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ロビーへ降りて行くと、息子の空間魔法でその場所はいつもの何倍にも広がっていた。
中の様子は淡い乳白色の光で覆われて見えない。
クソババアの葬式か……
奥歯を噛みしめるとギリリ、と嫌な音が鳴った。
みんな、みんな私を許さなかった。
だから……私は誰も許さない。
光の膜に手をあててゆっくりと中に侵入する。
さすが息子なだけあって結界魔法が何重にも張り巡らされていたが、こっそり盗んでおいたレイモンドの組織を本体で舐める。
結界が私をレイモンドと認識して警戒を解いた。
中は見たこともない光景だった。
静謐、そんな慣れない言葉が自然と心に浮かぶ。
大きな家のような建物は人間の気配を拒むようにただ静かにそこにあった。
どこで葬式をしているのだろう……
建物の周りを歩いてみようとしたとき暗闇の奥から声がした。
「………しゅう…こ?」
「誰?」
私はいつでも逃げられるように身構えつつ声の主を見据えた。
狐の面に浴衣姿の少年らしき背格好の人物がこちらにゆっくりと近づいてくる。
少年は私の姿がはっきり見えたらしく、狐の面を慌てた様子で外す。
少年の顔を確認すると、この身体の持ち主の記憶が私に流れ込んでくる。
ああ……なんだ……伝書鳩か
私は怪しまれぬようこの身体の持ち主、楠瀬凛らしく振舞う。
伝書鳩は世にも幸せそうに楠瀬凛を見た。
涙でも浮かべているみたいに少年の瞳は揺らめく。
楠瀬凛のふりをした私は優しい気持ちになり伝書鳩に
私の一番の望みを問う。
伝書鳩は魔法が存在しない世界を望んでいた。
こんな偶然がある?
伝書鳩が望むことが私の望みに繋がっている。
世の中に偶然なんてないのなら、私が否定され続けたことも、それ故に計画したことも、目の前の伝書鳩が望んだことも、全てが結果に繋がっているとしたら、もう、やっぱり、絶対にこの世界は終わるんだ。




