第27話 幼馴染は正義?
こんにちわ!
4月最初の投稿です!
「タクちゃん、早く早く!」
「待てよ、そんなに急がなくてもまだ時間あるだろ!」
ごきげんな様子で俺を急かす寶藍に連れられて、俺たち二人は今、昼飯を食うために移動していた。と言っても今日は学食ではない。ここは教職員の部屋などが沢山ある通称『教授棟』と言われる建物だ。そこの五階まで行き、とある一室に辿り着き、俺はそこをノックする。
「どうぞー。」
中から声が聞こえてきて、俺達はドアを開けて中に入った。
「おお、拓人氏、寶藍氏!アニョハセヨ!」
「アニョハセヨ、朴先生!」
「선생님,안녕하세요(先生、こんにちわ)!」
俺達が挨拶したのはここの大学の教授で韓国出身の朴英秀先生。眼鏡がよく似合う中年の男の先生で、主にアジア経済や政治、観光業等を教えているが、俺が受けている第二外国語の韓国語も担当しており、一年の時から結構仲がいい。寶藍もよく俺と一緒に韓国語の授業に顔を出しているが、そこで先生と打ち解けた。
「二人共よく来たね!まぁ、座って座って!」
「「はい!」」
先生に言われて、俺達は椅子に腰掛け、持ってきた昼食を食べ始めた。因みに俺は豚カツ弁当、寶藍はカルビ弁当だ。
「いやあ、今日はいい天気だね!こんな日は授業するよりも京都へ観光に行きたい気分だ!そうだろう、拓人氏?」
「ハハハ、本当にそうですよね!」
「寶藍氏、風邪を引いたって聞いたけど、もう体調は大丈夫ですか?」
「見てのとおりです先生!すっかり治りました!タクちゃんのお見舞いの品のお陰で!」
先生は相変わらず明るい様子で俺達に話しかけた。寶藍の方も風邪は完治したみたいなので、いつも通り元気だ。
「そういえば寶藍氏と拓人氏は幼馴染でしたっけ?」
「はい、そうです。」
先生に聞かれて俺は答える。
「寶藍氏が日本の幼稚園にいて、そこで拓人氏と知り合ったと。」
「そうなんですよ先生!運命の出会いです!」
寶藍は隣にいる俺の腕を掴みながら笑顔で答える。ってゆうか運命の出会いって…ちょっと恥ずかしいわ。
「なるほど。拓人氏は韓国に行ったことはありましたっけ?」
「いや、俺まだ一回も行ったこと無いんです。」
先生の質問にそう答えた俺の横で、寶藍も口を開く。
「ええぇ、じゃあ行こうよタクちゃん!南大門やソウルタワーで観光したり、蚕室球場でツインズの試合も見よ!楽しいわよ!」
「まぁ、俺も一回は行きたいんだけどな。」
高校のときのホームステイを含めて俺は今までの2回海外に行ったことがある。高2の時に行った台湾への修学旅行だ。暑かったけど食べ物は美味しかったし楽しい修学旅行だった。韓国も一度は行きたいかな。
「拓人氏、よかったら韓国に交換留学に行ってみたらどうですか?君の成績と語学力ならまず問題ないでしょう。」
「それがいいわよタクちゃん!ソウルの大学ならうちの家族にタクちゃん会わせられるし、パパもママもお姉ちゃんも喜ぶわよ!ああ、なんで私女子大入っちゃったんだろう?共学だったらタクちゃんと一緒になれたかもしれないのに!」
朴先生と寶藍が俺に留学を薦めてきた。うちの大学は留学生が多く、海外に提携校も沢山あり、毎年多くの学生が留学している。韓国の大学も提携校の中にあったはずだ。でも欧米より費用はかからないとは言え、留学費用も安いもんじゃないから正直悩むな。
「そういえば寶藍、お前の家族は元気なのか?」
「もちろんよ!この前Skypeで連絡したときも元気だったわ!」
「そうか、良かったな。」
寶藍が日本にいた時、お互いの家族が仲良かった事もあり、俺はよくこいつの家に遊びに行っていた。お父さんやお母さんもいい人だったし、お姉さんもよく俺と遊んでくれた。今はどうしているのかな?すると外からノックの音が聞こえてきた。
「はーい、どうぞー!」
先生がそう言い、ドアが開いて誰か入ってきた。
「アニョハセヨ、先生!」
そう言って入ってきたのは…。
「おお、有希子氏!アニョハセヨ!」
有希子先輩だった。そういえばK-POP好きで韓国語取ってたとか言ってたな。この前のアレの影響もあり、少し気まずい。
「あらァ、森君にボラムちゃんじゃない!」
「こんにちわ、先輩。」
「どうも。」
俺と寶藍は先輩に挨拶する。
「有希子氏、イギリス留学の準備は進んでますか?」
「はい、もう楽しみで仕方ありません!」
「そうですか。それは良かったな。」
有希子先輩の方はいつもと変わった様子はなく、今日も笑顔が輝いていた。
「森君!」
「なんですか、先輩?」
「はいこれ!」
先輩はそう言って俺にペットボトルのお茶を差し出してきた。
「あ、どうも。」
俺は出されたお茶を飲んだが…。
「関節キッスー♡」
「ング!ゲホゲホ…!」
いきなりそんなこと言われて俺は思わず噎せてしまった。
「な、何なんすか先輩!」
「アハハ、相変わらず森君は面白いね!そーゆー所も大好きだよ!」
先輩は笑いながらそう言ったが、隣の寶藍は急に不機嫌そうな目で先輩を睨む。
「随分タクちゃんと仲がいい様子ですね、有希子先輩。」
「だって森君は私の大のお気に入りだもん。あなたと同じでね!」
寶藍の発言に対し、笑顔で返す有希子先輩。だけどその目は少し挑発的な感じがした。
「いやあ、皆さん仲が良くていいですね!学生時代の出会いというものは大事ですよ!それを忘れずにね!」
「「「はい!」」」
朴先生に言われて俺達は返事をする。とは言っても寶藍と有希子先輩の間に火花が散ってるように感じるのは気のせいだろうか?そんなこんなで俺達は昼飯を食いながら楽しく談笑し、先生の部屋を後にした。
「タクちゃん、韓国行く件考えといてね!あんたならきっと大丈夫だから!」
「ああ、そうだな。面白そうだしね。」
寶藍に対して俺はそう返事をした。韓国かぁ。まぁ、日本から近いし、行ってみようかな?
「ところで森君、やっぱり考えは変わらないの?」
前を歩いていた有希子先輩がいきなり聞いてきた。
「…付き合う件ですか?」
「そうよ。言ったでしょ?私は簡単に諦めないって。」
先輩が真剣な顔でそう言う。すると横から寶藍が口を出してきた。
「無駄です、諦めてください。これ以上タクちゃんを誘惑したら先輩でも許しませんから。」
「寶藍ちゃん、あなたには聞いてないんだけど。」
有希子先輩は鋭い目で寶藍を睨みつけ、寶藍にドスが効いた言葉を投げつけた。
「で、どうなの?」
「う~ん、何度も申し訳ないですけど、やっぱり俺、今は彼女とか…そういうのはいらないです。」
俺はそう答えた。すると寶藍が横で何か呟いた。
「それはそれで…ちょっと困るんだけど。」
「え、なんだって?」
「あ、いや!なんでもないわ!とにかく、タクちゃんもそう言ってますし、これ以上変なこと言って困らせないで下さい!」
寶藍はなぜか顔を赤くしてそう言った。そして先輩は溜息をつきながら口を開く。
「ねぇ、ボラムちゃん。あなたは森くんの何なの?」
「幼馴染ですけど何か?」
「そう、ただの幼馴染…ね。じゃあ別に森くんが誰と付き合っても文句無いわよね。」
「ちょっ…何なんですか?」
有希子先輩の言葉に寶藍が少し焦っている。一体どうしたんだ?
「私は本気で森くんの彼女になるつもりよ。幼馴染なら、大の仲良しに恋人ができたら喜べるわよね?」
「出来ません!タクちゃんは本当に素敵な子です!貴方みたいなおちゃらけててふざけた女の人が彼女になるなんて喜べません!」
寶藍は段々とヒートアップしながら有希子先輩に言い放つ。しかし有希子先輩は全く臆した様子はない。
「随分言ってくれるわね。じゃあ自分が森くんに一番相応しいとでも言いたい訳?」
「そうですよーだ!ブランクはあるけど私とタクちゃんは幼稚園のときに三年間の付き合いもありまーす!家族ぐるみで仲もいいでーす!タクちゃんの両親も公認済みでーす!1年半しか付き合いがない先輩に入る隙間はありません!残念でしたー!」
寶藍も寶藍で有希子先輩に対し、喧嘩腰で言い返す。これは止めないとやばいぞ!
「ちょっ、有希子先輩。これ以上火に油を注ぐようなことは言わないでください!寶藍もいちいち挑発に乗るな。みっともないぞ!」
俺は静止したが二人が静まる様子はない。
「私だって森くんの面倒見たし、相談に乗ったこともあるわ!ねぇ、森くん?」
「まぁ、たしかにそうですけど。単位とか、学生生活の送り方とか教えてくれたことには感謝してますよ。」
俺が先輩にそう答えると寶藍もそれに応戦した。
「ふーん、そうですか?でも所詮その程度ですよね?私は小さい頃からタクちゃんを理解してます!だからいざとなった時の信頼関係は誰にも負けませんから!最後に勝つのは幼馴染ってことを思い知らせてあげますよ!」
寶藍は俺の腕にしがみつきながら誇らしげに有希子先輩にそう言った。
「あっそ。せいぜい頑張んなさい。私も負けないから。じゃあ、See you again!」
有希子先輩はそれだけ言って先に授業へと向かった。やれやれ、折角のランチタイムがとんだ修羅場になってしまったよ。
「タクちゃん!」
「ん、どうした寶藍?」
「私、頑張るから!もっと魅力的になれるように!」
「ん、俺は十分お前を魅力的だと思うが。」
俺は正直そう思っている。気が強くて怒りっぽく、幼稚な部分もあるけどそれも寶藍のいいところだ。そう言うと寶藍は顔を紅くしながらニコリと笑い…。
「そう?ウフフ、ありがとう!」
「あ、もうこんな時間だ!行くか!」
「うん!」
授業の時間が近づいていたので俺達は急ぎ足でそれぞれの教室に向かった。しかし、この件に関してはまだ終わりが見えず、俺は相変わらず不安に思ったままだった。
こんにちわ!
4月になりましたが、まだ少し肌寒いですね。
しかし、今回の有希子と寶藍のバトルは熱かったですが(笑)
でも仲がいい幼馴染の結束の強さは本物であると作者も思っています!
それではまた次回で!




