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その部屋は、広くもなく狭くもない、ただベッドだけがある部屋だった。
観月さんと皐月さんは壁際に並んで立った。
スミレ様はベッドに近づき膝を少し曲げて黙ったまま挨拶をする。
静かな部屋だった。
耳鳴りだけが僕の頭に響きだす。
「こっちへこい」
スミレ様が僕を呼ぶ。
言われるままベッドに近寄ると誰も寝ていない。
どういうことなんだろう…
「見えないだろ」
ふふん、と鼻をならしてスミレ様が両手を胸の前で組んで目を閉じた。
キュルキュルキュル
魔法が始まる音だ。
ベッドの中に淡い光が浮かんで、人の形になった。
「九炎寺様、到着しました」
スミレ様が手をほどき、静かに言う。
光が徐々におさまり、そこには顔色の悪いおばあさんが現れた。
「さあ、私が止めていた時が動き出した。さっさとしろ」
スミレ様が僕の横を通りすぎながらこっそり囁く。
そして観月さん達より少し離れて壁際に立った。
さっさとしろと言われても、何をしたらいいのかわからない。
「……」
寝ていたおばあさんの目が微かに開く。
綺麗な緑色だ。
森の奥の暗いしんとした物言わぬ緑。
その目を確認した瞬間、僕の身体は勝手に動き出す。




