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「ど、どこに?」
凛さんは僕の身体をやんわりと押し離しす。
「伝書鳩くんはここじゃない別な世界があると思う?」
祭の音が遠くに響いている。
暗いこの場所は、そう離れていないのに、寂しいほどに関係ない。
「僕は……魔法が使えないから、魔法が存在しない世界があったらいいと、ずっと、思ってました」
「……そうなんだ……」
凛さんがターンするようにくるっと回る。
キュルキュルと、魔法がたまる音が凛さんから聞こえ始めた。
「伝書鳩くんの望む世界を私が手に入れてあげるね」
凛さんの身体がふわりと浮き上がり、彼女は木の面を外して地面に落とした。
同時に、一つに束ねていた長い真っ直ぐな髪が、黒い羽のようにほどけた。
僕が知っている無防備な寝顔の面影は微塵もなく、凛さんの顔は、様々な外敵に囲まれて追い詰められてもなお、最後まで威嚇をやめず、命を繋ごうとする動物のようにこわばっていた。
「凛さん!」
僕は手を伸ばした。
精一杯。
けれど、届かなくて、凛さんの身体は、星が瞬く夜空に吸い込まれる。
黄色い目だけが残像のように僕の網膜に焼き付いていた。
「おい!」
「どこだ?」
「あの女はどこに行った!」
「………くそっ……無我になってやがる……」
赤い……赤い……
赤い………………
胸から赤が入ってくる……
「そうだ、赤いだろ、赤を感じろ」
圧迫される………
胸が、苦しい………
「み、観月さん……やめ…くだ……さい……」
気がつくと、目の前に観月さんがいた。
僕の胸の辺りに赤い魔方陣が輝いている。
「よし、正気に戻ったな、時間がない。読ませてもらう」
観月さんがそう言うと、魔方陣がさらに輝いて、目を開けていられなくなった。




