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起き上がって腹に刺さっていた黒い傘を引き抜く。




立ち上がり、吹き出す血液に足を滑らしながら歩きだした。






凛は吹き飛んだ黒い少女を獣のように息を荒くして探している。




唸って手足を振り回すと、その動きだけで風が起こり、近くの森の木々がざわめいた。





黒い少女は空に浮いていた。




肩の下あたりを手で押さえ、額からは一筋、血が流れ落ちている。





深手ではないようだが、痛みに表情は曇っていた。





「……皐月……」




黒い少女がつぶやく。





「その名前は呼ばないでいただけますか?スミレ様」





僕がしゃべる。





「やっと出たな……観月!」





黒い少女は夕焼け色の目をカッと見開いた。





「兄さん!」





凛が気づき、抱きついてくる。




僕の血で凛の髪や顔があっという間に濡れた。





「兄さん!兄さん!」




傷口にグリグリと凛は額を押しつける。



僕は凛の頭を撫でた。





「………狂ってる……」





黒い少女はふっと目を細め、唇を歪めた。




「レイは?」




僕がしゃべる。




「………」




黒い少女は歪めた唇を真一文字に引き締めた。





「後始末に追われて大変ですよね。なんせ、将軍、首相、スポンサー、戦争に欠かせない人物の大半がクエンジーで死亡した……責任をとるにもどうとればいいのか、誰にそれを示せばいいのか……」





僕は凛の頭を撫でた。





「……それが狙いだったんだろ?」




「結果論です。本当の狙いはイーニド様の計画を潰すことだったんですよ?スミレ様」




「それも聞いた……レイ様はずっとそのことで悩んでいたのだ。でも、でもな観月!おまえはその計画も利用して皐月を、伝書鳩を、関係ない魔法医師の命を弄んだ!」




黒い少女は叫ぶ。




夕焼け色の目がまたごうごうと怒りで燃えだした。





「あなたの愛する男の母親はもっと命の尊厳を手玉にとっていたのに、スミレ様、あなたは黙認していたではありませんか?」





「……っ」




「ひどい魔法使いだ。命の共有?あれは違う。自我を殺し、生きることしかできないようにした人形使いだ。だから私はこの魔法医師に妹の魂をあげたんですよ」




「都合よく言うな!皐月を暴れさせたのも計画の内だったくせに!妹を……実の妹をよくもあんな目に……」




「スミレ様、あなたは何もわかっていない。だからわーわー騒がないでもらえますか?」




「っ!」




黒い少女は撃たれたように頬をひきつらせ、夕焼け色の目に涙が満たされる。





「世界を終わらせるより、どんな方法でもいいから大事な人をまもりたかった。レイも私もただそれだけだった。それだけだったんです。だから妹の魂を移すのをレイは納得してやってくれた」







「………」




「スミレ様、あなたはもちろんレイの大事な人なんですよ」




黒い少女が呆けた表情で涙を次々と頬に滑り落とした。







「……スミレ様、私たち兄妹は複雑な関係でした。でも、答えはいつもシンプルで、ただ大事なんです」




赤い目の男女が何回も自殺を試みた回想が駆け巡る。



その度にお互いがお互いを諦められずに自殺は未遂で終わる。




「皐月……いや、その魔法医師はちゃんと育っているのか?魂といっても一部だろ。イーニド様にばれずにするなんて……それにレイ様は共有魔法が不完全だから」




涙を拭い黒い少女が凛を空から見下ろす。




「……ええ、確かに、全ての魂は無理でした。不完全です。情緒も不安定で、中身は子供……でも、伝書鳩の少年に魔法医師の女性は呪いをかけてくれました。だから少年は凛をしばらくは手離せないでしょう」





「呪い?あの呪い?」




「いえ、怪我とか病気の方ではなく、怨恨の方で……」




「怨恨?」




「かわいらしいものです。口づけをした相手が誰であっても自分を思い出す……」




「口づけって……」



黒い少女は苦い顔をする。




「伝書鳩の奴の記憶は消してるんだろ?詳しくはわからないが、そうしないと今頃、伝言魔法だけ抜き取られて処刑されてるはずじゃないのか?」





「もちろんです。統括本部にも報告済みです。思い出せるのは凛、という名前と少しの心情だけ、問題ありません」




「そうか……さつ……その、凛と一緒に行動することは許可はおりたのか?」





「ええ。凛は言葉がでませんから」




「………どこまで見越してやってるんだか……やっぱりおまえ、最低だな」




黒い少女は乾ききったため息を盛大に吐いた。




「男は自分がいないと生きていけない女のために生きたい生き物なんです」




「……ばか」








「はい……」






黒い少女は空からふわりと地面に着地して、居心地悪そうに僕らをちらりと見た。





「そろそろ傷が完治します。スミレ様お元気で、ごきげんよう……」




「観月!」




「はい」



「……いや、レイ様のことは私がついてるから、心配いらないからな」





「私のたった一人の大切な友人です。どうか、よろしくお願い致します」




凛を少し身体から離し、深く頭を下げた。





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