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35:食事は平穏に美味しく食べたいです。






 久々に足を踏み入れたカフェテリアは、相変わらず綺麗だった。

 あまり建築やその手の建材に詳しくない私から見ても、床はなんだか高そうな石が敷き詰められて照明の光を反射しているし、天井にはシャンデリア的な照明が煌々と輝いている。天井を支える柱には翼のレリーフが彫り込まれており、その上金色で彩られている。カフェテリア内に点在するテーブルや椅子もなんだかツヤツヤとした暗いキャラメル色をしていてやっぱり高そうに見える。テーブルクロスもただの白い布の筈なのに、私が前世使っていたテーブルクロスなんぞと比べ物にならない高級感を漂わせていた。

ここだけを写真に撮って見せたたら、大抵の人はどこかのレストランだと思うだろう。学校の食堂、なんて答えられるのは天翼学園の卒業生だけだ。

 そういえばこの学園ってば、世間一般では金持ちの通う学園だった。……

 前世一般庶民、今世は幼少期まではお嬢様待遇だった私は、ぐったりとした気持ちで運ばれてきたから焼き魚定食を見ていた。

 どうして、カフェテリアはこんな高級感があるのに、高級そうなメニューに混じってこんな庶民メニューがあるんだろう。…

 ゲーム内でも思った疑問だ。

 そういえばゲーム内でも主人公が同じ疑問を思っていたな。ああ、あれは鷹宮寺とのイベントだった。ゲーム内で、結局主人公の疑問は解消されていなかったが。


「どうかしたか…?」


 私の左隣に座る鴉渡がこちらを覗き込んでくる。

 また体調を心配している様子の鴉渡に私は首を振った。


「ちょっと寝不足なだけだ」


「そうか…」


「奇遇やなぁ、オレもや」


 鴉渡が頷くと、正面に座ってパスタを食べている鶴織が楽しそうに片唇を上げた。

 あ、なんか嫌な感じ。


「辛いんやったら、一緒に保健室行こか?」


「いや、遠慮しておく」


 鶴織と行ったら、同じベッドに引きずり込まれて抱き枕にされる。私は大きく首を振った。


「遠慮しぃやなぁ。あの時はあんなに「喋るより食べないと、昼休み終わるぞ」……いけず」


 あの膝枕の事を持ち出されそうになったので、無理やり遮たら、なんだか口を尖らせた。いくら美形だとて男がやっても可愛くない。

 しかし、危なかった。

 あのまま鶴織に喋らせていたら、間違いなく膝枕の事を話していただろう。幸い、鴉渡も白鳥先輩も興味を持っていない様だがあのまま喋らせていたら、明日の腐った女子達の噂がとんでもない事になっていた。

どうも、あれ以来ちょくちょく膝枕して欲しいだとか、してやろうだとか、私の寝顔がどうだったか、とかいじってくるのだ。

 私はもぐもぐと焼き魚を咀嚼して心を落ち着けた。あ、おいしい。

 

「……もしかして香波濠くんは、身体が弱いのかい?」


 左斜め前に座った白鳥先輩が、箸を置きながら訪ねてきた。いつの間にか先輩の前に置いてあった望月膳とかいう高そうな和食セットのお椀達が空になっていた。意外に先輩、食べるの早いな!

 ……いや、私と鶴織が言い合いしてたりしたせいで遅いだけか。


「強くはないです」


 香波濠ハカナらしい、虚勢を張った答えを返す。

 強くはない所か、よく熱出しますし、風邪ひきますし、季節の変わり目に一度は寝込んでいる気がします。

 それでも、弱味はあまり人には晒せないよね。特にこれからの展開次第では、敵対するかもしれない攻略対象には。……まぁ、鴉渡あたりには虚勢なんか無意味なくらい弱ってる所見られますけどね。

 

「解ったなら、香波濠に無理はさせないでくれ」


「ああ、気を付けるよ」


 なぜか鴉渡が私の保護者の様な発言をし、白鳥先輩は真剣な顔でそれに頷いた。


「もしかして、俺と、初めて会うた時も、かなり調子悪かったん?」


 珍しく鶴織がポツポツと聞き取りづらい声で話し掛けてきた。

 最初会った時とは、あの保健室での遭遇の時か。

 私が頷くと、鶴織が何やら唸っている。


「ほんま堪忍!! 俺、最初サボって寝とると思って、結構乱暴やったわっ」


 ガバッと頭を下げてくれるのはいいが、なぜあの時私がサボっていると思われていだろうか。もしや鶴織の中では保健室=サボる場所とインプットされていないか? そりゃ滅多に病人とか来ないけど。

 いつまでの頭を下げられたままは居心地が悪いので、止めさせようとする前に、鴉渡が口を開いた。

 

「鶴織、お前何をした」


「何って、そい「ちょっと絡まれただけだ」……そうやね」


 あっぶねーー!!

 今、鶴織、絶対「添い寝」って答える所だったよ!! 寿命が三十秒くらい縮んだよ!!

 キッと鶴織を睨んでやれば、なぜか目を細めらた。

 何、その表情は? さっきまで謝っていたとは思えない態度なんですけど!

 

「今度そんな真似をしたら、もや…許さない」


 また鴉渡が保護者っぽい発言で、鶴織に忠告している。

 忠告はありがたいのですが、今、燃やすと言いかけなかったか。……禽を使うくらい怒ってるのか。

 きっと鴉渡の中では、体調悪いのにチャラ男に絡まれるボッチ病弱少年という可哀想なストーリーが展開しているのだろう。案外人が良く面倒見がいい鴉渡の正義感が燃えているんだな。うん。ちょっと怖いけど。


「へぇ? なんや、大口叩きおるなぁ。やれると思ってるん?」


 更に悪い事に、なぜか鶴織が鴉渡を挑発し始めた。

 おい、さっきの謝罪はどこいった。

 あああ、煌びやかなカフェテリアの中で、このテーブルだけが険悪な空気だよ。

 なんでこの二人、すぐ喧嘩腰になるの。嫌いなら近寄らなければいいじゃない。

 もう、この二人だけ放って置いて、教室に戻っていいかな。


「二人とも、香波濠くんが困ってるから、止めなさい」


 白鳥先輩の一言に、二人は睨み合うのを止めてこちらを見た。

 おお! さすがに先輩の一言は威力があるなぁ!

 

「まぁ、ええわ。今日は堪忍しといたるわ」


「また香波濠を困らせたら、次はないぞ」


 二人は負け惜しみっぽい台詞を呟くと、互いに食事を再開させた。ちなみに私は食事を終えて、緑茶を啜っている。ふぅ、いいお茶ですなぁ。

 そのまま数分経過したが……き、気まずい。

 私は緑茶を啜っているだけなのに、無言で食事をしている二人の発する不穏な空気に謎のプレッシャーを感じるっ。

 誰か、どうにかしてくれこの空気っ!!

 と、思ったら白鳥先輩が席を立った。

 え、この空気に、私一人を残して行くんですか!? そりゃないですよっ!! と、思ったが、無表情を貫く。危うく顔が歪む所だった。

 白鳥先輩は食べ終えたトレイはそのままに、再び注文カウンターへと向かった。何か追加注文かな? このカフェテリアでは食べ終えた食器はそのままでいいのだ。係の人が片づけてくれるからね。

 注文を終えた先輩が戻って来る。


「この間のお茶のお返しに、デザートを奢らせてくれないかな?」


「えっ」


「…お茶ってなんや?」


「どういう事だ?」


 なぜか低い二人の声に、白鳥先輩は私からお茶を貰ったとだけ説明をしてくれた。二人は納得いかなそうに頷いた。さっきから、なんでそんなに機嫌悪そうなんですか君達は。


「そうか…夏休み、夏休み中にか…」


 俯いてボソボソと鴉渡が何やら呟いている。ど、どうしたちゃったんだろう。やっぱりまだ、夏バテが治ってないんだろうか。鶴織は鶴織で、つまらなそうな顔でこちらを見ている。何か言いたい事でもあるんだろうか。

 そんな不穏な空気を破るように、給仕の人がデザートを持って来てくれた。

 私にはプリンアラモード。白鳥先輩にはレモンティー。


「プリン、嫌いじゃなかったらいいんだけど」


「あ、ありがとうございます。いただきます」


 ここは先輩の顔を立てようという大義名分の元、私はスプーンを握った。

 実は、このプリンアラモードってのは、隠しメニューなのだ。ゲーム内でも二週目に明かされるカフェテリアの隠しメニュー。それが、このプリンアラモード。

 ゲーム内でも、舌の肥えた学園生徒達が感激する程の至高のプリンだと、絶賛されていた。しかし、隠しメニューである。隠しメニューを注文出来るのは、なんと、二年生からなのだ。その上、学園内である程度の実績や名誉がないと注文出来ない、という生徒を差別するとんでもない設定だった。

 私は幻のプリンアラモードへと、スプーンを滑らせた。

 そして……食べた。

 口の中でとろけるプリン。

 私の今の口の中の状況を例えるならプリンの桃源郷。エデン。理想郷。

 その滑らかな舌触り、口どけ、バニラの香りに、絶妙な苦みと甘味のキャラメル、全てが一体となって、私の味覚を魅了した。

 ああ、これは、至高のプリンと呼んでいいだろう。

 前世も今世でも、これ程のプリンを食した事はない。

 私が静かに感動に震えていると、白鳥先輩がくすりと笑いを零した。


「気に入って貰えた様で良かったよ」


「……とても、美味しいです」


 うっかり、素のままの口調でプリンの素晴らしさを語り出しそうになったが、どうにか堪えて、香波濠ハカナらしい素っ気ない口調で返す。


「ここのプリンアラモードは、プリンだけでなく、添えられている果物やクリームも、こだわっているんだよ」


「そうですか……っ」


 頷き、デコレーションされている生クリームとメロンを口に運ぶ。

 甘すぎずにしつこ過ぎない、それでいてコクのある生クリーム。泡立て具合も最高だ。それに、完熟メロンの自然な甘みと仄かな香りに、噛むと溢れる果汁の美味しさと来たら!!

 今まで食べてきたメロンはなんだったんだ、と思いながら噛み締める。


「白鳥先輩、ありがとございます」


「そんな畏まらないで……気に入ったのならまた、注文してあげるから」


 ふふ、と朗らかな笑みで白鳥先輩がレモンティーを飲んでいる。後光が見えそうだ。社交辞令だと解っていても、なんだかありがたみがあるなぁ。

 私と先輩が見つめ合っていると、鶴織がズイッと前のめりになって割り込んできた。


「俺やって、香波濠ちゃんにまたアイスあげるから、楽しみにしといてな」


「……また?」


 鶴織の囁きを耳聡く聞きつけ、鴉渡が箸を止める。


「このメロン、美味しいぞ。鴉渡も食べるか?」


 慌てて私はプリンアラモードごと、ずいっと乗っていたメロンを鴉渡に差し出した。鴉渡は誤魔化されてくれたらしく、メロンに箸を伸ばした。

 さよなら私のメロン。こんな事さえなければ、今頃私の胃袋に入っていたのに。くっそう。


「ああ、ええなぁ! 俺にも~」


「……はい」


 ずるい、とでも言うように鶴織も食いついて来た。私はちょっと諦めた心境で、最後のメロンが鶴織のフォークに強奪されるのを眺めていた。

 こうして食事中、鴉渡の不穏な空気にびくびくして過ごしたせいか、私は食事を終える頃には疲れ果てていた。

 ああ、今夜はよく眠れそうだぜ。





ようやく逆ハーっぽくなってきた気がします。

ハカナ、思いっきり餌付けされちゃってますけど。


鴉は夏休み中にハカナに先輩にグギギギと悔しがっていますね。

これで無自覚なんだから不思議ですね。

ちなみに鴉が言いかけたのはやっぱり「燃やす」という台詞です。物騒です。


しかし、鶴と鴉が争っている所を朗らかな笑みで漁夫の利するのが白鳥先輩ww

二人とも怖い感じになってるから

ハカナも当然、安心感のある白鳥先輩に助けを求めるという悪循環楽しいデスww



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