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さっきからこのフロアに居るスタッフ達は、私が転んでも見向きもしなかった。
私は額に脂汗を浮かべ、ただ激痛がひくのを待つ。
鎮痛を促す魔力もまだ全然たりない。
痛すぎて、声もでない……
助けて……誰か助けて……
「大丈夫ですか?」
目だけで声の方を見上げると、赤い目の男が私に手をさしのべていた。
声を出そうとすると背中に痛みが走り、私は息をひゅっと吸い込む。
「……お待ちください……」
男は私の様子に魔力を発動し始めた。
「得意ではないですが、一応の処置をいたします……」
男が私の背中に手をあてると、痛みが幾分やわらぐ。
「あ……もしかして、麻酔魔法ですか?」
声を出しても痛みが響かない。
「はい」
にっこりと微笑む男の手を借りて私は立ち上がった。
「ありがとうございます」
私は壁にもたれ頭を下げる。
「いえ、でも、動き続けないとまた痛みが戻りますので……」
男は周りを見渡し、スタッフ達がこちらを見ていないのを確認すると、顔を近づけてくる。
「ここにいる者はロボットみたいなものですから…あまり気にしないように…」
声をひそめ男はそう言うと奇妙な表情をする。
まるで狐みたいな目も口もつり上がった笑顔だった。
「ロボット?」
「はい」
男が不意に私の胸元へ手を伸ばす。
「わっ……」
とっさに私は両手で胸を隠した。
着せられていた白いワンピースみたいな服のボタンが外れていたのだ。
もう少しで胸があらわになってしまうところだった。
「……びっくりさせてしまったみたいですね…失礼しました」
男はなぜか謝りながらうわの空で目線を明後日の方向へ寄せていた。
「あ、あの…」
私はどうしたのかとボタンを留めながら様子を伺う。
「ああ、すみません……」
男は完全に心ここにあらずで、私に目線を合わせずに立ち去ってしまった。
男の様子を思案する間もなく、再びアナウンスで歩くよう急かされ歩きだす。
もうあの激痛はごめんだった。




