第29話 モテない理由
こんにちわ!
前回は修羅場でした。
ここでブレークタイムにしましょう。
寶藍、ステイシー、有希子先輩の修羅場を何とかくぐり抜けて、ようやく平穏な日常が戻って数日。俺は学校終わりにいつも通り駅ビル内の本屋さんでアルバイトに励んでいる。平日で天気が悪いこともあってか、この日はお客さんが少なかった。
「森くーん!」
お客さんが並んでいないレジで暇を持て余した俺に店長から声がかかった。
「店長、なんですか?」
ツーブロックにメガネをかけたアラサー男性の本田店長。結構穏やかな人なので、他のスタッフからも好かれている。
「済まない。これ、新刊なんだけど向こうの漫画コーナーに追加しておいてくれ。」
「分かりました!行ってきます。」
俺は店長から段ボール箱を受け取り、そのまま漫画コーナーに持っていった。漫画本が箱一杯に詰められていることもあり、結構重い。でも野球で鍛えられているので別に今更運ぶのには苦にならない。
「さてと、今月は何が出たのかな…?お、これ今月発売だったか!」
密封された箱を開けて中を見ると、案の定大量の新刊が詰められていた。中には俺が好きで読んでいるのもあり、興味をすすられる。本屋で働いていると、発売日などの情報も手に入りやすいので俺的にはここで働けて嬉しく思っている。
「おっと、いけないいけない。仕事しなきゃ!」
嬉しさのあまり仕事を忘れかけたが、我に返った俺は箱から新刊を出し、作品別に陳列していった。全てを並べ終えた俺は段ボールを畳んでそのままバックヤードに置き、閉めていたレジを開けて再び立つ。
「いらっしゃいませ!お会計1200円になります!」
開けたタイミングでお客さんが来たので、俺はそのままレジ仕事に戻った。
「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」
俺は会計を済ませたファッション紙をお客さんに手渡し、笑顔で挨拶をした。最初はガチガチだったが、今ではもう慣れてるので緊張はしない。
「ねぇ、あの店員さんカッコよくね?」
「ヤバイヤバイ!超タイプなんだけど!」
「どうしよう?アタックしちゃおうかな?」
「やめな!あんなカッコいいんじゃ絶対彼女いるでしょ!」
「えぇ〜。そうかぁ。あーん、私もカッコイイ彼氏欲しい〜!」
先程ファッション紙を購入した若い女性が一緒にいた友達と俺を見ながら笑顔でそんなことを話してはしゃいでいた。なんでだろう?勝手に彼女がいると決めつけられているぞ。自分で言うのもあれだけど、美男美女なら恋人がいて当然なのだろうか?まぁ、こないだ告白されて断ったばかりだけど俺はいまフリーだし彼女できる気配も無いけどな。
「やっぱモテモテだな、イケメン!」
隣のレジから同じバイト仲間の藤田が話しかけてきた。ルックスはまぁまぁと言った感じの専門学校生で、確か彼女はいなかった気がする。
「そんなことをねぇから。」
俺がそう言い返す。人生でモテたことなんて今を含めて一度もないって。
「だって俺がレジの時と、お前がレジの時で女性のお客さんの表情が全然違うぞ!」
「そうか?全然気付かなかったわ。」
「全く、モリタクはずるいって。」
「何がだよ。」
「だって見た目もモデル以上だし、大学も西東京国際だろ?何もかもが完璧じゃん!」
「よせよ、褒め過ぎだって!」
「どれか一つ俺によこせよ!こんなの不公平過ぎるわ!」
「何だよそれ?」
そんなことを藤田と話していると、お客さんが来たので再び仕事に戻る。さっきまで暇だったが、だんだんお客さんが増えてきた。
「いらっしゃいませ!こちらカバーお掛けになりますか?」
そこそこ並び始めた列を、何とか処理する俺達レジ係。ようやく全てのお客さんの対応が終わり、レジが空いた時だった。
「森くん、休憩入っていいよ、」
「ありがとうございます!」
店長に言われて、俺はバックヤードにある休憩室へ向かった。ドアを開けて中に入ると…。
「あ、森くんお疲れ!」
「お疲れ、秋本。」
バイト仲間の女性、秋本がテーブルでコーヒーを飲みながら休んでいた。彼女は俺とは別の大学に通っており、上からの評判も結構いい。ルックスは中の上位だろうか?
「ちょっと混んできたぞ。さっきまで空いてたのに。」
「まぁ、この時間なら仕事や学校帰りの人が押しかけてくるでしょ。」
俺にそう返した秋本。彼女はいわゆる今時風のキラキラした女子大生と言う訳ではなく、どちらかと言えばサバサバ系だ。でも結構性格もよく、俺もこうしてよく話している。
「そういえば森くんってさ。」
「ん、何だよ?」
「彼女いるんだっけ?」
何を聞くかと思えばまたこの手の質問か。よく聞かれるけど、いい加減答えるのに飽きてきたのは気のせいだろうか?
「いや、いないよ。モテないし。」
「作る気はあんの?」
「いや、今のところは無い。」
あったら告白を断ったりしないしな。誰とでも付き合えればいいってわけじゃない。すると秋本は俺の方を見て言った。
「なんか、森くんって色々と残念だよね。」
「何が?」
「だって、森くんがモテないとか彼女いらないとか言うと嫌味にしか聞こえないんだけど。」
「別に嫌味を言った覚えはないんだが。モテないのも、彼女いないのも事実だし。」
見栄張ってモテ自慢するよりは、正直に言ったほうがいいと思っている。そもそも話を盛れる程のエピソードもないしな。
「森くんって男子校出身だっけ?」
「いや。共学しか通ったことないけど。」
椿が丘高校は初めから共学のごく普通の公立高校だ。まぁ、俺がいた国際科は若干女子が多かったけど。
「誰もアタックしてこなかったの?」
「うん。浮いた話はゼロだったよ。」
「好きだった人はいた?」
「いや、いなかった。野球と勉強が青春だったね。」
秋本が俺の過去を聞いてきたので俺も聞き返す。
「そう言うお前はどうだったんだよ。」
「私も共学オンリーよ。部活のラクロスにも打ち込んでたわ。」
「好きな人とかいたのか?」
「いたわ。隣のクラスの男子よ。」
ほう、恋愛とかあまり興味なさそうだったが、これは意外だった。
「それで、どうしたんだ?」
「相手が何もしてこなかったからこっちから告白したわ。振られたけど。」
「駄目じゃん!」
なんだ、振られたのか。でも、性格いいし、ルックスもまぁまぁだからチャンスはいくらでもあると思うけどな。
「別に振られたのは仕方ないわ。私も告白失敗に関しては後悔してない。」
「じゃあ別にいいじゃねぇか。ってゆうか何が言いたいんだよ?」
なんか話がズレそうだったので、俺は秋本に聞いた。
「森くんが何で今まで女性と縁が無かったか少し分かった気がする。」
「やっぱりアニメとプロ野球が好きなのが原因か?」
この前サクラとして参加した合コンで大不評だった俺の趣味だった。これ否定されるとやっぱりちょっと悲しい。
「私も時々アニメ見るし、ジャイアンツ好きだから別にそれはいいの。」
「じゃあ何なんだよ?」
「森くん、多分あなたに隙がないからよ。」
はて、予想外の答えが帰ってきたぞ。隙ってなんだ?
「俺は至って普通にしてるつもりなんだが。」
「だから余計にタチが悪いのよ。君ほどイケメンで頭良くて、運動神経がいい男は女性から見れば、完璧過ぎてどう接していいか分からないわ。普通の女性は目の前で変な事できないと思って神経をすり減らすと思う。」
「それは褒めてんのか?貶してんのか?」
俺は今まで女子と接するときは変な気を使わず至って普通に接していたつもりだ。まぁ、喧嘩したこともあったけど。
「勿論褒めてるわ。だけど、多分森くんと一緒にいる女性は自分の無力さを痛感させられて悲しくなると思う。この人に自分は釣り合わないってね。」
そんな風に思われていたのか、俺?別によっぽどバカじゃない限り俺は貶したりしないけどな。
「後、美男美女は何もかもハードルというか期待値が高くなるの。だから一つでも残念な部分があると大減点されるわ。アニメが好きな女性なら喜ぶけど、興味がない女性からすれば、イケメンのオタク趣味は一発アウトなの。」
だからこの間の合コンであんだけ大不評だったわけね。なるほど、少し分かった。秋本の話が事実ならば俺は勝手に期待されて、勝手にガッカリされていたことになる。でも、こればかりはどうしようもないじゃないか。
「俺は自分の趣味を否定しないし、やめるつもりもない。」
「うん、それは森くんのいい所だからそのままでいいわ。じゃあ、私休憩終わりだから。とにかく頑張ってね。」
秋本はそれだけ言ってさっさと休憩室を出てしまった。一人残された俺はジュースを飲みながら少し考えていた。自分のルックスに自信満々でいたらいたでナルシスト扱いされるし、否定すれば自身の無いネガティブ男の烙印を押されてしまう。
「女心って本当に分からない…。」
そう呟いた俺。こんなんで本当に将来素敵な人と出会って結婚など出来るのだろうか?
「まぁ、いいや!その時はその時だ!とにかく自分を大切にしよう!」
自分を大切にできなければ他の人も大切にできないと誰かが言っていた気がする。とにかくそれだけは忘れないようにしよう。考えているうちに休憩時間が終わり、俺はバイトに戻った。
こんにちわ。
最近いくら寝ても疲れが取れません(T_T)
久々に拓人くんのバイト先が出てきました。
色々と考えさせられるような回だったと思います。
この秋本の意見が次回以降拓人くんの恋に影響していくのか?
今後もお楽しみ下さい!




