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72話 少女は真理を問う

 

 俺の素っ頓狂な声を気にすることなく、メリルは微笑みながらサルバンの話をする。


「うん、クランちゃんのお父さんと仲良かった人で、お姉さんと同じ、小さい女の子の味方だったんだよ。孤児院を出てからは毎年ね、女の子のドレスを贈ってくれている人なの。女の子たちはすっごく喜んでいて、一度会ってお礼を言いたいってねってお誘いの手紙を送ってるんだけど…。」


 あいつ人ごみが苦手だから、一度も顔を出したことがないのだそうだ。

なんだよ、お前幼女に人気なんじゃないか。

いっそのこと孤児院の職員になればモテモテなんじゃないのか?


 ……、いや、犯罪者としてしょっぴかれる事態になりそうだから、あのまま森にひっこんどいてもらおう。

でも一度は孤児院に引っ張ってこようかな。

俺は廊下から部屋の中を覗き込む。

そこには、可愛いドレスを着て華やかな笑顔を浮かべている小さな女の子たちの姿があった。



 孤児院に着たばかりの小さい子供たちが笑顔を見せ始めるのが、この祭りのときからだったりする。

特に女の子はちょっと花飾りをつけただけでおおはしゃぎになる。

それが今ではサルバンのおかげで本格的なドレスをきてお姫様気分を味わえるのだ。

幼女になっていろんな服を着たからこそ、着る服によって気持ちは驚くほど変わることを知っている。


 あの笑顔をサルバンの奴に見せてやりたいな。

今度スマキにして馬車に詰め込んでむりやり連れてきてみようか。



 ちょうどそこで子供がメリルを呼びにきたので、俺とメリルはわかれた。


 そのままいったん建物を出て裏庭に回る。

俺は裏庭のなかでもひときわ目立つ、葉を覆い茂らせた大木のそばにたたずんだ。

この木にのぼっているときにおやっさんと出会い、ここでよくシスターの下着を見上げていた思い出の場所だ。


 木に背中を預けて目を閉じると、いろいろな記憶が俺を包んだ。



「ねぇ、そこの君。」


 声がしたような気がして目をあけると、少し離れたところに12歳くらいの少女が立っていた。

どこかで見たような気がするし、一度も見たことのないような気もする。

特徴をつかもうとすればするほどわからなくなり、かといってどこにでもいるような感じでもなく、とにかく不思議な少女だった。


「…呼んだ?」

少女に問いかけた。

少女はうなずきながらゆっくりと俺に近づいてくる。

周りには誰もいないが、裏庭に子供が二人いるだけののどかな風景なので俺もなんとなしに少女を見つめ返していた。


「本来なら僕が出てくることは決してないんだけどね。今回は僕の養い児が君に執着して迷惑をかけているようなので、僕が動くことにしたんだ。」

「は?」

少女は俺のそばに立つと抑揚のない声で淡々と語りだした。

意味がわからず俺は聞き返す。

そんな俺の反応をよそに少女はそのまま続けた。


「単刀直入に聞こう。君は元に戻りたいかい?」


 俺は疑問の声をあげることもできなかった。

少女からは、回答を間違えれば取り返しのつかなくなるような厳格な威圧が感じられた。

見た目にそぐわないその雰囲気に、俺は飲み込まれて一言も発することができなかった。


「どうかな?」

「…も、戻りたいっっ!!」


 必死に腹の奥から出した俺の言葉は、情けないくらいに震えていた。

少女はそんな俺に笑うことなく、神妙な顔でしずかにうなずいた。


「わかった。君をその姿にかえた魔導により期間は変わるけど、必ず君を元に戻すことを約束しよう。」

そう言って少女は、来たときと同じく静かに去っていった。

俺はただ黙って見送ることしかできなかった。



「…あ」

少女の姿が見えなくなったとたん、足から力が抜けてその場に座り込んでしまった。

しばらくそのまま木の根元に座り込んで、呆然と少女が去っていったほうを眺めていた。




 どのくらい呆けていたのか、異国の音楽が聞こえてきたことで俺は立ち上がった。

そのまま建物に入り広い部屋に行く。

すでにリーシャちゃんの踊りは始まっており、たくさんいる観客の後ろに座った。


 位置的にリーシャちゃんの踊る姿は見えなかったので、目をとじて歌と音に集中する。

金属楽器の伴奏が奏でられているので、あの相方の男もいるのだろう。


 目を閉じて聴いていると、ここがいつも聴きなれている夜の酒場で俺もクラインに戻っているような気分になってくる。

目を開けるとここは孤児院で、でも今の俺はガキのクラインでもなく大人のクラインでもなく、幼女の姿をしているが孤児院にいるガキでもなく…。

だんだん激しくなる音楽に合わせて俺の頭の中もグルグル渦を巻いていく。



 気が付いたときには、リーシャちゃんに傭兵団の前まで送り届けてもらったあとだった。


「それじゃあ、またね。」

リーシャちゃんの声で我に返った。

慌ててリーシャちゃんの顔を見るがとくに変に思っている様子はなかった。


「あぁ、今日はありがとう。」

どう帰ってきたのかまったく覚えていないが、きっと手に残る感触からリーシャちゃんと手をつないで話しながら帰ってきたのだろう。

自分の顔が笑顔であることに気付きそのまま手を振り、リーシャちゃんが去っていくのを見送った。



 もう日は暮れていた。

夕食を食べたか食べていないかも覚えていないが、腹は減っていないのでそのまま自室に戻った。

そして着ていたオレンジ色のワンピースとズボンを脱ぎ捨ててそのままベッドに倒れこんだ。


「…俺って、何なんだろう…」

今まで考えもしなかったけど、今の俺って中身と外見の合わない歪な存在だよな…。

今更こんなこと考えている自分があまりにも感傷的でおかしくて忍び笑いをもらし、そのまま眠りについた。




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