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74話 残念な男


 あれから10日ほどたち、ようやく俺の熱は下がった。

正直なところ、あの男に会ったその日の夜に更に熱が上がり、俺を安心させるためとか言っていたがとどめを刺された気分だった。


 熱が出ているあいだ、男は国家魔導所特性の熱さましの薬とかいろいろ持ってきたそうだ。

この熱は精神的なものが原因なので、男に会わないのが一番の薬としておやっさんが面会謝絶状態にしてくれた。

おやっさんも身に覚えがあるせいか、男の話を親身に聞いていたらしい。

おやっさん曰く、あの男もそうとう苦労しているらしい。

俺の知ったこっちゃないがな。



 しかし精神的なもので熱が出るというのは単純に幼女の身体のせいなのだろうか?

俺の精神が弱くなっているのだろうか?

子供のいるおやっさんに聞いてみたが、大人にとってはなんでもないことも子供にとっては大きな衝撃になりうるらしい。

知らない人に抱っこされたりしただけで、その日の夜に夜泣きをしたり熱を出したり寝ションベンしたりする子もいるのだそうだ。


 まぁ孤児院でもそういう子供は確かにいた。

だけど俺自体は大人なわけで…、そうおやっさんに言ってみると

「大人だって頭の容量を超えると『知恵熱』ってもんが出るんだ。いままで警戒していた国家魔導所が出てきたり、お前が元に戻れるかもしれない可能性をいきなり示されて頭が沸騰したんだろ。」

と頭をなでられた。


 言っている意味がわからないと返すと、

「今まで能天気に生きてきたお前が、はじめて『悩む』ということをして頭が疲れたんだ。」

とわかりやすいような何だか失礼な感じで教えてくれた。



 熱が下がった2日後、平民街のカフェの個室を借りて食事をしながら俺と男とおやっさんの3人で話をすることになった。

おおぴらにしていい話ではないだろうが、深刻になりすぎて俺や男が暴走しないように気楽な雰囲気をつくるためのおやっさんの措置だそうだ。

丸くしゃれた木のテーブルに3人で座り、それぞれ飲み物を注文した。

個室には鈴があり、それで店員を呼ばない限りこの部屋に人が近づくことはないそうだ。



「で、お前の名前はなんだ。」

カフェのおしゃれな個室の中で、俺にとっては大きい椅子で精一杯ふんぞり返りながら目の前の男に聞いた。


「アーシェルと申します。」

てっきりはぐらかされるかと思ったが、男は少し嬉しそうな顔をしながら答えた。

なんだ、幼女に詰問されるのが嬉しいのか?


「お前は何者だ。」

「う~ん、その質問は難しいですね。何者か…。う~ん…」

男、アーシェルは滑稽なほど真剣に考え込んでいて、からかわれているのかと思って机のうえで拳を握りしめたがおやっさんにそっと手を置かれた。

おやっさんのほうを見ると、しずかに首を振っていた。


「国家魔導所の末端に所属していて、普段は歌姫殿と組んでいろんな国や酒場をまわって変な研究をしている奴がいないか情報収集をしているそうだ。」

おやっさんの説明に、男はほっとした顔をしてうなずいた。

なんだろう、コイツ人と接するのに慣れていないというか、なんか幼いというか…。

「アンタ歳いくつ?」


 男はきょとんとした。

つくづくリーシャちゃんに似た顔が台無しだ。

「18です。」

「えぇっ!?」

20前半だと思っていた。


 外見は俺のほうが年下だが、目の前の男が年下ならばここは大人の余裕を見せてやらにゃいかんな。

俺は今まで謎だったリーシャちゃんの相方の男を冷静に見つめ、ふとリーシャちゃんが言っていたあることを思い出した。

「そういえばアンタ、確か男が好きって…」

「あ、あれはリーシャの馬鹿の嘘です!! 私は女性が好きですっ!」


 アーシェルは俺に食って掛からんばかりの勢いでまくし立てた。

なんというか、リーシャちゃんが本心を読ませないのに比べてコイツはバカ正直すぎないか?

いまだ必死に何かを言い続けているアーシェルを眺めながら、俺の中の国家魔導所に対する底知れない闇のイメージが薄まっていくのを感じた。


「だからですね!」

「うん、もうその話はいいわ。俺の尻を狙ってるんじゃなきゃそれでいいし。」

「そうですか…」

そこで俺たちはそれぞれ目の前の飲み物に口をつけた。


 リーシャちゃんに似ていているのは少し気になるが、男の素性なんて俺は興味ない。

しかしぜんっぜん話が進んでねえな…。



「それで、俺は国家魔導所で、珍しい実験サンプルとして切り刻まれることはないのか?」

目の前の男からはそんな狂気じみた気配は微塵もかんじないが、今まで気になっていたことを聞いた。


「はい、それは決してありません。あなたは魔導士の被害者であり、国家魔導所の名において保護と事態の解決をすることを誓います。」

「それじゃ、今まで俺が接した人たちやこの傭兵団に国家魔導所や国とかのなんらかの手が入ることは?」

視界のすみでおやっさんが身じろぎしたのがわかった。


「はい、国家魔導所が関わることはありません。」

アーシェルの誠実な瞳に、俺は大きく息を吐いて椅子の背にもたれかかった。


「お前、まだそんなこと心配してたのか。」

隣からおやっさんの腕が伸びてきて俺の頭をグシャグシャにした。

ひとまず、国家魔導所に関する心配事は無くなったわけだ。

俺は髪を整えながらひとつ思い出した。



「浮浪者とか身寄りのない人間を人体実験に使っているという話は?」


 おやっさんとアーシェルの顔がこわばった。

やべぇ、さすがにこれは突っ込みすぎたか?

アーシェルと話すうちに脱力していた背中に、冷や汗がつぅと流れた。



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