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「祖父?」
僕が?
「ああ…すみません。正確には祖父の想いを持ったあなた様を待っていたのです」
レイモンドさんは困り顔で詫びた。
「それが僕の仕事なんでしょうか?僕自身は何もわかってないんです」
「それは……」
レイモンドさんがスミレ様を見下ろす。スミレ様が目だけで彼に何かを伝えた。
「…たぶん守秘魔法のせいですね。トラブル回避の為にしょうがないかもしれません。それに、あなた様が祖父の想いを祖母に伝える間はあなた様の自我は眠らせないといけないのかも……」
レイモンドさんは口ごもりながら、説明を続けた。
「本当のことはわかりませんが……あなた様は動く遺言状みたいな……」
「………」
「おまえは魔法使いの使いっぱしりなんだよ」
スミレ様がつぶやく。
「スミレっ」
「レイ様、魔法が使えるとか使えないとか、関係ない。これはこいつの仕事だし、仕事に優劣はない、とスミレは思います」
「使いっぱしりはないだろ…この方が来なければ我々はおしまいだった。優劣をつけていたつもりはまったくないし、ただ、どう説明したらいいのか……」
レイモンドさんは僕を寂しげな瞳で眺める。
伝書鳩、と僕を斬った紫の目の大男や黄色い目の人も言っていた。
僕は誰かの想いを誰かに伝えることをしているのだろうか?
「祖母にあなた様が何を伝えたのかは当ホテルの機密事項なので教えることはできません…申し訳ございません。しかし、ぜひとも葬儀には参加していただきたいのです。これは、こちらの気がすまないとかではなく、あなた様の長旅の疲れや、仕事に対しての色々な思うところを一時でも忘れて楽しんでいただきたい、その一心なのです」
観月さんもこのホテルを同じように説明してくれたことを思い出した。
でも、葬儀が楽しいって…
僕が戸惑っていると、スミレ様がいたずらを企んでいるようにニヤついていた。
「参加していただけますか?」
レイモンドさんは眉尻を下げ、まるで困りきった犬のようだ。
「は、はい…」
「ああ!よかった!スミレ、この方を客室に案内して、準備を手伝ってさしあげなさい」
わたくしは一旦失礼いたします、とレイモンドさんは部屋を出ていった。




