第22話 悩ませないで!
前回、まさかの告白を受けた拓人君。
果たして有希子の真意とは…?
今の俺の状況。昼に発見した手紙に書かれた場所、時間の通りにしてみると、いきなり本仮屋ユイカに似た女の先輩に目隠しをされ、告白を受けている状況だ。同じクラスの女子、岡村綾子のいたずらだと思っていた俺は懲らしめる気まんまんだったのに、予想外すぎる場面へと遭遇してしまった。一体どうなってんの?教えて!
「コレって何かの冗談ですよね。」
俺は綾瀬先輩に真顔でそう言った。よく考えたらおかしい事が多すぎる。先輩とはよく話すが、何か惚れられるような事をした覚えはない。
「警戒しすぎよ、森君。冗談だったらとっくに『うっそー!』って言って森君を弄ってるわよ。」
綾瀬先輩はあくまで冗談ではないと主張する。そして俺はもう一つの可能性に掛けた。
「彼氏にしろって言うのは俺に彼氏の振りをしてくれって事ですか?好きでもない男にアタックされて諦めてほしいとか、そういう事ですよね?」
正直そうであって欲しかった。それならば納得いくし、その男を諦めさせれば全てが終わる。だか、そうではなかった。
「違うわよ!本気で私は森君の彼女になりたいって言ってんの!何で分かんないの!」
先輩はさっきまでのおちゃらけた雰囲気ではなく、明らかに苛ついた様子で俺に言ってきた。え~、違うの?
「分かんないですよ!俺、別に先輩に惚れられるようなことしてないし、どうしても納得できません。それに、今まで誰一人女性から相手にされなかった俺のどこがいいんですか?」
そう、俺は自分でも分かる通り、本当にモテない。この間の合コン(サクラだったけど)でも分かる通り、イケメンアニオタと言う女性が最も残念に感じる人種だと言う自覚はある。ましてや、綾瀬先輩は美人で勉強ができて、男女ともに人気がある学科のアイドル的存在だ。その人が俺みたいな男を好きになるなんて俄には信じられない。
「森君は鈍い、鈍すぎるわ。あの時助けてくれたのを忘れるなんて…。」
先輩は悲しそうな顔でそう呟いた。こんな先輩見たことない。にしてもいつ俺は先輩を助けたんだろう?
「ごめんなさい、本当に身に覚えがないです。いつの事ですか?」
俺は先輩にそう聞いた。すると先輩は溜息をつきながらも詳しく話してくれた。
「まったく…。あの時よ。」
それは昨年、当時有希子が2年生で拓人はまだ入学したばかりのことだった。そもそもの出会いは、新入生のオリエンテーションだ。当時の拓人達新入生が受けていたオリエンテーション。その先輩アシスタントの一人が有希子だった。元々成績が良く、明るくて親しみやすい人柄を買われての抜擢だったが、有希子も皆に学園生活を満喫してほしいと思い、快く引き受けた。そして、オリエンテーション当日。場所は奥多摩にあるホテルで1泊2日で行われた。到着し、授業や履修方法に関する説明を新入生にした後、夕食後にクラス別に交流会が行われたのだ。その時有希子は拓人のクラスを担当していた。交流会はクラス毎に大部屋に集められ、自己紹介を中心に講師陣や先輩学生と新入生との相互理解を目的に行われる。
「みんな!改めて入学おめでとう!私は人文学部国際教養学科2年生の綾瀬有希子です!出身は千葉県浦安市で良く近所のディズニーランドに行きます!分からないことがあったらなんでも聞いてね!」
有希子も自己紹介する。そして新入生達の番が来て彼らもさ次々と自己紹介をしていった。
「じゃあ次の人、お願い!」
有希子がそう言うと、背が高く顔立ちが非常に整った男の子が立ち上がり、自己紹介をした。
「皆さんこんばんわ!森拓人です。東京都日野市出身。趣味はマンガ、ゲーム、野球観戦でスワローズ大好きです!これからみなさんと仲良くして、楽しい学園生活を送りたいので宜しくお願いします!」
そう自己紹介を終えた拓人を有希子は(カッコイイ子だな!性格も良さそうだし、後でいっぱい話してみたいかも。)と思いながら拓人を見ていた。そして全員の自己紹介が終わって、フリーの交流タイムになった時、有希子は真っ先に拓人の所に行った。
「やぁ、森拓人くんよね!私、綾瀬有希子!宜しくね!」
「初めまして!綾瀬先輩ですよね!僕は森拓人、みんなからはモリタクって呼ばれてます!」
「アハハ、そうなんだ!ところで森君、かっこいいね!彼女とかいるの?」
「いないですよ!人生でモテたことがないです。」
「え~そうなの?もしかして、アニメ好きすぎてこじらせてる感じ?」
「どーですかねぇ?」
「折角だし、ここでナンパしちゃえば?可愛い子いっぱいいるし!」
「ば…馬鹿な事言わないでくださいよ!そ、そんなことできる訳…。」
「な~に紅くなってんのよ。可愛いなぁ。」
「ここでナンパとか恥ずかしいじゃないですか?」
「何よ。もしかして男のほうが良かった?」
「違いますよ!」
「大丈夫よ!ホモでもイケメンなら株はすごく上がるから!」
「だから違いますってわ!」
「ウフフ、ムキになっちゃってぇ。怒った顔もイケメンだよ♡」
これが最初の弄りだった。その後も有希子は拓人に合うたびにジョークを言っては拓人の反応を楽しんでいた。そんなある日、事件は起こった。有希子は自身が所属している英会話サークルを終え、千葉県内の自宅に向かおうとしていた時だった。時刻は既に夜の七時を回っていた。席が空いていたのでそこに座ると、その直後にスーツを着た中年男性が隣に座った。
「なぁ、姉ちゃん。1人?よかったら俺と一杯付き合わない?」
男性は有希子にそう話しかける。しかし有希子は…。
「嫌です!早く帰りたいので!」
そう言って席を男性から離れようとした有希子だが、男性は有希子の腕を掴み、自分の所に引き寄せようとする。
「冷てえな!いいじゃねぇか。なぁお願いだよ!」
「やめて下さい!」
有希子に抱きつき、更に詰め寄ってくる男性。有希子は今にも泣きそうになりながら必死で男性を引き剥がそうとした。するとそこに…。
「あ、先輩ー!」
近くにいた拓人が有希子に気づき、彼女のもとに駆け寄った。
「森君…。」
「どうしたんですか?ところでこの人誰?」
拓人が男性を見る。すると男性は「チッ!」と舌打ちをしてその場から離れていった。
「ん…?何だ?」
拓人は訳が分からないままその場に立っていたが、有希子はタクトに抱きついて…。
「森君…。う、うわァァァン!ありがとぉ!」
「な、え?!どうしたんですか先輩?!」
有希子はひと目もはばからず泣き出した。そしてこの状況を、救ってくれた拓人はまるでヒーローのように感じていた。
「ということよ。思い出した?」
「それは分かったんですけど、俺何もしてないじゃないですか。」
「でもあなたがいなかったら私はもっと酷い目に遭っていたわ。それに、女の子はそういうさり気ない優しさに惹かれるものよ。」
俺はその状況をよく覚えている。だけど、それだけで先輩が惚れるなんて全く考えもしなかった。
「とにかく、私はその時からあなたの事を好きになっていたの。君、こんなにカッコイイのに全然モテた様子がないからしばらくは泳がせても大丈夫、そう思ってた。だけど、ボラムちゃんとステイシーちゃん、あの二人が現れて私は決めたわ。どっちかに取られる前に告白しようってね。」
「なんで寶藍とステイシーが出てくるんですか?別にあいつらとはただの友達ですよ。」
そもそも取られるって何?まぁ、確かにあいつらはよく痴話喧嘩してるけど。
「全く…。鈍感なのが幸なのか不幸なのか…。とにかく、森くんのこと好きになっちゃって…私の彼氏になって欲しいの!」
先輩の目はいつものようにおちゃらけた感じではなく、凄く熱い思いがこもった真剣な目だった。このまま誤魔化してズルズルいくよりは、この場でハッキリ言ったほうがいい。そう思ってた俺が悩んだ末の決断は…。
「ごめんなさい、無理です。」
勇気を持って、正直にそう話したのだった。
こんばんわ!
少し長かったですが、拓人と有希子の出会いを書かせてもらいました。
拓人君、結果的に断ってしまいましたが、これが今後どう出るか?
続きは次回です!
お楽しみに!




