33:夏休みは終了。
八月末日。
夏休みの課題を終えた私は、前世の記憶を書いたノートを広げた。
ノートには、夏休み中に起こるイベントが書かれていて、場所は海や避暑地、公園などと記されている。
それを見つめながら、私はほぅと溜息を吐いた。
イベントを回避する為、夏休み中にそれらの場所には一切近づかなかった。実際、イベントは回避出来たし巻き込まれもしなかった。
それなのに……夏休み中に接触を回避出来た攻略対象は、鴉渡しかいなかった。
寮では何度か鶴織に遭遇するし、夏祭りでは鷹宮寺に助けられるし、ゲーム買いに行けば白鳥先輩のコンサートでゲーム買えなかったし、再びゲーム買いに行けば梟首に遭遇するし。
梟首の時はちょっと心臓に悪かったなぁ。
二つのゲームソフトの内どっちを買うべきか悩んでて、やっと決めてレジに行こうと向きを変えたら隣に梟首がいた。
気配など感じなかったわ!
ホラーかよ! とちょっと涙目になりかけたわ!
それでなぜか、梟首にひたすらゲームについて質問攻めにあった。どうやら奴が言うにはずっと本ばっか読んでいたけど、最近はゲームにも興味が出てきたそうで、ちょうどゲームを吟味してる私を見掛けたらしく色々聞きたいと言っていた。
…なんで、攻略対象とゲーム話に花を咲かせてちゃったんだろう。いや、まぁ、私もついゲームの事となると話が止まらなくて……オタクの悪い癖だ。
それに今までゲームについて熱く語れる相手がいなかったので、ついつい久々のゲーム話に熱が入ってしまったのも事実だ。
……これからは自重しよう。
その反省をノートの一番新しいページに大きく書き込んだ。
ノートには夏休み中に接触した攻略対象と、場所と出来事に、どのルートに進んでいるかを観察した物を記してある。
明日からまた通常の学園生活という事で、気を引き締めようと夏休みの出来事を見返していたのだが、やはり未だいい対策は浮かばない。
「そもそも、主人公がいない時点でルート選択なんぞないんじゃぁ…」
現時点で、私の視点から見るに、どの攻略対象も誰かに恋をしている様子はない。
主人公がいるのならば、誰のルートに入ったかさえ解ればいい。
だが、主人公がいない現在、各攻略キャラの恋愛イベントが全て同時進行で起こるのか否かでさえ判別がつかない。
たとえば、鴉渡がこの学園の一般の女子生徒に恋をして、同一族のライバルキャラと修羅場になるのと並行して、鷹宮寺が女子生徒と触れ合い優しさに目覚めるとか。その裏側で、梟首が一般の女子生徒のお蔭で知識以外に目を向け、鶴織が一般の女子生徒に心を開き枕探しを止める。
純愛ルートで考えるだけでも、これら複数が同時進行で起こるなんて考えただけで、学園が恐ろしい事になりそうだ。純愛ルートと言えども、そこは異能力恋愛アドベンチャーだ。やはり事件や能力者の衝突はある。もちろん私はそれら全てのルートで死亡する。それに各攻略対象にはファンクラブなんかもあって、主人公をやっかんだファン達が起こす事件とかあった。それが複数同時進行に起こるとしたら、学園はとんでもない事になる。狂愛ルートでは、考えたくもない。
……それに、主人公がいない=攻略対象の惚れる対象が各々違う女子生徒になるとも限らない。
もしかしたら、これから、主人公ポジションとして一般の女子生徒が彼等の目に留まるかもしれないのだ。
もう初期のイベント終わってるけど。
「……あああ。こんがらがって来た」
私は机から離れて、べたんっとフローリングの上に大の字になった。
「取り合えず、レベルでも上げるか」
疲れた心には癒しが必要だ。
私は買ったばかりの携帯ゲーム機の電源を入れた。
夏休みのまとめの話でした。




