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34:しばらく見ない内に、キャラ変わった?




 今日から学校だ。

 体育館では、この学園の全校生徒が集まって、全校集会が行われている。この学園は二学期制なので夏休み明けには始業式はないのだ。今日も集会の後にすぐ授業もある。

 ついつい昨夜もゲームで徹夜してしまった私は、うとうととしない様に気を引き締めつつ壇上を見上げていた。

 壇上にいるのは、天翼学園の理事長だ。

 つまりは――――梟首の祖母だ。

 一見、ほがらかそうな老婦人である。が、そこはこの天翼学園の理事長である。ゲーム内では、偶然に禽を目撃してしまった主人公に、にっこりと優雅に微笑みながら脅しをかけてくる様なキャラだった。

 さすが、あの梟首の祖母である。

 そのありがたい話を半分聞き流していると、理事長の話は終わって、次は夏休み中の大会やコンクールで入賞した者への表彰が行われた。

 柔道部に、野球部など次々に我が学園の体育会系な人々が壇上に上がって、表彰されている。


「全国高等学校弓道選抜大会優勝――――弓道部部長、鷹宮寺颯天」


「はい」


 静かな体育館に響くその返事に一拍置いてから、あちこちから歓声が上がった。


「キャアアアアア!! 鷹宮寺様、素敵っ」


「今年も優勝ですよねっ」


「カッコイイ!!」


 さっきまで、柔道部とか野球部とかが表彰されている時は静かだったのが嘘みたいに、体育館中が揺れているみたいな叫びに包まれた。もうこれ、学園の女子全部が叫んでいるのではないかってくらいだ。

 これが鷹宮寺の、いや通称帝王のファン達の数だというのか。どこのアイドルだよ、恐ろしい。

 まぁ、私以外の攻略対象にはファンクラブがあるっていうし、ファンの皆様も久々に生で見られる鷹宮寺にテンション上がってるんだろうなぁ。


「し、静かにしなさいっ」


 教頭が落ち着くように皆に呼び掛けても、騒ぎは収まらない。むしろ、悪化していないか、これ。

 そんな歓声の中、鷹宮寺は堂々と壇上へ上がり賞状を授与されている。

 あれ?

 鷹宮寺が賞状を受け取った後、理事長に何やら話し掛けて……マイクを受け取ったぞ。


「――――黙れ」


 マイク越しに広がる低音の美声に、歓声はぴたりと止んだ。

 で、出たぁあ!

 オレ様キャラ得意の一言での信者沈静!!

 効果絶大とはこの事だ。再び静かになった体育館内に、鷹宮寺が壇上から降りる足音だけが響く。

 鷹宮寺が自身のクラスの列に戻ると、表彰が再開される。

 美術部に、文芸部、が呼ばれる。ふむ、次は文化部の表彰か。


「国際ヴァイオリンコンクール二位――――絃楽部、白鳥鵠」


「はい」


 またもや、数人の女子生徒が歓声を上げかけた。

 が、止まり小さなざわめきは消えて行った。

 うん。効果抜群だなオレ様の「黙れ」って奴は。

 壇上で白鳥先輩が賞状を受け取り、理事長にお辞儀をしてからくるりと向きを変える。

 あれ? 今、こっち見た?

 どうやら気のせいだったみたいだ。白鳥先輩はすぐに正面を向きながら、優雅に階段を下りて列へと戻った。

 全ての表彰を終えて、全校集会が終了した。

 

 



 午前の授業も終わり昼休み。

 鴉渡に誘われて今日は珍しくカフェテリアへと向かう約束をしていた。カフェテリアなんて名前だが、つまりは食堂だ。しかし洒落た名前に相応しくこの学園のカフェテリアはどこのレストランだよという豪奢な内装と、専属シェフの気合の入ったメニューなどが売りである。味はもちろんおいしいと評判だ。


「香波濠」


「ああ」


 鴉渡に呼ばれて、共に教室を出る。

 教室を出るときさりげなく、鴉渡に腰を支えられたんだが、こんな扉の段差で転ぶ程、弱ってはないつもりだよ!?

 それを訴えてみたが、鴉渡は首を振った。


「いつ、どこで何があるか解らないからな」


「あ、ああ」


 元々心配性の毛があった鴉渡だが、夏休み中に何かあったのだろうか。


「夏休み、何かあったのか?」


「……夏バテになった」


 何やらバツが悪そうに鴉渡が顔を背ける。小さく「修練が足りないかった」と零した。

 一体、本当何があったんだろうか?

 聞きたいが、どうやら鴉渡はあまり突っ込んで欲しくない空気を出している。


「香波濠こそ、大丈夫だったか?」


「ああ、特には」


「今年の夏は、暑かったからな。香波濠もまだ夏バテには気をつけろ」


「そうする」


 よっぽど夏バテに苦しまされたらしい。鴉渡の口調にも力強い念押しされている。

 ふいに、鴉渡がこちらを見つめながら、立ち止まった。


「どうした?」


「…クマ」


「えっ」


「薄らクマがあるな。寝不足か?」


「!!」


 今朝鏡で見た時に、寝不足のクマは出てなかった筈だ。

 それとも、クマって段々現れてくるのだろうか?


「そんなに目立つか?」


「いや……夏休み前に見た時と比べて、ややクマがあるというだけだ」


 夏休み前の顔色と比べて、か。鴉渡は記憶力がいいなぁ。私なんて昨日と今日とで見比べているのに全然クマに気付かなかった。念の為、後で鏡で確認しておこう。


「眠れないのか……?」


 鴉渡が微かに眉を寄せて、わたしの頬へと手を伸ばしてきた。

 ちょ、え! え!?

 なんで、頬を優しく指先で撫でるんですか!?

 その気遣わしげな表情はなんですか!?

 君はそんな、すぐ触ってくるようなキャラでしたっけ!? 

 廊下の真ん中でなんで、見つめ合って頬を撫でられてるんだ、私は。

 あ、視界の端で通りすがりの女子生徒数人がニヤニヤしてる。い、居た堪れない。


「ちょっと、寝つきが悪かっただけだ」


 上ずりそうになる声を抑えて、私はそっと鴉渡の指先から逃れた。再度、私達が歩き出そうとすると、背後から声が掛かった。


「香波濠くん!!」


 振り向けば、ふわっとした微笑を振り向きながら白鳥先輩が歩いて来る。うおおお。眩しさに目をやられそうだ。


「どうしたんですか」


 鴉渡がなぜか剣呑とした声で問い、私を庇うかのように先輩と私の間に立ち塞がった。


「香波濠くんにお礼を言いたくてね」


 白鳥先輩は鴉渡の態度に気分を悪くするでもなく、鴉渡の背後にいる私を覗き込み朗らかに言った。


「お礼?」


 私は思わず首を傾げた。

 白鳥先輩にお礼を言われる覚えなど皆目ない。

 コンサートに行った日だって、レモンティー渡して、当たり障りのない選択でやり過ごし、演奏に感動して、打ち上げに出ただけである。これのどこにお礼を言われる要素があるのだろう。


「コンサートの日に、香波濠くんが言ってくれた言葉のお蔭で……僕は今回の大会で入賞出来た」


「そ、そんな大げさですよ」


 元々、白鳥先輩はこの手の大会で入賞経験多数なキャラクターだ。私ごときの、あの病みを阻止したいが為の中途半端な会話で入賞出来たなど、ある筈がない。


「いや、君が僕を気遣ってくれたお蔭で、気持ちが安定してそれが結果に繋がったんだ」


「白鳥先輩……」


 あの時のあの会話が、白鳥先輩にそんな風に作用していたなんて。

 私としては、ゲームの本筋を変えないように、けれども、病みを阻止したい一心でやった事だったが、無駄ではなかったらしい。

 自分自身の死亡フラグ回避の為とは言え、白鳥先輩の心を軽く出来たのなら良かった。

 じんわりとした気持ちが胸に広がって行く。


「コン、サート…?」


 私を我に返らせたのは、低い低い呟きだった。

 こちらに背を向けていた鴉渡がゆっくりと振り返り、目を見開いて私を見下ろしている。


「コンサートって、あの時貰ったチラシのか?」


「…あ、ああ」


 鴉渡はどうやらきっちり覚えていたらしい。やっぱり記憶力がいい様だ。


「行かないって言ってたな」


「えっ」


 鴉渡の呟きに、今度は白鳥先輩が反応する。


「…気が変わったんだ」


 慌てて、私は二人にそう説明した。


「そうか」


「そうだったんだね。香波濠くんの気が変わってくれて良かった」


 なんだか楽しくなさそうな鴉渡と、安堵した様子の白鳥先輩。

 なんだろう、なんだか変な空気だな。


「香波濠ちゃん! 一緒にお昼どうやろか?」


「ぅわっ」


 怪訝に思っていたら、急に首と背中に衝撃を受けた。

 振り向けば、至近距離に見えるシャツから覗く胸板……見上げれば鶴織が猩々緋色の瞳を細めてこちらを見ている。相変わらず右目の泣きぼくろが婀娜っぽいですね。さすが乙女ゲームの攻略対象。

 …って、ここは見とれてる場合じゃない。


「はな「離せ」…れろ」


 私が鶴織に注意するのを遮って、鴉渡が低い声で告げた。

 それに対し鶴織は肩を竦めるだけだ。


「え~? ええやろ。俺と香波濠ちゃんの仲やしぃ」


「そんな仲になった覚えはない」


 はんなりチャラ男の発言に、私は反射的に言い返していた。

 鶴織がなんだか、腐った女子を喜ばせそうな物言いをするから、思わず、演じずともツンツン毒舌っぽくなっちゃったよ。


「照れとるんやなぁ……可愛ええなぁ」


 あ、視界の隅で腐った女子っぽい子がプルプルと肩を震わせている。……やめてください。鶴織の発言はただの私への嫌がらせです。そんな事実は一遍足りともございません。

 怯える私の腕が、グイッと急に引っ張られた。


「わっ」


「っ! 危ないやろっ」


「香波濠くんっ」


 鶴織と白鳥先輩の焦ったような声がする。

 私は思わず閉じてしまった目をゆっくりを開いた。


「……そんな、仲とは?」


 今度は鴉渡の顔が至近距離にあった!!

 え? あれ?

 私の腕を握っているのは鴉渡の手で、バランスを崩した私が支えらえているのは……鴉渡の胸板だ。

 これって、まるで、抱き締められているみたいじゃないかっ。

 

「~~~っ、萌えるっ」


「夏休み中に何か進展があったみたいね。三角関係から四角関係へと発展なんて、いいわぁ」


「魔性受けね! 魔性受けで逆ハーね!」


 廊下のあちこちでぼそぼそと、女子達の熱い囁きが聞こえた。

 が、私には否定する気力がない。

 なぜなら、真っ黒な瞳がきつい眼差しで見下ろしてくるからだ。

 

「そんな仲、とはどういう意味だ?」


 鴉渡は釣り目でキリリとした整った顔している。が、無表情な事が多く人によっては一見怖そうにも見える。けれども、実際話してみると言葉少ないが純朴で、誠実な気質だ。だから、そんな鴉渡が怒ったりするのを見た事が無かった。

 その為、初めて見た鴉渡のお怒りのお顔に、私はちょっと所ではなくビビっていた。

 彫の深い釣り目気味の黒い瞳が眇められる。それだけで、とんでもないド迫力が出るのだから、美形とは性質が悪い。

 なんだか知らないが、すごく怒っているみたいだ。

 

「鶴織の冗談だ。本気にするな」


 私は持ちうる気力をフル動員し、乾いた舌を無理やり動かした。


「……そうか」


 おお、この返答で正解だったみたいだ!

 ちょっと表情がいつもの無表情よりになった。


「それより、早く昼食に行こう」


「ああ」


 促せば、鴉渡の腕の中から解放される。

 

「そうや、さっさとせぇへんと昼終わるわ」


 鴉渡と歩き出せば、なぜか鶴織がついて来た。ああ、鴉渡の右眉がぴくりと動いた。まだ機嫌が悪いっぽい。……


「僕も一緒に行きたいんだが、駄目だろうか?」


 二人が睨み合ってるのを眺めていると、そっと白鳥先輩が話掛けてきた。私はホッとして頷く。あんな険悪な二人に挟まれるのはごめんだったので、助け舟に感謝だ。本当、白鳥先輩はこういう所いいキャラだよなぁ。ありがたい。

 こうして私達三人は昼食をとる為、カフェテリアへと向かったのだった。

 昼休みあとちょっとだけどな!

 なんか、野次馬っぽい女子達が距離開けてついて来るけどな!!






久々の更新です。

本日、あと二話更新予定です。


夏バテwのせいで鴉渡がおもしろい事になってきました。

まぁ、本人無自覚なんですけどね。

鴉、鶴、白鳥の中で自覚しかけてるの鶴だけなんですけどねww




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