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いつもの感覚だ。
歩いた先のコミュニティーに入るための鍵だ。
今回は、おばあさんの目を見た途端始まった。
これは、この人限定の合図なのかな?
僕の指は奇妙に曲がり、おばあさんの目に映るように近くに寄っていく。
ぱくぱくと指同士がくっついたり離れたりして、まるで口のようだ。
ぴんと伸びている人差し指と小指は耳のよう。
「ふふ……」
おばあさんが力なく笑う。
ああ…キツネか。
閃いたときには僕の意識は白く遠のいていった。
これもまたいつものことだ……
目を開けると僕の目の前には大きなケーキが置かれていた。
白いクリームが波打つようにぬられていて、イチゴが不均等に並べられている。
「戻ってきたか?」
スミレ様が僕の横に座っている。
「あ、あの…このケーキは…」
僕も席についているようだ。
ケーキの他にも少し焦げている焼き菓子に、湯気の立ち上る紅茶も二人分カップに入れられていた。
「私が作ったんだ。さあ、食べろ」
「……」
「どうした?甘いものは嫌いか?」
「いえ、大好きです。でも、僕はあのおばあさんに何をしたのか覚えてないのですが…」
スミレ様はきょとんとしたように、夕焼け色の目を丸くした。
「いつもそうなんです。どこかのコミュニティーに入った所から記憶がなくなるんです。気がつけば見知らぬ土地で立ち尽くしてる。今までは特に疑問に思わなかったんですけど…今日は妙に気になってしまって…」
「おまえ、よくしゃべるな」
つまらなそうにテーブルに頬杖をついて、スミレ様がケーキの上のイチゴをひとつほおばる。
「…こんなこと考えるのは…おかしいですか?」




