第38話 あなた、許さない!
おはようございます!
前回買い物帰りに予期せぬ再開を果たした拓人。
果たしてその相手の正体とは?
留学生アシスタント初日に俺は寶藍、ステイシーと予期せぬ再会をした。確かに最初はびっくりして動揺したけれど、また会えたことは素直になれなくて嬉しかったし、こうして今もあの時と同じように仲良くしている。そして、俺は今日この日も予期せぬ再会をしてしまった。しかし、寶藍やステイシーの時とは違う。むしろ、面倒臭いというか、あまり会いたくない相手との再会だったのが災難だったというべきだろうか。そして、その相手はまるで自分のスタイルを見せつけるような感じで俺達三人に対し、自信満々な表情で微笑む。
「お前とこんなところで会うとはな。神は俺を見放したみたいだな。」
俺は微笑む美女に対してそう言った。そして美女の方も相変わらず不敵な笑みを浮かべながら言う。
「随分言ってくれるわね。普通の男ならあたしに話しかけられただけで喜ぶのに。やっぱりあんたって違うわね、森拓人。」
その美女は俺の予想通り、高飛車な雰囲気で言い返してきた。やれやれ、正直言うと疲れるからなるべくこいつと話す時間は短くしたいかな。すると横にいた寶藍が俺の袖を掴みながら聞いてきた。
「タクちゃん、誰?知り合い?」
「まぁ、そんな感じ。」
俺がそう答えた後に今度はステイシーが聞く。
「どこでどう知り合ったの?なんて子なのかしら?」
「ああ、こいつはな…。」
俺が言いかけたところでそいつの言葉が遮り、俺に変わって説明し始めた。
「あたしはユリナ。フルネームは滝澤・エレーヌ・ユリナよ。カナダとのクォーターなの。今は慶洋大学の2年生!よろしく!」
自信満々に言ったそいつ=滝澤・エレーヌ・ユリナは染めた茶髪をさっと掻き上げ、再び自慢げな笑顔で言った。
「ここじゃごちゃごちゃしてうるさいわ。あそこの喫茶店に行きましょう。」
そうして、俺達の三人と滝澤はアルタを出て少し歩いたところにある喫茶店へと入っていった。
「じゃあ、あなた達も自己紹介してもらおうかしら。」
俺達4人が席について飲み物を注文した後、滝澤は寶藍とステイシーに聞いてきた。
「私は尹寶藍。タクちゃんとは幼稚園が一緒で、今年から同じ大学に通ってるわ。」
「へえ、随分日本語が流暢だから韓国人だなんて思わなかったわ。」
滝澤がそう言うと、ステイシーも滝澤に自己紹介する。
「私はステイシー・バーネット。高校の時、拓人のホストファミリーを務めていたわ。」
「へえ、森拓人留学したんだね。英語得意だったもんねぇ。」
笑顔を保ちつつ、少し皮肉めいた言い回しをする滝澤。そして今度は俺に言ってきた。
「森拓人…しばらく会わない間に外人の女二人を両手に花か。やるようになったわね。」
「何が言いたい?」
どんどん毒性が強くなる滝澤の言葉に、俺はそろそろ苛ついてきた。思わずそう聞くと、滝澤は表情を強張らせながら言った。
「ムカつくのよね。昔から完璧好青年気取って。財力も経歴も私の方がずっと上だから味方につけておけばいいものを、拒否して突っ撥ねるなんて何様かしら?」
あーあ、始まったよ。こいつのやたら強すぎるプライドと女王様気質が。そして、横にいた寶藍が苛つきながら俺に聞いてきた。
「ねぇ、タクちゃん。いい加減この女が何者か教えてよ。」
続けてステイシーも…。
「あなた、いきなり現れてタクトに文句言うなんてなんなのよ。そもそもタクトとどういう関係なのよ!」
と滝澤に対してご立腹の様だった。俺は溜息を付きながら説明する。
「こいつとは小学校5年から中学1年まで一緒だっただけだ。」
「そうよ。あたし達は同級生。そして今日めでたく再会できたってわけ。」
「別にめでたくねぇし。」
正直言うともう帰りたかった俺。だが、こいつは自分が言いたいことを最後まで言わないと気がすまず、それにかなり根に持つタイプなので、とりあえず最後まで聞こうと腹をくくった。
「そういえば、森拓人って今何してるんだっけ?」
「大学二年生だけど何か?」
「大学どこだっけ?」
「西東京国際だけと。」
そう言うと、滝澤は笑いながら言ってきた。
「あー、あの山の中にある公立大学ね。あんたの学力ならもっと上の名門校狙えるはずなのに、随分もったいないことしたのね。ざーンねん!」
「腐っても公立だぞ!入試科目が3科目しかない慶洋だけには言われたくねぇよ!」
俺がそう言い放つと、寶藍とステイシーまで立ち上がって滝澤に詰め寄る。
「ちょっとあんた。どうやら口が悪すぎるみたいね。そろそろ自重しないと私も怒るわよ!」
「うちの大学は確かに周りには何もないけどとても良い所よ!いい人もいっぱいいるし、治安もいいわ!」
二人が詰め寄っても滝澤は怯むことなく言い返した。
「中途半端な田舎の公立大学行くくらいなら、ネームバリューがあって、OB・OGとの結びつきが強い都会の私立大学の方が絶対に就職に有利よ。あんた達留学生だっけ?日本に留学するなら絶対にそんな大学よりもうちの方がいいのに。」
確かに慶洋大学は全国屈指の名門私立大学で、大企業の社長から政治家、芸能人やスポーツ選手など、ものすごい数の有名なOB・OGを輩出している。立地もよく、校舎も綺麗で、合コンでは一番高感度が高い大学とも言われている。だが、その分プライドが高く、こいつみたいに自分の大学が日本一とか思っているやつも少なくないんだとか。
「あんたみたいなやつがいっぱいいるような大学なんか願い下げよ!こっちにはタクちゃんいるし、楽しいから!」
寶藍は声を荒げながらそういった。そしてステイシーも続く。
「学歴なんて社会に出たら意味ないわ。どこで何をして、何を身につけて活かすかが大事なのよ!」
二人が滝澤にそう言うと、滝澤は不機嫌な表情を浮かべてぼやくように言った。
「あーあ、残念!うちの魅力が分からないなんて、可哀想な子達。それに森拓人を支持するなんて随分趣味が悪いわね!」
滝澤がそう言った瞬間、寶藍が滝澤の胸ぐらを掴みながら言った。
「あんた、今言ったこともう一度言ってみなさいよ!」
ステイシーも近くにあったフォークを滝澤の顔に突き付けながら言った。
「この場にいる人間を侮辱するなんて、貴女のその性格、非情そのものよ!」
流石に周りのお客さんや店員さんまでざわつき始めた。流石に止めないとなと思い、俺は仲裁する。
「まぁ、待て。寶藍、ステイシー、とりあえず落ち着け。」
二人を滝澤から引き離し、宥める。そして俺は滝澤の方を向いて言った。
「どういうつもりだ、滝澤。俺の事はともかく、なんで俺と仲良くしてくれているこいつらまで侮辱するんだ!流石にもう許せる範囲を超えているぞ!」
「だって、あんたみたいな男、あたしやあたしの友達だったら話もしてもらえないわよ!あんたたち二人はこんな美人なんだから、もっといい男探せばいっぱいいるのにこんなムカつく男を支持するなんて信じらんない!」
滝澤の言葉に再び寶藍とステイシーが反応する。
「タクちゃんのいい所なんていっぱいあるのに、何がムカつくのよ!」
「そうよ!タクトは優しくて勉強もできてカッコイイのに、何がそんなに気に入らないのよ!」
二人がそう聞くと、滝澤が少し怒ったような感じで話し始めた。
「そう、森拓人は確かにカッコイイわ。ルックスだけなら私の彼氏よりも上よ。昔から勉強もできて、運動神経も抜群でまさに完璧超人。でもね、こいつはそれを活かそうともせず、キモい連中とつるんでオタクな生活を送る日々。そして、野心もなく、努力もせずに無難な道を行くばかり…。ムカつくのよ!能力や容姿に恵まれてんのに自分が平和ならなんでもいいとか考えて低空飛行続ける奴は!こっちは将来考えて必死で努力してんのに!」
「随分な言われ様だな、俺。俺だって将来のことちゃんと考えてんぞ。そう言うお前の将来の夢はなんだ?親父の会社でCEOでも目指すのか?」
俺はそう聞く。こいつの親父は海外にも進出している電子機器メーカーの会長だったから、もしかしてそうなのかと思った。
「違うわ!それはお兄ちゃんが継ぐから私はやらない。私はこの学歴と女としての魅力を最大限に活かせる仕事をしたいから!」
「何だよそれ?」
「アナウンサーよ!」
滝澤はきっぱりとそう言った。お前、目指してたのか…。
「私は自分の魅力に自信があるわ!でもそれを最大限に伸ばすために努力もした!オシャレもそうだけど、女子アナになるために語学力や発声も鍛えたし、ミスキャンパスで有名なこの大学に入るために勉強もした!あんたみたいに何となく生きている男には出来ないかもしれないけど!」
自信満々にそう言ったが、俺は勿論、寶藍とステイシーも半分呆れ返っていた。
「お前の彼氏さんが気の毒に思えてきたよ、俺。」
俺に続いて、寶藍とステイシーも…。
「学歴とルックスはいいかもしれないけど…。」
「痛すぎるわね。プライドの塊そのものね。」
溜息を付きながら俺達三人は滝澤にそう言う。だが滝沢の方は全く気にせず、開き直った。
「フン!森拓人、あんたはイケメンだけど男としての魅力は私の彼氏のほうが上だからね、ガチヲタ!」
そして、寶藍とステイシーの方に向き直って言った。
「あんた達も、男の魅力はルックスや学力じゃなくて女性を楽しくさせる人間性だってことを覚えておきなさい!」
それだけ言ったところで、誰かのケータイが鳴った。滝澤のだった。
「もしもしー?あ、ごめーん。時間あったからお茶飲んでた。うん、今行くから!」
滝澤は電話を切ると、俺達に再び向き直る。
「今から彼氏とデートするからあたし行くわね!あ、今日は奢ってあげるから感謝しなさい!じゃあ!」
それだけ言うと、滝澤は会計を済ませて店から出ていった。
「タクちゃん!」
「ん、とうした寶藍?」
寶藍が真剣な顔で俺を見ていた。
「私は何があろうとタクちゃんの味方だから安心して!」
そしてステイシーも笑顔で言った。
「あんな女の言う事本気にしたら駄目よ!私もタクトを支持するから。」
そう言われるとやっぱり嬉しい。俺は二人に感謝しなくちゃな。今までのことも含めて。
「お前ら…ありがとう!」
俺は二人に謝辞を述べ、時間も遅くなってきたので、駅に向かい、電車に乗り、家を目指すのだった。
おはようございます!
いや~、中々強烈なキャラでしたね。
今回は罵り合いばかりで、不愉快に思われた方がいたらごめんなさい!
さあ、どんどん熱くなりますが、夏バテに負けずに書き続けます!
それではまた次回!




