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下駄の鼻緒が固く、足指の間が痛い。
かばいながらのぼると、石段に生えた苔に滑りそうになる。
もう、教師など辞めてしまおうか……
辞めて、子供たちとおさらばしたい。
幸せに肥え太った我が儘な口、闇が現実を見せない瞳。
俺の声など届きはしない。
俺もそうだったから、よくわかるのだ。
喧嘩を止めない両親は俺を死にたくさせたし、望めばすぐに何でも手に入る環境は俺を傲慢にさせた。
俺は、そういうふうには生きていたくなかった。
今だから、そう思うだけで、当時の俺は何にもわかっちゃいなかったし、自分以外の事など知ったこっちゃなかったのだ。
柊子の家の天井が抜け落ちてきたとき、俺は初めて悟った。
俺には柊子が足りなかった、と……
柊子の家には婆さんしかいなくて、家計も苦しいようだった。
着ている服も、まったく柊子に似合っていない物ばかりで、誰かのおさがりだと一発で皆が見抜いた。
俺は毎日が退屈で、あくびさえするのがめんどくさくなってきた頃、柊子を見つけた。
正確にはちゃんと存在を確認した、だ。
柊子とは保育園の頃から一緒だったのだが、一言も喋ったことはなかったのだ。
俺は徹夜でゲームをした腐りかけた頭を持ったまま登校していた。
柊子は時代遅れな服をからかわれながら、皆に囲まれ俺の前を牛歩のごとく歩いていた。
俺と同じような格好をした同級生をかすむ目で眺める。
当たり前のように俺も皆と同じような服装に身をつつんでいるが、それはよけいな摩擦をうまないためだったか、好きで着ていたか、もう、よくわからない。
似たような生徒、価値観が見出だせない会話の繰り返し、他人に認められる者が強者なヒエラルキー。
ここは地獄か?
俺は気づいたときには柊子の周りの同級生を男子女子かまわず突き飛ばしていた。
当然、教師と対面の話し合い、親であることを権力のように振りかざす大人たちへの説明と謝罪。
柊子へのからかいは、ただの集団登校にすり変わっていた。
俺は一切、言い訳せずに教師や自分の親から謝れと言われたら謝った。
同級生たちは、親という絶対の味方を後ろ楯に、自分達の世界をまもったのだ。
俺はそんな世界はいらなかった。
いらないと、自覚してしまった。




