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「スミレ様、アイスクリームが溶けますよ」
僕は立ち上がり、スミレ様を短い距離だったが迎えにいく。
「ああ……」
スミレ様は仏頂面がなおらないまま、僕と共に席に着いた。
僕はアイスクリームを食べ始める。
冷たさのおかげで甘さが少しごまかされて、僕のスプーンはすすむ。
本当は饅頭や大福とか和菓子の甘さが好きだ。
コミュニティーを出されたあと、僕のリュックにたまに入っているのだ。
「おいしいか?」
スミレ様が僕の反応を上目遣いでうかがう。
「はい。アイスクリームを食べたの何年ぶりだろ…うまいです」
遠い記憶の中、僕は泣きながらアイスクリームを食べていたことをやっと思い出した。
それは、僕が独りじゃなかった頃の記憶かもしれないけれど、何もかもが曖昧で不確かすぎて、突き詰めたくなるほどにはならなかった。
でも、このチョコアイスの味は知っている。
スミレ様もアイスクリームを食べだす。
「……おいしい…」
ぼそっとつぶやき、僕の方をスミレ様が見る。
「……おまえ、自分の記憶がなくなると言っていたな…」
僕はスプーンを止めた。
「……」
「私が時を奪った人間も一緒だ…記憶はその間ないし、成長も止まる」
「成長も……」
「ああ、それは必然だ。存在すら私以外は確認できなくなるのだ」
だから、おばあさんは見えなかったのか…
「観月も人の心を読めばその分、自分の心がすさむし、皐月は…魔法を使ってしまえば私達の頭など生卵を握り潰すより容易く吹き飛ばし、力を使ったあとは身体がしばらく痺れて動けない。私も時を止めれば自分の身体が衰える」
スミレ様はケーキにスプーンをのばす。
「魔法にはリスクが伴う。呼吸すれば、心臓が脈打てば私達の命が削られるように……だから、おまえの九炎寺様を看取った間の記憶が無いのなら、それは必然で、無理に知ろうとするのは懸命ではない。道理に背くことだ」




