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「……くっ……なんだ、この心は……何人いる?」
魔方陣の光が弱まり、目を開けると、観月さんが汗だくで僕の胸を右手で圧迫していた。
「おまえの心を出せっ……おまえだけの………っ」
観月さんが白目を剥いて口から泡を吹き出す。
「観月さん!」
僕は崩れ落ちそうな彼の身体を支えた。
「観月兄さん!」
皐月さんが石段から姿をあらわす。
「これは……」
皐月さんが僕らの手前で立ち止まり、一歩下がる。
「……皐月さん…」
すがるように彼女を呼ぶが、皐月さんは僕を鋭い目つきで睨む。
「……兄さんから離れて!」
ヒステリックに皐月さんが叫んだ。
「は、はい……」
僕は観月さんの身体を地面にそっと横たえ、彼から大きく離れる。
「兄さん!兄さん!しっかりして!」
皐月さんは観月さんに駆け寄り、彼の身体を軽く揺さぶった。
「ぼ、僕の心を読もうとして、それで……急に倒れたんです……」
皐月さんは一切、僕を見ず観月さんを抱き上げ石段を降りていってしまった。
「……………」
視界が滲む………
現状の有り様に、困り果て涙が出そうになっている。
どうすればいいのかわからないし、どうなっているのかもわからない
僕は独りで、誰かに頼りたくても、誰かすら存在しないから………
「うっ………」
僕は初めて僕のために涙を流す。
不幸だとか、孤独だとか、僕は僕をわかっていたつもりだったけれど、凛さんに出会って、このホテルの人達に出会って、関わりを持って、やっと、ちゃんと僕の孤独を受け入れられた気がする………
それは悲しいことだ
悲しくて、惨めで、生きていたくなくなる。
誰も僕を必要としていない世界
僕が存在する意味のない世界
さようなら
別れの言葉を言われたのは、いつだった?
僕の両親が言ったんだっけ?
神様がわめく。
もう何を言っているのか僕にはわからない……
だって……神様は僕を抱きしめてくれない……




