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24:微睡みの中の鶴



鶴織視点の話です。




 眠りから覚めれば、ラウンジはすっかり暗くなっとった。時計を見れば二時間経っとる。

 俺は欠伸をしながら、膝枕をしてくれとる香波濠ちゃんを見た。

 が、香波濠ちゃんは目を閉じとる。 


「香波濠ちゃん…?」


 呼び掛けてみるんやけど、反応がない。

 閉じていた目を開けば、香波濠ちゃんがこくりこくりと舟を漕ぎ始めてとった。

 寝転がったまま肩を揺さぶってみても、反応はあらへん。

 俺はもう少し横になっていたかったんやけど、起き上がった。


「寝とるんか」


 また呼び掛けても、香波濠ちゃんはむずがるように唸るだけやった。俺は香波濠ちゃんの隣に腰を下ろし、香波濠ちゃんの肩を抱いてこっちへ引き寄せた。


「眠かったんはお互いさんやったか。そりゃ堪忍なぁ」


 香波濠ちゃんの頭を俺の膝に乗せてやる。

 お、髪の毛サラサラやわ。キューティクルも綺麗やし、天使の輪とかよく見えとったもんなぁ。

 触り心地のええ真っ黒な髪を触っとると、香波濠ちゃんの顔が顰められた。閉じられた瞼がギュッと力が入って、小さな唇が噛み締められとる。あの凛とした瞳が閉じられとると、なんや幼く見えるわ。

 お、ほっぺプニプニや。もち肌ってこんな感じやろか。


「う~」


「くくっ…かわいらし」


 ほんま、男のくせになんでこんなかわいらしんやろ、この子は。

 膝枕して貰おうた時やて、これが男の太ももかってくらい柔わかったわ。

 やっぱええな。他のどんな女の子に抱き枕にしても、ここまで眠れへんかった。香波濠ちゃんやと膝枕だけで、こんだけ熟睡出来るんやもん。たった二時間眠れただけで、こんなにスッキリするなんて初めてや。この子、なんや不思議な癒し成分でも出しとるやないの。

 だから、鴉渡なんかもこの子に構うんやろか。

 体育祭で、俺ら二人を見つけた時のあの顔はおっかなかったなぁ。教室訪ねて行った時なんか、ほんま殴り合いにでもなるかと思うた。俺かてあの子庇う鴉渡を見た途端、けったくそ悪い気分になったわ。

 ……そういえば、あの時の香波濠ちゃんの笑顔は、えらいかわらしかったわ。いつも無表情や睨んでくる顔ばっか見てたせいやろか、なんかキラリとしてさえ見えたわ。

 あの時、急に香波濠ちゃんが聞いてきた「今、好きな人はいるか?」って結局、どういう意味やったんやろ。好きな子でもおるんやろか。それを俺らに相談でもしたかったんやろうか。でも、この子そういうキャラやない気もするし。

 あの質問をされた時、胸の奥がドクッとしたわ。

 咄嗟に答えられなくて、鴉渡が先に聞かれてちょっとホッとしたんや。


「この間の好きな子おるかっていう質問の答えなぁ……あれ、実はちょっと違うんや」


 香波濠ちゃんの頭を撫でながら囁いた。

 眠っている今しか、言う事なんてでけへん。


「好きな子はおらへん。……でも気になっとる子はおる。目が離せへん。自分でも、こんなんおかしい思うのに」


 俺を睨む凛とした黒い目だとか、無理に繕ろうてる仮面やとか、時折その仮面の間から覗く素の表情だとか……そういう全てが気になって仕方ないんや。

―――香波濠ちゃんは男やっていうのに。

なぁ、香波濠ちゃん、あの質問ってどういう意味なんや?

 そう聞いても、教えてなんてくれへんのやろ。

 ええよ。でも、もし、もしも、香波濠ちゃんが好きな女の子がおったんやったら、俺は邪魔してしまうかもしれへん。

 香波濠ちゃんがその女の子に告白しても、断るように禽の一声で操ってしまうかもしれへん。

 今日、寮に残った生徒数人に声を聞かせてしもうたみたいに。

 本当は、今日だってずっと香波濠ちゃんを待ってラウンジにおった。もし一緒に寝てくれるのを断られてたら、禽を使うつもりやった。

 おかしいんや。

 俺かてちょっと前までは、禽を使うのもう少し躊躇してたんや。こんな人の意思を奪う能力なんて、一族の仕事以外に使わへんって思うとった。あいつらみたいに、必要ない人間まで操り人形になんてしないって思うとったんや。なのに、香波濠ちゃんの事となるとダメや。我慢がきかん。

 屋上で香波濠ちゃんとの話を邪魔をした女の子や、今日の寮に残った生徒みたいに、香波濠ちゃんと会うの邪魔する奴全部に禽を使ってしまいそうや。

 こんなに誰かを気になるなんて、初めてやわ。

 なぁ、やっぱり俺おかしいんやろか?

 屋上での時やって、あの女の子と恋人だって香波濠ちゃんには誤解されたなかった。今まで外野にどんだけ女の子との関係を誤解されても、何言われても平気やったのに。香波濠ちゃんにだけは、絶対、嫌やった。

最初は抱き枕として、香波濠ちゃんが必要やった。せやけど抱き枕やったら、別に好きな女の子がおったってええ。鴉渡がそばにおったってええ。一緒に寝てさえ、俺を寝かせさえしてくれればええ筈なんや。

 …………あかん。

 これ以上、考えたらあかん。ここから先は、ダメや。

 今は、気になるだけでええ。

 香波濠ちゃんは特別よく眠れて、特別気になる抱き枕や。それだけや。


「堪忍なぁ…」


 こんな騙し討ちみたいな真似して、香波濠ちゃんは俺に呆れとるんやろな。

 会う度、抱き枕になってなんて同じ男に言われるんやてさぶいぼ立てとるんやろ。

 サラサラの髪を撫でて、寝顔を覗き込んでいると瞼がぴくりとした。そろそろ起きるんやろか。

 うっすらと開かれていく黒い瞳。いつもの凛とした雰囲気はなく、どこかぼんやりとした視線で周囲を見渡してとる。

 それをかわいらしと思いつつ、わざと軽い口調で声を掛けたる。

 

「香波濠ちゃん、やっと起きたんか」


 黒い瞳が三度、パシパシと瞬き俺を映した。






鶴織、ヤンデレ初期症状(自覚あり)です。

ハカナに特別な思いがあるのは気が付き始めて

いるようですが、ハカナを男と思ってるので

まだ開き直れてませんw



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