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石段をのぼりきると、僕は「俺」の記憶を覚えていた。
柊子は誰だ?
「俺」は誰?
ひどく共感する想いに僕は震える。
まるで自分自身のようだった。
これが魔法のせいならば、僕は……
石段の終わりには、ひっそりと瓦屋根の平屋が佇んでいた。
その前に人影が現れる。
「……しゅう…こ……?」
僕はまさかと思い呼びかけた。
「………誰?」
聞き覚えのある声に、息が止まる。
引き寄せられるように人影へと足を出す。
おぼつかない足取りのせいで、下駄の鼻緒が足指の間に食い込んだ。
「誰?」
緊張して硬い声が再び聞こえた。
「ぼ、僕です……あ……」
狐の面を外して、浮いた髪を手ぐしで整える。
「……伝書鳩、くん?」
「はい……はい、僕です」
「なんだ!びっくりしたよ!白い狐の面が不気味だったよー!」
木の面をつけた黄色い目の人が、僕の目の前に立っていた。
浴衣ではなく、白いすとんとした膝たけの服を着ている。
「怪我は……大丈夫なんですか?」
なんだろう……
黄色い目の人が今、この瞬間、僕の目の前に居る実感がわいてこない……
「うん。ここの医療設備すごいんだよ。細胞再生装置のカプセルがあってね、壊死寸前の私身体、そこで治ったんだよ。完治はしてないけど、もう、伝書鳩くんに迷惑かけてた頃よりすっごい元気だし、魔法医師の人も経験豊富で……」
僕は黄色い目の人の身体を抱き寄せていた。
「……よかった……」
押し潰さないようにしようとしても、身体が勝手にぎゅっと抱きしめてしまう……
「伝書鳩くん……」
あったかい黄色い目の人の身体に感動していた。
ちゃんと僕の腕の中にあるぬくもりに、やっと実感が追いついた。
本当によかった……
「私、しゅうこじゃないよ、私の名前は凛だよ」
「り……ん?」
「うん。楠瀬凛です」
「くすのせりん」
「はい」
「りん…さん」
「呼び捨てでいいんだよ」
「りん……」
カアッと身体が燃えた。
「だ、だめだ、呼び捨ては恥ずかしすぎます…」
黄色い目の人は身体をよじり、僕との間を少し空けた。
「こっちが恥ずかしくなってきたよ……」
「ははは……すみません…やっぱり凛さんでいいですか?」
「いいよ」
凛さんの黄色い目が、とろけそうにうるんだ。
「伝書鳩くん……私、行かなきゃ……」




