8話 胸板と美女
少しシモネタありです…。
「お前今日はうちに泊まっていけ。」
おやっさんがいきなり言い出した。
「え?俺は傭兵団の独身寮で暮らすって決めたはずだぜ?おやっさんの厄介になるつもりはねぇよ。」
「ばぁか、こんな夜遅くに小さい女の子をむさ苦しい野郎どもの中にいきなり放り込めるかよ。」
おやっさんは俺の頭をグシャグシャにかきまぜながら言った。
いくら女日照りの野郎どもだからって、こんな幼女を襲うほど下種な野郎は傭兵団の中には絶対いない。
おやっさん、やつらのこと信じてないのか?
そんな俺の考えが顔に出ていたのか、おやっさんは苦笑しながらあきれた口調で続けた。
「お前な、朝起きて隣の部屋に見知らぬ幼女がいたらどう思うよ?」
…隠し子を連れ込んだか、血迷ってどっかから攫ってきたかと思うだろうな…。
「寮で生活を始めるのは野郎どもにクランの設定を説明して、環境を整えてからだ。」
納得した俺を見ておやっさんとキースは簡単な打ち合わせをし、そこでキースは別れた。
「さて、俺たちも帰るか。」
「うわっ!?」
おやっさんは不意をついていきなり俺を肩車した。
「おやっさん!」
「いいじゃねぇか、孤児院にいたときは逃げ回ってさせやしなかったからな。それこそ、こんな奇跡でもおきねぇかぎりな。」
おやっさん、こんな奇跡いらねぇって!
俺の必死の抗議をさえぎり、おやっさんは妙にしみじみと話しながらもズンズンと大股で歩いていく。
確かに幼女の俺が歩いていくよりもこちらが早い。
俺はたとえようも無いむず痒さを堪えながら回りに誰もいないのがせめてもの救いだと無理やり納得させ、落っこちないようにおやっさんの頭にしがみついた。
おやっさんの髪の毛は見た目以上に剛毛でかたかった。
10分ほどその状態で移動していると、おやっさんは路地に入って俺を頭の後ろからゆっくりと下ろし胸に抱きかえた。
「!?」
いきなり目の前に灯りがともされ、闇の中に家紋も装飾品もついていない小さな馬車が浮かび上がる。
「待たせたな。」
おやっさんはそう言うと、俺を片手で抱きかかえたまま馬車に乗り込んだ。
おやっさんがそのままクッションに座り、自然と俺はおやっさんの膝の上に横すわりのかっこうになってしまった。
「ちょっ、おやっさ「出してくれ」」
慌てて膝の上から降りようとしたがおやっさんの合図で馬車が動き出し、頭から転げ落ちそうになった俺は更におやっさんに強く抱きとめられる結果になってしまった。
先刻から続くありえない扱われ方に俺は強く抗議したが、おやっさんに笑って流された。
しかも意図的にか無意識にか俺の背中をトントンと一定調で叩き続け、馬車の振動とあわせ俺はいつの間にかありえないことにおやっさんの膝に座ったまま眠ってしまった。
「ハニーは女の子を欲しがってたからなぁ、連れて帰ったら離さねぇだろうなぁ。」
眠る俺の顔を眺めながらおやっさんが悪党の笑みを浮かべていたことを、俺は知るよしもなかった。
おはよう諸君、いい朝だ。
さて、突然だが想像して欲しい。
君は健康な25歳の好青年だとしよう。
君が朝に目覚めると、目の前にいきなり自分よりもごつい胸板が飛び込んできたらどう思うか。
しかも自分の頭の下にふっとい男の腕が、つまりいわゆる腕枕をされていたら?
一夜の過ち!?そう焦って体の、尻の違和感を確認しようとするだろうか。
そして仰向けで寝ている状態で目線だけを動かし体を確認すると、素っ裸かと思いきや女の子用のネグリジェを着ていたら?
あれ?俺変態?いや、目の前の男が着せたのか?そういうプレイ?っていうか俺の体小さくないか!?
慌てて手を上げようとして、男と反対側にこれまたネグリジェ姿の若い美女が俺の手を両手で握ったまま眠っているのに気が付いたら?
無防備な寝顔やちょっと乱れた寝姿はなかなかの色気だ。
いやいや、これは3人でイイことしちゃったのか!?
あれ?この顔どっかで見覚えが…
「…あら、クラン起きてたの。早いのね。」
俺の気配で美女が目を覚ました。顔にかかる長い栗毛色の髪を耳にかけ、ふんわりと俺に笑いかけた。
思い出した!おやっさんの奥さんだ!
そこで俺はようやく完璧に目が覚め、幼女になったことを思い出した。
寝ぼけていたとはいえ、恥ずかしい勘違いをいろいろとしちまったぜ。
じゃあこのごつい胸板と腕はおやっさんか。それはそれでなんか微妙な状況なんだが…。
そんな感じで自分の世界に入っていた俺に、おやっさんの奥さんは優しい手つきで俺の頬を撫でながら言った。
「昨夜は激しかったけど、大丈夫?」
「ふおおおぉぉぉぉぉっつ!?」
勘違いじゃなかったのかぁーーーーっ!?
なんじゃそりゃぁぁぁぁぁあ!!
このネタのためにR15タグをつけました。