第8話 家族水入らず
前回ステイシーをお出かけに誘った拓人君。
一体どこに何をしに行くのでしょうか?
今週も授業が終わり、土曜日になった。
ほとんどの学生が遅くまでぐっすり寝ているだろう。ただ、そんな中俺は朝早く八王子駅にいた。時刻はまだ朝の5時前。まだ4月下旬なので日は出ていないし、少し肌寒い。まだ誰もいない駅の改札内で俺は人と待ち合わせしていた。その人とはもちろん…
「お、来たか!おはようステイシー!」
「Good Morning!タクト!」
「悪いな、こんな朝早く待ち合わせで!」
「いいの!タクトと一緒なら全然構わないわ!」
ステイシーはそう言いながら俺に抱きついてきた。なんかもう、慣れてきた気がする。
「それじゃあ、行こうか!」
「うん!」
俺達はそのままホームに向かい、電車に乗り込む。土曜日の早朝なので人はほとんど乗っていない。
本来ならうちの車で俺が運転して行きたかったが、今日は親父に急遽仕事が入り、車を使うことになったので電車にした。
「タクトとデートなんて初めてじゃない?」
「そういえばそうかもな。」
俺がシカゴ留学中は確かに遊んだこともあるが、大抵家族や友達と一緒で、二人で出かけたことは無かった。
「タクト!」
「何?」
「何で私より先にボラムとデートしたの?」
ステイシーが目を吊り上げて俺に質問してきた。
「う…あれはあいつがたまたま予定なくて、チケット一枚余ってたから誘っただけだ。」
「家に泊めて一緒に寝たりしたのに?」
「そ、それは…」
「私が予定あったスキを突いて、そんな真似するなんて…」
「いや、そういう訳じゃなくて…」
そう、俺達が神宮球場へ出掛け、寶藍を家に連れて行ったその日、ステイシーは仲良くなった英語科の女子学生達とディズニーシーへ出掛けていた。なぜステイシーが俺達のデートの事を知っているかというと、その翌日に寶藍がFacebookに写真とその日の出来事を投稿したことでバレた。ステイシーは怒り、寶藍もそれに応戦し、まさに修羅場状態で収めるのが大変だった。因みにその寶藍は今日友達と多摩動物園に行くと言っていた。
「まぁ、これから面白い所に行くんだからもう気にするなよ!」
「気にしてないわ!だから今日は一緒に楽しみましょう!家族水入らずで!」
俺達はそのまま八高線で東飯能へ向かい、そこから西武線で西武秩父、そこから更に秩父鉄道で目的地である三峰口駅まで向かった。三峰口駅についた頃にはもう朝日が登っていた。
「あら、キレイなところじゃない!」
「そうだろ!でもまだお楽しみはこれからだ!」
駅を降りて、俺達は本当の目的地である三峰山を目指した。三峰山は埼玉県秩父市にある山で、妙法が岳、白岩山、雲取山の3つの山からなる。かつてはロープウェイで山頂まで行けたが、現在は廃止されているので、歩き、または路線バスで登るしかない。前回ステイシーが静かな場所をリクエストしたので、自然があり、空気が綺麗なところがいいと思ったのでここをリクエストした。土曜日というだけあり、朝にも関わらず観光客が結構いる。
「私、ずっと都会のシカゴで育ったから、こういう静かな所、憧れてたの!」
「まぁ、気持ちは分からんでもないな。俺は田舎育ちだからもっと賑やかな場所に憧れてたこともあるし。」
隣の芝生は青く見えると言うが、みんな案外そうかもしれないな。すると前を歩いていた若い男性グループの声が聞こえてきた。
「おい、見ろよ!後ろの外人の女の子メッチャ美人じゃね?」
「どれ?うおっ!ヤバっ!超キレイ!」
「でも男連れじゃん!」
「う…悔しいがメッチャイケメンだな!」
「くそう、どうすればあそこまでイケメンになれるんだ!」
「羨ましすぎる!」
褒められてはいるが、どうしてこんなにも恥ずかしく感じるのだろう?ステイシーは俺の腕にしがみつきながらニコニコ笑顔で俺の横を歩いている。
「ステイシー、登山とかしたことあるか?」
「う~ん、ないわね。」
「分かった。足が痛くなったら遠慮なく言ってくれ。その都度休憩を挟むから。」
「ありがとうタクト、でも大丈夫よ!アタシは結構体力あるから!」
「そうか?でも無理はするなよ!」
「心配しすぎよタクト!でも気を使ってくれる優しいタクトが好きぃ♡」
ステイシーは俺にニコニコしながら抱きついてきた。本日二回目。すると!
「おお、兄ちゃん!朝から熱いねぇ!」
ご年輩の男性四人組の内の一人が話しかけてきた。恐らく仲間でこれから登山を楽しむのだろう。
「いやぁ、こいつはいつもこうなんです。」
「羨ましいぞ!こんな美人な外人さんと一緒に登山なんて!姉ちゃんどこの人だ?」
「アメリカです!」
「ハハハ、そうか!日本の山を楽しんでくれ!」
「二人共!良い一日過ごしな!」
「はぁ、ありがとうございます。」
四人はそのまま俺達の先を行った。
「タクト、そういえば山の上には何かあるの?」
「それは着いてのお楽しみ!」
「え~…」
俺達二人は頂上を目指し、そのまま登山口へ入った。
「着いたぞ、ステイシー!」
「Wao、てっぺんにこういう物があるなんてさすが神秘の国日本だわ!」
到着した場所は三峰山のシンボル的存在、三峰神社である。ここは狛犬ではなく、狼が祀られているのが特徴だ。恐らく今は無きニホンオオカミだろう。いや、生き残っているかもしれないが。俺は昔家族で何回かハイキングに出かけたことがあるし、普段から坂道が多い場所で暮らしているので、足腰には自信がある。だから山頂に着いたときもあまりバテなかった。意外なのはステイシーで、登山が初めてなのにも関わらず、登っている間はバテるどころかずっと楽しそうにはしゃいでいた。さすが高校時代チアリーダーをやっていただけあり、身体能力は高かった。
「鎌倉以外にもこういう所があるなんて感動だわ…」
「日本にはこういう所がいっぱいあるぞ。ここは神社も見れて、森林浴もできるから結構マイナスイオンを吸収できるんだ!どうだ、こういう所?」
「ありがとう、タクト!最高だわ!大好き!」
本日三回目のステイシーのハグを頂き、俺達は神社の周りを散策し、その間にお昼の時間になったので、食事にすることにした。
「ジャーン!どうだ?ステイシー!」
「すごいわタクト!もっと好きになっちゃいそう!」
今回は俺が昼食を作って持ってきた。おにぎりとサンドイッチ、唐揚げという結構シンプル且つ鉄板なものだったが…
「美味しい!タクト、凄く美味しいわ!」
「そうだろう?おにぎりと、サンドイッチの具材、唐揚げは手作りだ!結構自信あるよ!」
小学校の頃、俺はよく母親の料理を手伝っていた。当時うちの母はまだ会社務めをしていて、いつも疲れて帰ってきたから、俺も助けになりたいと思い、隣でサポートしていた。そうしていく内に、自分でも料理ができるようになっていた。
「絶対にいい旦那さんになるわ!」
「ありがとう!」
旦那さんかぁ。自分が誰かの旦那になるなんてまだちょっと想像できないな。
その後俺達は昼食を食べ終え、ビジターセンターで少し展示を見た後、奥宮を目指すことにした。
だが、この時はまだ、俺達に災難が降りかかるなんて想像もできなかった。
ステイシーとのデートは秩父でした!
筆者も昔行ったことがあるのでまた行きたいです。
それにしても、料理まで出来るなんて拓人君すごいですね!
さあ、次回は後編です。
内容は…まだ秘密です。
お楽しみに!