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どこかのページを破ってある紙切れは、それ以外になにも書かれていなかった。



破られたページを見つけ出したが、真っ白だ。



「………」




どういうことなのだろうか?


名前と思われる塗りつぶされた部分はきっと生徒の名前だ。



記憶が、奪われる?



いや、自分が魔力を発動しながらじゃないと記憶はこの相手のものにはならない。




記憶を、託す……




なんのために?





「伝書鳩……」




もしかして、これは祖父母の言っていた目の黒い伝書鳩のこと?




共通点はいくつかある。




「………」




まだ何か挟まっていないかと、私は日誌を持ち上げバサバサと揺する。



「楠瀬」



隊長がいつの間にか資料室の出入口に立っていた。



「あ、はい!」



私はとっさに日誌を他の本の下に隠す。




「………明日から復帰しろ」



「は、はい、了解しまし……た…」



隊長は私の様子を訝しげに見ながら言うと、血や埃で汚れたマスクを外した。






隊長の素顔に戸惑う。


眼鏡にマスク姿がトレードマークだったので、大人の男性が不意に現れて、目のやり場に困ってしまった。


「呪うなよ」



隊長はいたずらっぽく微笑んで、新しいマスクをポケットから出し、すぐ装着する。



「まさかっ……そんなことしません…」



「冗談だよ。私はおまえのことを信用してるから」



隊長は私に近づいて、机いっぱいに広げられている本を見下ろした。



「あいかわらず勉強熱心だな、ほどほどにしろよ」



「はい」



隊長はそのまま動かない。



てっきり出ていくかと思っていた私は言葉が出ず、妙な沈黙が流れた。



「魔法の歴史を調べてるのか?」



隊長は本の中身を読んでいたらしく、私は慌ててうなずいた。



「……楠瀬はK市の出身だったよな」


K 市とは私の生まれ育ったコミュニティーの名称だ。



「戦況の地からずいぶん離れていて、政権も穏やかな土地らしいな」



「……はい…」



「飛び級で魔法医師の資格に合格して、私の隊に入ったのが……16の時か?」



「はい」




「じゃあ、まだ18か……若いなぁ……」




「隊長、私くらいの歳の人は皆、戦場に出てます」



魔法医師は普通、二十歳を過ぎてから現場に出るが、私は飛び級と、試験に合格してこの隊に入れたのだ。



それ以外の戦争要員は数ヵ月の訓練で17歳から実践現場へと送り込まれる。



早すぎると異論を唱える声は出せないほどに、世界は膿んでいた。




「……そうだったな……悪い…」



いつもは必要なことしか話さない隊長が、今日は少し違う……



「あまり生き急ぐなよ…」



隊長は私の肩を一つたたくと資料室を出ていった。






無造作に広げた本を片づけていく。



さっきの紙切れは入っていた通りに日誌のカバーの隙間に戻した。



すべての本を本棚に仕舞って窓を見ると、こわいくらいに真っ赤な夕焼けがそこにはあった。





太陽が山並みの向こうに最後の輝きを主張するように燃えている。




「きれい……」




つぶやいて唇の両端を上げようとした時、息が震えた。




「ふっ……うっ……」




その場に崩れ落ちてしまい、どうしても嗚咽が堪えきれずのどが痛い。




息の熱さに髪紐をほどき、面を外す。





夕焼けに私の心が叫ぶ。






真実が知りたかったんじゃない





今が私の真実だと信じたくなかっただけなんだ





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