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少年の声は異様だった。
何人もの人間が一斉にしゃべっている。
少年は完全に意識をなくしているのに、声が唇だけを別の意思を持ったように動かしていた。
私はその不気味さに息をのんだ。
気づけば頭上で魔力の糸が幾本も撚られていた。
目に見えるか見えないかぐらいの細い糸が出来上がると、針も無いのに少年の肩の皮膚に突き刺さる。
肩の傷の筋肉、神経、血管が正確に繋ぎあわされてゆく。
これほどの縫合技術は相応の設備と熟練の医師あってこそ実現できることだ。
魔法ではここまで繊細に糸を操れない。
腕がつながると、糸は消えた。
「よし……女、後は放っておけ……」
「でも、出血多量に内臓も損傷しています」
「……腕はとれそうだったので処置したが、あとは勝手に治る……この入れ物には保障魔法が潤沢にかけられている。今はランクBに下がってしまったが、溺れたり燃えたりしない限り、この入れ物は死なない……」
「でも……」
「……勝手にしろ……そのかわり、この入れ物に少しでも治癒魔法を使えば……女、おまえの魔力が尽きて自分にかけた治癒魔法が無効になるぞ……」
「………」
「あと……我々のことをこの入れ物に言うなよ……言ったら即座におまえは呪われる……顔が見えずとも我々はおまえをイメージできるからな……」
私の返事を待たず少年の唇が閉じると、それきり声はしなくなった。
少年の出血はいつの間にか止まっていた。
顔色も段々と元に戻ってきている。
傷口は開いたままなのにありえない……
まぶたや指先がひくひくと微かに動いて今にも意識が戻りそうだった。
私が声をかけると、少年は目を開けた。
黒い目は、とても澄んでいた。
汚れを知らない、無垢な闇……
私は傷口を縫合しながら少年に治癒魔法を使った。
どうせもう私は助からないことは自分が一番知っていたし、入れ物呼ばわりされた少年が不憫に思えたのだ。
誰がどういう経緯で少年に魔力と意思を潜り込ませたの知らないが、倫理観なさすぎで頭にくる。
我々と言っていた声のことは伏せつつ、少年に現状を説明する。
嘘がないとわかる素直な反応……
顔が見えるだけでこんなにも相手の気持ちが心に響くなんて知らなかった。
私がいてくれてよかったと、少年が言ってくれたことがすごく嬉しくて、それだけで全てが報われた気がした。
無性に少年を護ってあげたかった。
資料室で色々知ったことも関係あるのかもしれない。
それらを勝手に少年に結びつけ、感情的になっている。
そうやって私は救いようがないくらいの自己満足を繰り返し、結局、死ぬ前だって変わらない。
でも、もっと、もっと、こんな気持ちを誰かに持ちたかった………
泣けるくらい胸が熱い──




