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━━緑の目を持つ魔法使いは命の共有ができる。
ある魔法研究書に書かれている一説は私の目をひいた。
━━生物、無機物問わず緑の目を持った魔法使いは自分の生命を共有できる。
例えば、自分の伴侶と命を共有し、どちらかが死んでしまうと相手も同時に死ぬ、ということらしい。
共有相手に自分の魔力を反映できるとも記されている。
相手が感情を持たない無機物ならば、それを魔力で操れる、とも解釈できそうだ。
物を動かす移動魔術は、細部までは操れない。
この書かれ方からすると、もう一人の自分をつくる……そんな気がする。
噂では移動する建物があって、金と権力を持つものだけがそこに招かれて、混沌とした世界から一時、逃れられるらしい。
でも、緑の目の魔法使いを私は見たことがない。
魔力の優劣表なるものにも緑の項目はない。
しかし、そんな建物があるのならば、あり得ない話ではない。
自分の体重以上の物を動かすのは魔法では無理だ。
まあ、相当な設備投資と科学力を結集すれば可能かもしれないけれど、今現在の世界情勢ではまず無理だろう。
他の文献に、緑の魔力は血筋により受け継がれ、しかし、確実性が薄く途絶えてはまた現れる、希少な種類だと記されている。
移動する建物は、きっと緑の目の魔法使いが操っている……
この推理は限りなく真実に近い予感がした。
私は勢いに乗り、さらに資料をかき集め、寝食を忘れて読み続けた。
そして、私はやっと行き着く………
それは手書きの日誌みたいな本で、ここがかつて教育機関だったということがわかった。
その日誌は一人の教師の覚え書きみたいな簡素な短文の羅列で、他愛のない日々の記録や、生徒の印象的な言葉などが走り書きされていた。
読んでいくうちに、魔法を使えない人間が教育を受けていた、と推測された。
一通り目を通しても特にこれといって重要なことは書かれていなかった。
魔法が使えない人間の教育機関の存在は歴史の講義で習った記憶はない。
きっと公にはされていなかったのだろう……
ざっとこの部屋の本を調べても関連資料はこの日誌だけで、他のものはなかった。
めぼしいものは処分されたのかもしれない……
ここの生徒達の目は黒かったのだろうか?
私は日誌を読みながら思いを馳せた。
こんな話を聞いたことがある。
魔法が使えない人間は目が黒い。
誰かが死ぬとき現れて、大事な言葉を届けに来る。
おとぎ話や噂話ともつかない、あやふやな伝承はどのコミュニティーでもあるらしく、私も幼い頃、祖父母に冗談まじりで聞かされたことがあった。
「凛ちゃん、もし、黒い目の伝書鳩さんに会ったら、ばあちゃん達に伝言してね」
私が魔法医師になるためにコミュニティーを出ていく時も言ってたっけ……
二人ともまだぴんぴんしてるけどね……
私はもう一度日誌を最初からめくる。
魔法が使えなくても生徒達がのびのびと学んでいた様子に私は微笑んだ。
記録した教師もぶっきらぼうな字から、あたたかさが伝わってくる。
私は日誌をたたんで机に突っ伏した。
ふと、表紙のカバーから紙がはみ出ているのに気づく。
「………」
突っ伏したまま指でつまんでひっぱると、するりと出てきた。
━━に(━━の部分は意図的に塗りつぶされていた)自分の記憶を魔力を発動させながら語ると、自分からは消え、━━のものになる。
「っ!」
私は飛び起きて紙切れを食い入るように見た。




