22:夏休み開始のお知らせ
ようやく、やって参りました夏休み!
全校集会も終わって、教室で担任が夏休みで浮かれすぎないように釘を刺し帰りのHRが終わる。
浮かれながら教室を出て行くクラスメート達に私も続こうとした時、鶴織が現れた。
「香波濠ちゃん、おる?」
鶴織は開いていたドアから顔を覗かせ、教室を見回した。
赤い瞳が私を見つけて細められる。
そのまま奴が教室に入ろうとてきた。
しかし、ドア付近の席の生徒が立ち上がる。
「香波濠に何の用だ」
鴉渡だ。そういえば、席がドアのすぐ近くだった。
自身を遮るように立ち塞がる鴉渡に、鶴織が眉を顰める。
「体育祭の時もお前、俺の邪魔しとったなぁ。何なん?」
「お前こそ、香波濠に絡んでいただろう」
睨み合う二人。まるであの体育祭の日の対峙の再現だ。
一触即発の雰囲気に青くなる私とは反対に、教室のあちこちで小さな喜びの囁きやら歓声が聞こえた。……空耳だったらいいのにな。
一部の腐った女子達が「三角関係だわ」だの「香波濠君を取り合ってる」だのきゃいきゃい言っている。
違うんだよ!
これは、チャラ男に絡まれた貧弱少年を助けようとしている純朴クラスメートという関係なんだ!
断じて色恋沙汰なんかではないんだ!
私が胃をキリキリさせながら唇を噛んでいると、再び鶴織がこちらを見た。
「なぁ、こいつ、香波濠ちゃんの何なん?」
「……は?」
「友達だ」
ぽかん、としている私に構わず鴉渡が答えてくれた。
私、いつの間にか鴉渡と友達になっていたらしい。
そういえば気づけば二人で移動教室の時は移動していたり、クラス内で私の世話係的なポジションになった鴉渡とは一緒にご飯食べたりしてたな。
……ダメじゃないか。全然、攻略対象を回避出来てないじゃないか。
「……帰る」
「え?」
「何でや」
二人が何やら怪訝そうにしているが、女子達の腐った囁きをBGMに私は鞄を持って教室を出た。
「なぁ、どないしたん」
「調子が悪いのか?」
二人が後からついて来て何やら話掛けているが、答える気力もない。
私、全然ダメじゃん。
攻略対象を避ける所か、まさに今、二人について来られてるじゃん。
確かにイベントの起こる時期に起こる場所には近寄らないから、イベントには巻き込まれていない。
だけど、気づけば鴉渡、鶴織、白鳥先輩、梟首、と続々と接触を持っているじゃないか。白鳥先輩や梟首はそれ程接触を持っていないから、いいとして、前半の二人は問題だ。
鴉渡はクラスメート兼私の世話係みたいなポジションに固定されつつあるし、鶴織は何を勘違いしたか私を抱き枕にしようと熱心だ。
もし、この二人が誰かに恋をしたら。
この二人の純愛ルート、狂愛ルート、どちらでも私は死ぬ。今のままだと二人との関わりが多いだけあって、死ぬのは避けられない気がする。
主人公の現れないこの学園では、どのルートが選択されたか解らない。
困ったな。純愛ルートなのか狂愛ルートなのかで、私が回避しなければならないイベントは変わるのに。
ちょっと、探りを入れてみるか。
「二人に聞きたい事があるんだが」
私が立ち止まり振り向くと、二人揃って何だか安堵したかのような雰囲気になった。さっきまで対立してたのに、案外仲いいのかな。
それより、攻略対象の好感度の探りを入れなくては。
「今、好きな人はいるか?」
「……」
鴉渡は沈黙した。
いるのか、いないのか、どっちなんだとじっと観察すれば目を逸らされた。照れているんだろうか。こういう話は苦手だったのかな。探りの入れ方を間違えたみたいだ。
「あ~、おらんかなぁ?」
鶴織は曖昧に笑って答えた。チャラ男キャラだから、顔を観察しても本心は解らない。そもそも、自分の周りにいる女の子全員好きとか思ってそうだな。
こちらも正攻法では教えてくれそうにない。
困ったな。
攻略対象が恋心を持っているかどうか、その様子から病んでいるか、純愛なのかを判断しようと思ったのに。あわよくば、好きな相手を聞き出してその人物を観察していれば、どのルートが選ばれたのかの判断材料になると思ったんだけどなぁ。
「そういう香波濠は、どうなんだ」
「あ、俺も気になるわ。香波濠ちゃんの好きな子とか」
「え?」
考え込んでいたら、こっちに話題を振られた。
何だこの恋バナ的雰囲気は。
いや、話を切り出したのは私なんだけども、二人とも答えを期待しているのか固唾を飲んでいるんだが。……
「いない」
「おらへんの」
「そうか」
おいおい、なぜ二人ともホッとしてるんだ。
もしかして……二人ともやっぱり好きな人がいるんじゃないのか。だとしたら、好きな人が被ってライバルが増えたら嫌だとかそういう意味で安心したのだろう。
やっぱり、正面から聞くのではなく二人の様子を観察して、どのルートなのかを見極めていくしかないな。
そういう意味では、今の二人との関係も観察し易くていいのかもしれない。
イベントにも巻き込まれていないし、二人もヤンデレ化していないからセーフだ。セーフ。卒業までは気が抜けないけど。
まぁ、どうせこれから夏休みなんだから、当分顔を合わせる事もない。夏休みの間ぐらいは安全だろう。
「よし、帰るか」
私が二人に向かって言うと、なぜか二人とも目を見開いた。
どうしたんだろう。背後に何かあるのかと振り返っても、誰もいない。
「俺、香波濠ちゃんが笑うん初めて見たわ」
「…俺は二度目だ」
「なんや、自慢してんの」
「いや、事実を言っただけだ」
どうやら、少し気が抜けたせいで表情筋が緩んでしまったらしい。
いけない。しっかりしなくては、と気を引き締める。
「行くぞ」
歩き出すと、二人もついて来たのでそのまま私達三人は、帰寮した。
再び鶴と鴉に板挟みの話です。
ちなみに周囲の腐った女子達には
鴉渡が「友達」と即答し
ハカナがショックを受けて
それを知られないように「帰る」と
言い出したと受け取られてしまっていますww




