、何かここじゃあ一番頭いいって聞いたんだけど?」
「そうなの?」
「私も勉強得意だから負けないわ!」
「あっそ。頑張ってね。」
素っ気ない態度を取られて、ユリナは段々と苛立ちが積もってきた。
(何、私に興味ないわけ?今までいろんな子に囲まれて、モテモテだった私に!)
幼少期から恵まれた環境で育ち、その容姿と成績から他の生徒や教師からも一目置かれていたユリナにとって、ここまで無愛想にされた経験は初めてだった。しかし、タクトの方は、元々人見知りが激しいこともあり、ただ話すのが恥ずかしかっただけなので悪意は無かった。それでもユリナの苛立ちは収まらなかった。
「さっきから何よその態度!人が折角話してあげてるのに!」
「いや、そんなに怒らなくても…。」
「じゃあ、もっと嬉しそうにしてよ!」
「そんな無茶苦茶な…。」
ますますヒートアップするユリナと気圧される拓人を見た他の生徒は流石にマズイと思い、仲裁に入ったので取り敢えずこの場は収まった。だが、悲劇は終わらなかった。それから数週間後、実施されたテストの返却が行われていた。
「滝澤ー、99点!」
国語のテストだったが、海外育ちのユリナにとって厳しいものだった。それでもカッコ悪いところを見せるわけにはいかなかったユリナは、猛勉強の末高得点を取った。そして次々とテストが返却されていったが、今回はやや難しく、平均点自体はそれほど良くなかった。そんな中…。
「森ー、おめでとう!唯一の満点だ!」
「よっしゃー!」
100点の答案を受け取った拓人はごきげんな様子で席に戻って行く。その様子をじっと睨みつけていたのはユリナだった。その後の休み時間、ユリナは拓人の席に行き、話しかけた。
「頭がいいっていうのは聞いていたけど、どうやら本当のようね。一日どの位勉強してるのかしら?」
するとタクトは真顔で答えた。
「俺?家で勉強なんかしたことないけど!」
「なんですって?!」
これはユリナにとって驚かざるを得なかった。自分は幼少期から家庭教師を付け、今でも週に2度先生に来てもらっているのに、何もせずに100点を取るということが信じられなかった。ユリナは更に聞く。
「じゃあ、どうやって100点なんて…今回は難しかったはずなのに。」
「え?だってちゃんと授業聞いていれば全部わかるじゃん。」
その言葉にユリナは絶句した。自分が必死で頑張っているのに、拓人が最低限の行動しか取らずに自分よりいい成績を残していることが悲しく、憎らしくなってきた。そして、気がつくと手が出ていた。
「痛え、何すんだよ!」
鼻を殴られ、教室の隅まで吹き飛んだ拓人は思わず声を荒げた。そしてユリナは半分涙目になりながらタクトに詰め寄った。
「バカにして…あんた、私の事見下してんの?ちょっと出来がいいからって調子に乗らないでよ!この化物、宇宙人!地球から消えろ!」
そう言いながらユリナはタクトに殴りかかろうとする。騒ぎを聞きつけた先生や、他のクラスメートに止められたので二人共大した怪我は無かったが、暴行事案の関係者として双方の両親が呼び出され、それ以降関係は気まずくなった。その後も、ユリナは拓人に負けじと勉強、運動などを頑張ってみたが、どれも拓人に勝つことはできなかった。
(何でよ…何でいつもあんなやつに負けなきゃいけないの…。あんなお金もなくて努力もしない庶民風情に何で…。)
そう思いながら、小学校を卒業し、中学も同じ学校に進んだが、そこでも悲劇は止まらなかった。中学から英語の授業が始まったが、拓人は帰国子女のユリナよりも英語の成績がよく、一度も負けたことが無かった。対するユリナは、これだけは拓人に勝てると思った物まで負けてしまい、面目丸潰れだった。その当時はユリナはタクトやタクトの仲のいい友人に対し「キモオタ」「童貞」「生きる価値なし」などと酷い言葉を浴びせるようになる。お嬢様で美人な上、カリスマ性も会った彼女はそんな暴言を吐きながらも嫌われることなく、自分と親しい友人を中心に派閥を作り、居場所がなくなることはなかった。そんなこんなで拓人と戦争状態が1年ほど続いたが、親の仕事の関係で日野から港区に転校し、学校も名門私立中学に転校することになった。そして、1年最後の春、野球部の練習に向かおうとした拓人にユリナは言い放った。
「私はあんたに勉強や運動で負けたけど、人生は私の勝ちよ!いい所に引っ越せて、名門校に通って、そしていい会社に入っていい人と結婚するわ!あんたは残念ね!ポテンシャルあるのに自ら活かす機会を作らないなんて!覚えておきなさい!世の中はやったもん勝ちよ!野心なき者は淘汰されるって事を心の奥底に刻みつけておきなさい!」
「うるせぇ、俺の人生だ!余計なお世話だ!」
拓人はそう言い返し、練習へと向かい、ユリナはまとめた荷物を持って帰宅する。その後、先程まで両者が会うことはなかった。
「何か…今思えば色々揉めた記憶が蘇ってきたわ。」
「まぁ、でもそんなに会うことなんてないし、ほっとけばいいんじゃない?」
俺は食卓で夕飯を食べながら、お袋に思い出したことを全部話した。お袋は覚えてはいたようだが、そんなに気にしてはなさそうだ。
「でも、野心とかプライドってそんなに大事かな?」
「まぁ、大事といえば大事だけど、一番大事なのは自分に嘘をつかず、やりたい事をやればいいんじゃない?」
「そうかぁ。そうだよな!」
確かに俺は昔から勉強も運動も好きだった。でも、恥ずかしがり屋な部分はやっぱり今でもコンプレックスだ。それでも俺は良いところも悪いところも受け入れる。自分を大切にできる人こそ、一番神様が喜びそうだと感じてるからだ。
こんにちは!
今回は拓人とユリナの出会について掘り下げましたが、長い上に少しやっつけ半分になってしまったかな?
さあ、もうすぐ6月も終わりです!
作中でも夏のイベントを企画しているのでお楽しみに!
それではまた次回!




