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「僕の名前…」
僕に名前なんてあったかな?
誰も僕を呼ばなかった。
神様でさえ僕の名前を呼ばない。
呼ぶのは僕ばっかり…
「……もう結構です」
観月さんがため息をはく。
名前すら答えられない僕にあきれたのかもしれない。
「すみません…」
「…いえ、名前などなくてもいいのです」
観月さんが微笑み自分の目を手で隠した。
手をのけると赤い目が、茶色に変わる。
「え?」
「瞳が茶色だと他のお客様が安心するのです。茶色の目は一番魔力が低いとされています。低い順に紫、青、緑、黄、赤と続きます。決めつけはできませんが、一般的にそう言われております」
「じゃあ観月さんは…」
「わたくしは読心魔術を得意としております。普段はあちらのロビーに茶色の目になり働いておりますが、あなた様のように特別なお客様がおいでのときなど、さっきまでの赤い目を隠さず接客させていただいているのです」
「読心魔術?」
「……」
観月さんが僕の耳元に近づく。
驚いて後ずさるが、壁に阻まれて逃げられない。
「あなたの神様は一体何者ですか?」
「っ!」
「信仰心からの虚像ではない、確かにあなた様のなかに存在している」
観月さんは僕から離れてにやりと唇のはしを上げた。
「あなた様の神様の声をぜひ聞きたい。多重人格者ならあなたの声だが、違うとなれば……」
観月さんの茶色い目が赤く光る。
「その漆黒の瞳。生まれて初めて見ますが、不穏な気配があふれている…」
「観月さん……」
僕の方が彼に不穏な気配を感じて怖くなる。
「あなた様の透明な心をどこまでも見透かしてみたい」




