80
それから僕達は本当の兄妹のように過ごした。
一緒に寝て起きて、食べ物を見つけ、一緒に食べる。
疲れた時は一緒に休み、楽しい時は一緒に笑った。
兄妹といっても実際は僕の方が年下だと思うけれど、あいかわらず「兄さん」と簡単な擬音でしかしゃべらない彼女はあどけなく、幼かった。
たまにわがままを通そうと怒ったりもする彼女だけれど、僕がコミュニティーに入るときだけ、分かっているみたいにあっさりと手を振って見送ってくれる。
僕がコミュニティーから出てくると、魔法で飛んできて抱きついてくる。
「ただいま……」
「う~っ……」
僕を大事そうに見上げる彼女はこの上なくかわいい。
そして、仕事をこなす度に僕の持ち物は少しずつ増えた。
リュックもまた手に入ったし、彼女と僕の着替えも数着ある。
今日も僕が自分で頼んだのか覚えてないけれど、紙袋
を持たされていて、その中には女物の冬服が入っていた。
彼女とかつて公園だったらしい場所のベンチに腰を落ち着けて紙袋の中身を確かめた。
厚手のセーター、ズボン、毛糸の帽子が入っていた。
「あ、なんか手紙が入ってる」
僕は毛糸の帽子を喜ぶ彼女に微笑み、紙袋の底にあった封筒を開けた。
筆文字で、「孫の学生時代の服です」と、書かれてある。
あと、苗字なのか、楠瀬、と最後に書かれていた。
「う!」
彼女が僕の肩を叩く。
毛糸の帽子を被って、歯を見せて笑っていた。
「わ……似合ってるっ…なんか、君のために編まれたみたいにぴったりだ…」
彼女の頭に沿うように毛糸の帽子は編み目の模様が綺麗に伸びている。
計算されたように頭に被ると縮こまっていた編み目が小さな花をいくつも咲かせた。
彼女は僕の言葉に頬を赤らめて、唇を閉じる。
恥ずかしくなってしまったのか、帽子を脱ぎ僕の胸元に投げつけてきた。
「だめよ、せっかくもらった物なのに……大切にしなきゃ」
僕は帽子を彼女にもう一度被せ、咎めた。
「うぅ…兄さん……」
しゅん、と目を伏せた彼女は反省したのか帽子を自分の頭ごと撫でる。
「よしよし……よしよし……」
僕も一緒に彼女の頭を撫でた。
「……へへ」
彼女が恥ずかしそうに笑う。
「…………ねぇ、目を閉じて………」
僕の言葉に彼女はすぐに目を閉じた。
(だめだよ、すぐ閉じちゃ……)
僕はそうささやいて自分の唇を彼女の唇に重ねた。
ずっとこうしたかった。
━━━こうしなければいけなかったのだ。
彼女も嫌がるでもなく僕を受け入れ、唇を遠慮がちに押し返す。
「………さあ、行こうか」
僕は荷物をまとめ、立ち上がった。
てきぱきと動く僕に戸惑ったのか、彼女はうろたえ後を必死に追う。
「あ、そうだ。君の名前、ずっと考えてたんだけど、りん、はどうかな?」
急に立ち止まって彼女を振り返った。
彼女が拒んでも絶対にこの名前をつけてやる。
りん……凛……
僕は涙を必死でこらえ、凛に笑顔を見せた。
凛…は真っ赤な目をぱちくりとさせ、僕の異変に気づいているようだった。
不安そうに僕の様子をうかがう。
「凛…凛…」
名前を呼ぶ度に、頭に心に鮮やかな感情が広がる。
「う~う~」
不意に凛が空を指さした。




