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SHINOBI  作者: 那津
5/10

恐れる者




千鳥は天守閣の屋根へ向かおうと廊下へ出た。

閻魔に先ほど助けてもらった礼を言うのを忘れていたのだ。

廊下を歩いていると、城主が奥からこちらへ向かってくる。それはまるで流れるようになめらかな歩みだった。

千鳥は立ち止まって頭を下げた。

「おはようございます」

城主は歩くのを止めずに千鳥の横を通り過ぎる。

頭を下げている千鳥の耳に、何者かの声が響いた。



―不老不死を欲するは


夢幻の銀狐―



千鳥は頭を上げ、後ろを振り返る。

城主が、吸い込まれていくように廊下を進んでいく。

「……」

気のせいか。

千鳥は気をとりなおして屋根へ上った。一番上では閻魔が凛と立っている。

「閻魔」

呼ぶと彼は目だけを動かして千鳥を見た。

千鳥は前へ立つと頭を下げる。

「先ほどはすまなかった。おかげで助かった。ありがとう」

すると閻魔は千鳥から空へ視線を移す。

「ここへ来たのはそれを言うためだけか」

千鳥は頭を下げたまま目を小さく見開く。

見透かされた。

実は彼に聞きたいことは山ほどあったのだ。しかし、何から聞けばいいのかわからない。それに、尋ねた先に返ってくる答えが恐ろしくもあった。

言葉に詰まっていると閻魔から口を開いた。

「恐れるな」

千鳥は顔を上げた。小さく両手を握り締める。

「閻魔」

閻魔は視線を空から外さない。

それでも千鳥は続けた。

「影やイズミや銀は、罪を犯したのだな」

「ああ」

「それで、閻魔は彼らにその愚かさと罪深さを諭す為に、罰として『シノビ』で働かせているのだな?」

「そうだ」

「ならば、その罰に」

千鳥は真っ直ぐ閻魔を見つめる。

「その罰に、先はあるのか」

閻魔はやっと千鳥を見た。

その深い鉄色の瞳に捕らえられ、千鳥は後ずさりそうになった。しかし浮いた右足を押さえつけ、逆に閻魔を睨み返すようにして更に問う。

「彼らはこの先どうなるのだ。『シノビ』で強制的に働かされていることの他に、罰はあるのか」

閻魔は静かに答えた。

「罪を犯した者は、我が手中で、事の愚かさと重さを一生をかけて知る。そして一生をかけて罪を償う。彼らが死ぬまでに、己がいかに愚かで己がいかに罪深いかを自覚したならば、彼らの罰に先はない。だがしかし」

閻魔はその鉄色の瞳をキラリと光らせた。

「彼らが同じ過ちを再び繰り返したとなれば、我はすぐさま彼らを地獄の底へと誘う」

その瞳は真実を語っていた。そしてそれがいかに苦しく恐ろしいことかも同時に告げている。

千鳥は急に怖くなった。震える体を止めようとする。しかしうまくいかない。

閻魔はその恐怖から千鳥を解放するかのように、視線を空へ移す。

その瞬間、千鳥の体から力が抜け、崩れるように閻魔の足元に座り込んだ。

止め処なく汗が噴出してくる。

千鳥は拳を握った。

「閻魔……他にも、聞きたいことが……」

「なんだ」

千鳥は彼の顔を見ずに尋ねた。

「私は……罪を犯したのか?」

「何故そう思う」

「『シノビ』とは罪深き者たちが集う所。だとすれば、私も何か罪を犯したことになる。しかし私にはその覚えがない」

「当たり前だ。お前は罪など犯してはおらぬ」

千鳥は思わず顔を上げた。

「違うのか? 閻魔が私を『シノビ』へ導いたのではないのか?」

閻魔は決して千鳥を見ない。真っ直ぐ前を見据えたまま、重みのある声で言った。

「あれはお前の意思であろう」

「ならば何故だ。何故閻魔は私が『シノビ』へ入ることを許した」

「お前は、彼らを救うことができる」

千鳥は目を見開いた。

閻魔は続ける。

「我はお前の目にそれを感じ取った。だからお前を『シノビ』へ入れることを許し、彼らと行動を共にするようにした」

「私が、彼らを救う?」

その意味を更に問おうとすると、閻魔はわずかに目を細めた。

「どうやら、帰ってきたようだな」

千鳥は振り向いた。

森の上を一羽の烏が飛んでいる。

そしてその下の木々が、カサカサとわずかに揺れていた。

その揺れは、徐々にこちらに近づいてくる。




「お帰り。収穫はどうだった?」

皆が部屋に集まるや、イズミは首を傾げた。

すると銀がニヤリと笑う。

「バッチリだぜ。蘇芳と桜の言った通りちゃんと城があってよ。調べてきた」

「それで?」

「これが、俺たちを襲った計画が書いてある、計画書だ」

銀が一冊の書を取り出す。中は筆で書かれた文字がびっしりと並んでいた。

「へぇ。お手柄だねぇ」

イズミはそれを受け取ってパラパラとめくった。

しかし、閻魔は彼から書を取り上げると目を細める。

「くだらん。銀狐も聞いて呆れる」

そして片手でその書をぐしゃ、と握ると、書はたちまち消えた。

「なっ……」

皆が驚いていると、閻魔は握っていた手を下へ向けて開いた。はらはらと落ちてきたのは、数枚の葉っぱだった。

蘇芳が声を上げる。

「葉っぱだぁ!」

続いて桜も、

「これって幻術だよね!」

イズミは小さく笑う。

「どうやら騙されたみたいだねぇ」

「くっそ、一体誰がこんな」

イズミは閻魔を見上げた。

「ねぇ、総司令官様はどう思う?」

彼はしばらく黙っていた後、影の方を見た。

「お前たちの忍び込んだ城とはどのような城だったのだ?」

影はジッと閻魔を見ている。

やがて閻魔は影から目を逸らせた。

「なるほど」

その様子を見た蘇芳は驚きの声を上げる。

「総司令官様、影様とお話できるの!?」

「すごぉい! 桜も影様とお話したいなぁ」

しかし閻魔は何も言わない。

蘇芳と桜は特にそれを気にしているわけでもないようだ。握った手を前後に振りながら、顔を見合わせ、『すごいねー』と声を揃えて喜んでいる。

閻魔は皆に言った。

「詳細はわからんが我々の動きは既に知られている。しかし何もしないわけにもいかん。明日は銀、千鳥、蘇芳、桜の四人で城へ向かって慎重に調べろ。我も同行する」

「僕は行かなくていいの? 今日も何もしてないけど」

イズミが首を傾げると、閻魔は頷いた。

「かまわん。影とここで連絡を待て」




翌日、千鳥は銀たちと城へ向かった。

「こっちだよぉ」

「だよぉ」

蘇芳と桜の案内により、小一時間ほど森を進んで城へ到着した。古くはあるが、千鳥達の泊っている城とよく似ている。

城を見上げながら、千鳥が呟いた。

「人の気配がするな……」

「うん、昨日も人がいっぱいいたんだよ」

「だから気をつけてねー」

すると閻魔は烏の姿になって言った。

「我は別の道から調べる」

千鳥は頷いた。

閻魔は城の方へ向かって飛び去った。

千鳥たちも慎重に城の中へ忍び込む。屋根裏をひっそりと歩きながら進んだ。

「昨日調べたところはまぁ行かなくてもいいか……」

ボソボソと独り言を言いながら先を行く銀に、千鳥は後ろから声を掛けた。

「銀」

彼はクルリと振り向く。

「なんだ?」

「……聞きたいことがあるんだ」

「何を?」

「……」

千鳥は顔を上げた。

「銀は神に何を欲した?」

銀は目を見開く。

「聞いたのか?」

千鳥は頷く。

「閻魔と、イズミに」

「そっか。……イズミのことは聞いたのか?」

千鳥は頷いた。

銀は苦笑いを浮かべた。

「しょうがねぇな。あいつがしゃべったんなら俺も話すしかねぇじゃねぇか」

そしてその場に座った。

千鳥も腰を下ろす。

すると蘇芳と桜が首を傾げた。

「お仕事は?」

「どうするの?」

「ちょっと休憩だ。お前らも悪いがジッとしててくれ」

「うん」

「桜、蘇芳と我慢大会する!」

「するー!」

そうして二人は手をつないだままじっとそこへ座った。

銀は千鳥に目をやる。

「俺は、神に不老不死を求めたんだ」

「不老不死……?」




少年は空へ向かって叫んだ。

「死にたくない! 僕は、死にたくない!」

足元には、弾丸に倒れた人々。煙が立ち上り、辺りを炎が包む。

泥だらけになった裸足の足は疲れきってもう動かない。地に膝を付き、地面を掴んで、しかし顔だけは天へ向けて。

少年は、叫んだ。

「死にたくない!」

涙を流し、恐怖に怯え、必死で喚いた。

「誰か助けて!」

体がガタガタと震える。

「誰でもいい!」

壊れてしまいそうだった。

「誰でもいいから! 僕を……」

一際大きく救いを天へ求めた。

「助けて!」

少年の顔に、水が落ちてきた。

雨である。

それは瞬く間に無数に落ちてきた。静かに耳へ響く雨の音。

その時、少年の前に誰かが立った。彼は手を差し伸べてくる。

「己の身は己で守れ」

少年は絶望に満ちた瞳で男を見上げた。

「……助けてくれないの?」

「私はお前に、自分を守る方法を教えよう」

「……」

少年は男の手を取った。

その日から少年は、忍となった。男に拾われて数年間、『死にたくない』という強い思いだけを胸に見る見るうちに技を習得していった。そしていつしか少年は幻術の達人となった。

そんなある日、少年に技を教えた男が老衰で死んだ。

彼がいなくなっても少年は修行を怠らなかった。

少年は、いつものように森で修行をしていた。

休んでいる時、ふと男のことを思い出し空を見上げて呟く。

「俺に不老不死の力があればなぁ……」

『死にたくない』

その思いを胸に技を習得し、上達していって、自分の身を自分で守れるようにはなったが、それでも人はいつかは死ぬものだ。

あの男のように、いつか自分も年をとって死んでいくのだろうか。

――嫌だ。

死にたくない。

その時、風が舞い上がった。柔らかいが、どこか冷たい不気味な風である。

少年の目の前に、誰かが立った。

子供のように見えるが、同時に大人のようにも見える不思議な顔である。

「……誰だ?」

「神」

「神?」

神は無表情で問う。

「お前は何を欲する」

「俺の欲しいもんくれるのか?」

「神はお前の欲する物を何でもやろう」

神は少年の頬に手を添える。

「お前は何を欲する」

少年は目を輝かせた。

「俺に不老不死をくれ。俺は死にたくねぇんだ」

神は真っ直ぐ少年を見た。

「いいだろう。だが、神はお前に不老不死を与える代わりに、『光』を貰おう」

「光?」

「光を奪われればお前はもう何も見ることはできない。それでもいいのだな?」

少年は頷いた。

「いいぜ。死なねぇならな」

「いいだろう」

神は少年の頬から放した手を高く上げた。

「夢幻の銀狐に、不老不死を」

透き通るような声でそう呟いたかと思うと、一筋の光が真っ直ぐと天から差してきて少年を包んだ。

少年は目を閉じる。

光が消えるのが感じられ、ふと目を開ける。少年は首をいろいろな方向にぐるりと巡らした。

「何も見えねぇ……。まさか本当に……?」

神は少年の目に黒い布を巻いた。

「神と交渉をした証だ。これを外すことを神は許さぬ」

そして神は静かに消えた。




「……というわけで、俺は神に不老不死を求めたってわけ」

千鳥は首を傾げた。

「待て。ならば銀は両目が見えていないはずでは……?」

すると銀はニヤリと笑う。

「神ってのも案外大したことねぇんだよな」

「どういうことだ?」

「百日夢幻」

「え?」

「俺は『光』を奪われる時、百日夢幻を神にかけたんだ」

「百日夢幻……? 聞いたことないが」

「幻術の一種で、古くて難しい技だから最近じゃ誰も使わねぇような術だ。その術にかかった奴は一生幻術にかかったままなんだ。それで俺は神にその百日夢幻を使って俺の左目から光が奪われたと錯覚させたんだ。さすがに右目の光はくれてやったけどな」

「神を騙したのか!?」

銀はケラケラ笑う。

「何も見えなくなってたまるかよ」

千鳥はポカンと口を開けている。しかしやがてふと首を傾げた。

「銀は、どうしてそんなに死にたくないのだ?」

その時銀は顔を曇らせた。

「昔、俺は死が怖かったんだ。ガキの頃、俺は戦争の中で育ったからな。死を恐れ、永遠の生を手にしたかった。だが、不老不死を手に入れてみると、今度は生が怖くなった。皆は年老いて死んでいくのに、俺だけそうならねぇ。いずれ周りの奴らに怪しまれ、友と呼び合った奴らは皆死んでいって、何度でも孤独を味わう。友を作っては一人になって、一生それの繰り返し……」

銀はフッと笑った。

「まぁ、だから仲間意識の薄い忍としてこうやって働いてる方が気楽でいいんだけどな」

「……銀」

「ん?」

「不老不死ということは年を取らないということか?」

「ああ」

「ということは銀は子供ではないのか?」

「だからいっつも子供扱いするなって言ってんだろ」

「一体何歳なのだ?」

すると銀は意地悪く笑う。

「内緒」

そして立ち上がるとドンドン進んで行った。

「じゃ、仕事再開するぞ」

「あ、待て」

千鳥も慌てて追い掛けた。

その時、声が聞こえた。

「侵入者だ!」

「直ちに排除せよ」

そして複数の忍が現れた。

「見つかっちまったか」

千鳥は銀に向かって首を傾げる。

「こういう場合、相手は倒していいものなのか? 人を殺すことは罪だ」

銀はニヤリと笑う。

「閻魔によると、こいつら全員倒していいらしいぜ」

「なぜ」

「知らねぇよ。でも、閻魔がいいって言ってんだから、いいんだろ」

そして蘇芳と桜に向かって言った。

「んじゃ、蘇芳、桜。クナイを十本、大至急」

二人は手を上げた。

「はぁーい」

「クナイ十本作りまぁす」

そして鉄の板を十枚、金槌を一つ取り出して作り出した。

その間に忍たちは一斉に襲ってくる。

銀は体術で敵を倒し、千鳥は手裏剣で戦った。

やがて蘇芳と桜の作ったクナイが銀の方へ投げられる。

銀は見事にそれらを全て宙で受け取り、敵へ向かって放った。

「くらえっ!」

急所に次々と命中していく。

「銀様すごぉい!」

「百発百中だぁ!」

蘇芳と桜は飛んで喜んだ。

しかし、敵はどこからともなく次々と現れてくる。

「キリねぇな……」

千鳥は蘇芳と桜を振り向いた。

「イズミと影に連絡を頼む」




「影さーん」

イズミは城内で影を捜し歩いた。蘇芳と桜から連絡があったのだ。

「んー。しょうがないなぁ……。僕だけでも先に応援に行った方がいいかなぁ……?」

その時彼は殺気を感じた。サッと振り向くとそれはすぐになくなった。

「……」

しばらくそのまま殺気の消えた場所を見ていたが、イズミは再び歩き出した。

彼が去ったことを確認した氷雨はフッと笑った。

「影よ、どこへ行こうとも無駄だ」

そして氷雨も再び影を探し始めた。

しばらく行くと、廊下の奥で黒いマントが角に消えたのが見えた。

「見つけたぞ」

氷雨は冷たい笑みを浮かべるとその角を曲がった。

そこに影はいた。

氷雨はニヤリと笑う。

「影、お前と戯れに来たぞ」

目の前の影はマントを翻した。

次の瞬間、そこにイズミが現れた。

彼はニコニコ笑っている。

「残念でした。影さんはここにはいないよ。千鳥ちゃんたちの応援に向かってもらったんだ」

目を細める氷雨にイズミは苦笑する。

「昔銀くんにちょっとだけ教えてもらった幻術が役に立ったみたいだね。すっかり騙されちゃってさ」

そして笑顔のまま続けた。

「君と影さんは戦わせないよ」

「仲間意識の薄い忍が何を言う」

「それ、誤解だよ。僕はもともと忍じゃないんだ。だから忍らしくとか、仲間意識がどうとか、関係ないよ。僕はみんな大好きなんだ。だからね」

翡翠の瞳がスッと開かれる。

「僕は君を全力で止めるつもりだよ」

氷雨はハッと笑う。

「好きにしろ。どうせ即死だ」

「そっか。確かに影さんが苦戦した相手ならそれは危ないかもね。だったら君も」

イズミはニコリと笑って手を差し出した。

「一緒に逝こうよ」

氷雨は不敵な笑みを浮かべた。

「愚かな」

イズミはクナイを手に氷雨に飛び掛る。スッとそれを放つといとも簡単に避けられた。

しかし続いて手裏剣を投げる。見事な弧を描き、それは柱に刺さった。

間髪入れずに次の手裏剣を放つ。

氷雨はそれらを全て避けた。

やがてイズミは氷雨から間合いを取ると手をヒラヒラと振った。

「あーあ。なくなっちゃったよ」

「そうか。しかし、お前の技はただクナイや手裏剣を投げるだけではないだろう」

ニヤリ、と不気味に笑う。

「それだけではつまらない。見せてみろ。お前の本当の技を」

「よく知ってるねぇ。調べたの?」

「調べるまでもない。お前の前に立てば、それだけでわかる」

「どういうこと?」

イズミが首を傾げた。

その瞬間、氷雨は僅かに顔を伏せた。

「つまり―――」

下から、笑いながらイズミを見る。

寒気を覚える間もなく氷雨は走り出した。

間合いが近すぎる。

油断していたイズミの反応が遅れる。

氷雨は獲物を捕らえる鷹の爪のように、手を開いた。

そのまま指先をイズミの右肩に突き立てた。

氷雨の手はイズミの肩を貫通する。

「!」

痛みよりも、驚きの方が早かった。

氷雨はニヤリと笑う。

「こういうことだ」

氷雨は勢いよく手を引き抜いた。

「くっ……」

イズミは肩を抑えて氷雨から離れる。

氷雨はニヤニヤ笑いながら血のついた右手を眺めた。

「……この技は」

その呟きに、氷雨はイズミを見た。

「これが、お前の十八番だろう?」

氷雨はゆっくりと近づく。

逃げようにも、動けなかった。自分が敵に攻撃する時のパターンとまるで同じだ。まず相手の動きを封じ、そしてさっき氷雨がやったように仕留める。しかしこの技はイズミにしかできないことなのだ。

「どうして……」

冷たくイズミを見下ろす。

「お前なぞ、それを知る価値もない」

しゃがみ込むとイズミの顔をのぞきこんだ。

「敗者は何も知らずして逝くんだ。お前がそうしてきたようにな。だが、勝者には全てを知る権利がある。そうだろ? お前も今までそうしてきたんだから」

「……そうだね。じゃあ、君は何が知りたいの?」

「どうして俺が影と戦ったのがわかったんだ」

イズミはニコリと笑う。

「影さんと会話しただけだよ」

「嘘を言うな。あいつは喋れない」

「別に、言葉だけが会話の全てじゃないよ。影さんはね、千鳥ちゃんたちの応援に行く前に、僕を一度振り向いたんだ。その時まるで……」


『氷雨に気をつけろ』


「って言ってるみたいだったんだ。だから、ひょっとしたら、って予想をつけたんだ。どうやら当たったみたいだね」

氷雨はイズミの言うことを信用していないようだ。

鼻を鳴らした後、イズミの髪を鷲掴みにした。

「絶体絶命だというのに、随分と余裕なんだな」

「そう? これでも頭はフル回転させてるよ。どうやったら君も道連れにできるかって」

氷雨は冷笑を浮かべた。

「無理だな」

鷹の爪が、獲物を捕らえようと鋭く開かれた。

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