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僕はしばらく茫然としてドアの方を見ていた。
動悸がおさまらず、このまま浴槽の中に入ったら、すぐにのぼせてしまいそうだ。
背中には生々しくスミレ様の手の感触が残っていた。
正直、何を話したのか思い出せない……
僕は軽く頭を振って立ち上がり、準備されていたタオルで身体を拭いた。
脱いだ服がなくなっている。
きっとスミレ様が持っていってしまったのだ。
着替えが入っていたリュックは浴室に入る前に部屋に置いてきてしまった。
「おい、これ着替えだ」
突然、ドアが開いてスミレ様が手に持っていた着替えを僕に普通に渡してきた。
「わ……」
わぁ!と言う前に、タオルで隠す暇もなく、スミレ様はさっさとドアを閉めてしまった。
完全にすべて見られた。
着替えを手に持ったまま僕は、またしばらく茫然としてしまう。
無心のままに、手渡された着替えに袖を通す。
浴室から出ると、ベッドの上に座っていたスミレ様が嬉しそうに笑った。
「おまえ、一人で着られたのか?」
「え、あ、はい…」
さっきの今なので、恥ずかしさに頬が熱くなる。
「浴衣が着られるとなると、私の仮説もまんざらではなさそうだな…」
「浴衣…」
「そう、浴衣、着たことないだろ?」
「はい……」
僕は自分の身に付けている涼しげな生地をつまんだ。
「完璧に着れているぞ。帯もきっちり決まってる」
スミレ様がベッドから飛び降りて僕の周りをぐるりと歩いた。
「んふふ……なかなかに似合ってるぞ」
夕焼け色の目が輝いて、スミレ様はめちゃくちゃに可愛く微笑んだ。
「ほら、私も着替えたんだぞ、どうだ、美しいだろ」
言われてみれば、スミレ様も黒い生地に花の模様が散りばめられている浴衣を着ていた。
三つ編みの髪にキラキラ光る飾りもつけられて、僕は目のやり場に困り果てた。
可愛いな……
「じゃあ、行こうか。九炎寺様のご葬儀に」
スミレ様はさらにとびきりの笑顔で言った。




