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「楠瀬」
突然、声をかけられ本を落としてしまう。
「……隊長…」
本を拾い、姿勢をただす。
「楠瀬、瀕死の患者に治癒魔法を使っているらしいな」
隊長はため息混じりに言う。
「………」
「重傷な人間ほど治癒魔法は自分自身に負担がかかることはわかっているな」
「はい…」
隊長は眼鏡を外して眉間を指で押し揉む。
「しばらくおまえは現場に出るな。ここで待機していろ」
「いやです!」
私の声がこの部屋の埃を震わせた。
「誰かを救うためには自分が万全でないとならない、それはこのチームのルールだ。守れないのなら辞めろ」
隊長は静かに言うと部屋を出ていった。
「………」
唇を噛みしめ、私は本を乱暴に棚に戻す。
ぎりぎりの私なりの判断で治癒魔法は使っていた。体調は正直、悪かった。
隊の皆も疲労の色は隠せないくらい働いている。
私のスタンドプレーは皆の負担になるのはわかっていたけれど、どうしても………
私は約2週間の待機命令をくだされて、そのほとんどの時間をこの資料室で過ごした。
無作為に並べられた本の中で、魔法についての歴史が記された本を特に読み込んだ。
その昔、人間は魔法が使えなかった。
使えない代わりに文明が成長し、意志を持たない機械が人間の助けになっていた。
人間を超越したテクノロジーが一度、人間を滅びへと導き、絶滅寸前の時、魔法使いだけが生き延びた。
そこから人間は再び繁殖し、魔法があたりまえの世界が構築される。
他にも諸説あることも書かれていた。
神と人間が契りを交わし、祝福として魔法が与えられた、とか、窮地に陥った人間達が覚醒し、魔法を生み出した、とか、薬物実験で意志の力が具現化した、とか……
すべての説に共通することは、人間は元々は魔法が使えなかった、ということだ。
私はそれに気づいて、胸の奥に火がともった。
気づいても何も変わりはしないのだけれど、いてもたってもいられなくなって、さらに資料を手当たり次第読み漁る。




