70
結界の天井付近まで浮くと、私の糧になる魔力達が呑気に歓声をあげながら盛り上がっていた。
皆、伝書鳩同様に浴衣を着て子供みたいに遊んでいる。
「これが葬式?」
鼻で笑う。
行灯の照らす元で小さな店が連なり、さっきまでいた場所とは別世界だった。
個々の人間達が同じ場所、同じ時、同じ高揚感を共有している。
私の共有魔法とは全然違ったやり方……
「…………」
こいつらも嬉しいのか?
息を大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
集中しよう……
母の記憶魔法を感じ、息子の結界魔法に包まれ、私は世界を終わらせる第一歩を踏み出すのだ。
伝書鳩に結界魔法をかけておく。
ことが終わったら見せてやらなければ、約束だから。
まだ、少しだけ、楠瀬凛な私がそうさせた。
私は目を閉じて自分の魔力を母の備蓄魔法と繋げ、さらになにも知らずに楽しんでいる人間達に一人づつ繋げた。
葬式らしきものがお開きになる頃には全員の魔力が空っぽだ。
静かに痛みもなく死ねるから
皆から順調に魔力を吸い取っていると突然店の一部が吹き飛んだ。
砕け散った物体は魔法なので破壊されると同時に細かい塵になり消える。
しかし、巻き添えになった魔法使いはもれなく地面に倒れこむ。
一瞬、あらゆる音が全て止まる。
そして、また一瞬後に悲鳴が何重にも響き渡った。
しかし悲鳴も長くは続かない。
大きな衝撃波が魔法使い達を吹き飛ばし結界に叩きつける。
絶命する者が数人いたらしく私の魔法が途切れてしまった。
「ちっ!」
私は衝撃波の元を目で探した。
「……皐月か……」
諦めたように納得する。
鬼のごとく我を失った赤い目が上からでもはっきりと確認できる。
皐月は幼い頃、今のように我を失い住んでいたコミュニティーを滅ぼした。
皐月本人はその時の記憶が一切無いようで、戦争のせいで両親と住む場所を失ったと観月が言い聞かせている。
兄妹がホテルクエンジーに流れ着いた時、観月の頼みで皐月の魔力を観月に還元できるよう手術した。
だから皐月が魔力を使っても観月がいつでも調節できるはずなのに……
よもや観月がそうさせているとはとても思えない。
彼が一番妹の罪を悔いているのだ。
「観月……」
私は観月の死を悟り唇を噛む。
皐月は魔力が尽きるか観月が現れない限り止まらない。
スミレが皐月の時を奪おうと必死で両手を組んで地面に膝まづいている。
皐月は辺り構わず拳を振り回し、空を切るだけで突風が起こり、その風はかまいたちのごとく全てを切り裂いた。
レイモンドは結界魔法を駆使しながらスミレを抱き起こし空間の外へと逃げようとする。
「レイっ……!!」
鋭利な風の切っ先が息子の足首をとらえそうになり私は考えるより先に魔力を放っていた。




