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木漏れ日が瞼にかかって、その熱とまばゆさに僕は眠ってしまっていたことに気づく。






すっかり空は青空で、でもここは木々がうっそうと生えているので薄暗かった。



どうしてか、僕の瞼を照らしていた木漏れ日はどこにも見あたらない。






地面に視線を落とすと、女の人が二人並んで寝ていた。





「え?え?……」




僕は戸惑いながら立ち上がり、自分の格好にもびっくりする。



こんな服、初めてだ。




裾がひらひらとして股がスースーとする。



所々破れ、土と血で汚れていた。





「あの……大丈夫ですか?」





恐る恐る女の人に近づいて声をかける。





しかし、返事はなかった。





「……あの……」




僕はしゃがんで顔を確かめる。




「………」





手前の女の人は明らかに死んでいる。




時間が経っているらしく、陶器のような肌はとても静かだった。




もう一人の女の人の方に移動して顔を確かめる。





服も身体も血だらけだったが、とても安らかな寝息をたてている。




「……」





僕はそっと自分が居た場所へ戻った。




木の幹にもたれ、座り込む。



いつも通り、歩き回ってコミュニティーを目指していたはずだった。



でも、記憶が不自然に途切れている。




コミュニティーの中での記憶がないのはいつものことだけれど……もしかして、歩いていて突然、入ってしまったのか?





でも、この格好に、リュックも無くなっていて、女の人が倒れて一人は死んでいる………





なにかがあったらしいけれど、思い出せない。





「………」





生きている方の女の人が目を覚ますまで待ってみようか……




一瞬、僕が二人を傷つけたかもしれない、と思いつく。




もしそうなら…………





寒気をごまかすため、少ない唾を無理矢理に飲み込む。




「ん………う…………」





血だらけの女の人が身をよじる。





「あ、大丈夫ですか?」




僕は慌てて女の人の側まで四つん這いで近づく。




「……に…さん……」




「え?」




「………に…い…さん……」





兄さん?





「あの、大丈夫ですか?怪我の具合は?」





ゆっくりと起き上がろうとする女の人の背を支えようか逡巡する。




「うっ……」



傷が痛んだのか、女の人が崩れ落ちそうになった。




「あっ……!」




とっさに手を出していた。





僕の身体に背中を預け、女の人はつらそうに表情をゆがめる。



「どこが痛いんですか?」




僕の問いかけに女の人はうっすらと目を開けた。





真っ赤な目……深い赤すぎて黒に近い赤い目だった。





「……にい……さんの……」





女の人は僕を見上げると、安心したように微笑み、手を握ってきた。











女の人は「兄さん」と、しかしゃべらず、ただ僕を見て微笑むだけだった。

怪我は大したことはなかったらしく、僕が死んでいる女の人を、穴を掘る道具がないので落ち葉を大量にかけて葬るのを愉しげに手伝ってくれた。




もし、僕が二人を襲っていたとして、こんなに無防備に振る舞えないよな、と少しだけ安堵する。




「あの…これからどうしますか?」






落ち葉の山に女の人と並んで手を合わせた後、僕は訊いた。





「…ん?」





盛大に首をかしげて女の人は笑った。





「あなた、魔法使いですよね?僕は……魔法が使えません……だから……」






一緒に行動するなんて、無理です。





言おうとする唇が震えた。





「兄さん?」





笑ったまま女の人が僕の頭を優しく撫でる。





「……」





僕も気持ちとは裏腹に笑って見せた。



「兄さん!」





女の人が驚いたように喜んで僕に抱きついた。





「あっあの……」





戸惑い、女の人の身体を押し離そうとしたが、どうしてか抱きつかれた感触に覚えがあった。




柔らかい身体………




うなじの匂い……





知ってる……




僕は…この女の人を……知ってる……





見上げた木立が潤んだ。





わなわなと震える腕がゆっくりと女の人の背中を這い上がる。





最初はぎこちなく抱きしめ返す。




「んふふ……」





嬉しそうに女の人が僕の耳元で笑った瞬間、力一杯抱きしめていた。







僕は絶対、この人を離さない。





絶対に、何があっても、魔法使いでも、関係ない。





ぎゅっと歯を食いしばり、目を閉じる。



涙はもう出なかった。





確固たる決意は僕一人のものじゃない気がするほどに僕の道を明白にした。





僕はこれからこの人と生きていく。







ずっと孤独で不幸だと思っていた。




誰かが僕の傍に存在するなんて、想像もしていなかった。





でも、今、僕の腕の中にいる。





最後の赦しを乞うように僕は女の人の顔を見つめた。





「僕と、一緒に、ずっと……いてくれますか?」





女の人の目が一瞬、黄色く変わった気がしたが、僕は返事を待つのが怖すぎて、それどころではなかった。





「……ん」




女の人は笑ってちょこんと頷いた。



「は……っ……本当ですか?よかった……もう二度と離さないですよ?」




興奮が頭を突き抜け、女の人を僕は思いっきり揺さぶっていた。





「……む~むっ……」





女の人は困って僕にすがりつく。





「ご、ごめんなさい……」




頭を振り自分を恥じて、女の人を優しく抱きしめ直す。





「兄さん……」





うっとりと女の人は僕の胸の中で呟いた。




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