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「観月さん?」
僕の怪訝な呼びかけに、彼は我に返ったように小さく咳払いをした。
「失礼しました…お客様、これから当ホテルの会長に会っていただきます」
「会長?」
「クエンジーの創設者でございます」
「……」
箱のようなこの部屋の上昇が終わったらしく、身体には何の負荷もかからなくなった。
「あなた様も仕事がございます」
「…仕事」
伝書鳩。
「観月さんは僕の仕事を知っていますか?」
僕は僕の仕事を歩くことだと思っている。
コミュニティーの中での記憶がないのは理由があるに違い。
それが当たり前で、僕は独りだから選択肢を探せなかった。
探すことすら思いつかなかった。
黄色い目の人や観月さんが僕に初めて疑問を持たせたんだ。
「……」
観月さんが押し黙る。
「魔法が使えない僕なんかじゃ知ることさえかなわないのでしょうか?」
僕なんか
自分で言って悲しくなる。
黄色い目の人がだめだと言ってくれたからなのか…
「お客様、あなた様のお名前を是非とも教えていただきたいのですが」
観月さんが微笑む。
さっきまでの微笑みとは少し違う。
赤い目が威圧感を放ちだした気がする。




