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擬似温度 × ***

擬似温度 × 向かい側

作者: 奈々月 郁

馴染んだ空気だな、と思った。

ファミレスで料理が来るまでの、虚しい待ち時間。

「お一人様」が世間に馴染む前から一人でこうして食事をすることが多かったから、人の目はもうまったく気にならない。今は同じように「お一人様」している他の人も多いから、誰も一人で食事をしている私を見ることなんてない。


ドリンクバーから持ってきたコーヒーは、とっくに飲み干してしまった。取りに行くのも面倒くさいし、いい加減料理が来るんじゃないかと期待してみる。


慣れてる、大丈夫、慣れてる、一人には。


向かい側に誰も座っていない席。

ぼうっと眺めながら、思い出してみる。


仕事は残業が多く、帰るまでが長い。家で作るのが面倒なとき、いつもこうやってファミレスで済ませてしまうことがほとんど。残業代で夕食を食べているのだと思うと、ちょっと悲しいけれど。


数年前は向かい側に、同僚が座っていることが多かった。上司の愚痴も、仕事の進行状況も、問題点も話していたけれど、一番数多く話していたのは、「この先の人生どうするよ?」っていう話だったと思う。

お互い相手いないしね、嫁にもらわれるのが早いか、婿にもらわれるのが早いか、競争だ!

そんな馬鹿な話ばかり。でも、楽しくてホッとする時間だった。

アルコールは一滴も入っていないのに話は途切れなかったから、時にはファミレスにいる間に0時を回り、翌日遅刻スレスレで起きることだってあったけど、そんなことくらいじゃ話は止められない。


楽しい時間はあっという間。気付けば、彼はいなくなっていた。

別の部署への異動、そして、結婚した、という話を風の噂で聞いた。


「彼女作りなよ~」

このセリフ、何回言ったか覚えてない。

彼はいつも、「まぁね」と言いながら、視線を外していた。もちろん、気付いていたけれど私からは何も言わなかった。

そのうちに違うチームで仕事をすることが増え、少しずつ離れている時間が長くなり、ふと、振り返るまで人事異動があったことにも気付かなかった。


過ぎた時間を顧みずにいるうちに、彼はいなくなっていて。

私はまた、一人で食事を済ませるようになっていた。


あんなに気が合う人、またどこかにいるのかな。

居心地の良さに甘えて、彼の好意にあぐらを掻いて、気付かないフリをずっと続けていたから、こうして一人でいることに文句は言えない。


だけどね。時々思うんだ。

あの時に、冗談でもいいから付き合おうって言ってたら、私は今、一人じゃなかったのかな。


「寂しいな」


既製品レディメイドの食事が、柔らかく湯気をあげてこちらへとやってきた。

ねむねむ……奈々月です。


ファミレスでお一人様、そんなときに思いついた短編です。

スマフォで文字入力していると遅いし、書きたいことに指が追いつかないので、外で小説書いているときは、携帯のキーボードを使っているのですが……

ドリンクバーに行って、戻ってくるときに、空席だった隣に大学生と思しき男性二人組が座りまして……

カシャカシャやっていると、若干奇異の目で見られました。う~ん、休みだったから私服でしたしねぇ……。


……小説の話に戻りますが、この話の彼女の気持ちは、最後の「既製品の食事」という言葉に込めました。

色々な解釈ができると思うのでどんな意味かは明かしませんが、読者の方がそんな気持ちで過ごさずにいられることを祈ります。


それでは、おやすみなさいませ……。

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