71話 感傷的な幼女
「…リーシャちゃんは、なんで男に興味がないの?」
昼飯を食いながらなんでもない風をよそおって聞いてみる。
リーシャちゃんは俺が女言葉をつかったことに満足げにうなずいた。
「う~んと、私が鳥かごに閉じ込められていたのを、いろいろと助けてくれたのが女の人だけだったの。男どもは気持ち悪いやら情けないやらで、もう最悪だったから幻滅しちゃって。」
そう言って微笑みながら小首をかしげてみせた。
それはとても魅力的な仕草だったが、その笑顔に影を感じ取り俺はそれ以上聞くのをやめた。
そもそもリーシャちゃんは自分のことを聞かれてもいつも笑顔ではぐらかし、謎が多いことから神秘的な歌姫として皆があこがれていたのだ。
あいまいな内容だったが俺の質問にはぐらかさずに答えてくれたことで、距離が縮まっていることを感じた。
酒場に通っていた頃なら考えられない会話だからだ。
嬉しいのだが、できればクラインの状態で距離を縮めたかったぜ…。
それからまた手をつないでたわいもない世間話のようなものをしながら孤児院をめざした。
たまにリーシャちゃんが知らないような俺の話もちょくちょく出てきて、ドキリとさせられることも何度かあった。
リーシャちゃん、まさか俺のことをいつもどこかから見ているわけじゃないだろうな…。
いや、それはないか。
うん、…ないよね?
話しているとあっという間に孤児院に到着した。
いつもは黒ずんで陰気な印象の建物や門も、今日は色紙や花飾りで飾り付けをして華やかな感じになっている。
子供心に祭りの日の孤児院は貴族様のお屋敷のようだと思っていたが、大人になった今見ると子供たちが頑張って作った微笑ましい光景にみえて苦笑した。
そしてそんなことを思っている俺の外見が、この飾り付けに喜ぶであろう外見なことにおもわずため息をついた。
手をつないだまま建物に足を踏み入れる。
あぁ、このちょっとかび臭いような、子供たちの匂いが混ざったような感じ、すっげぇ懐かしい。
この廊下のしみがちょっと人みたいに見えて、夜にトイレに行きたくなったときは必死に見ないようにして走り抜けていったっけ。
俺は笑いながらリーシャちゃんに思い出話を語った。
リーシャちゃんも微笑みながらうなずいて聞いていた。
見た目幼女なおれが思い出話を語るなんて、はたから見りゃおかしな話だよな…。
いかんな、なんだか今日は感傷的になっちまう。
俺らしくねえや。
「わたしは演者の控え室に行くから、いったんここでお別れね。私の踊りにはまだ時間があるからいろいろと見てらっしゃいな。懐かしいでしょう?」
そう言ってリーシャちゃんは俺に片目を閉じて魅力的な笑顔を見せてくれた。
てっきりリーシャちゃんは控え室まで着いてきてほしいというと言うと思ったので意外だった。
久しぶりに孤児院に来た俺に気を使ってくれているんだろうか。
「うん、ありがとう。リーシャちゃんの踊り、楽しみにしてるから!」
手を振る俺に、リーシャちゃんはしゃがんで頬にキスをした。
俺もリーシャちゃんの頬にキスをする。
二人で微笑みあってその場でわかれた。
あぁ、これで男の体だったらいい雰囲気だったのに!
「え!? もしかしてクラインの子供さん!?」
リーシャちゃんと別れて廊下を歩いていた俺に、けたたましい女の声がかけられた。
どこか聞き覚えのある声に振り向く。
「いやぁ! 本当にそっくり! ねぇねぇ、お嬢ちゃんのパパの名前、なんて言うの?」
目の前に、栗毛色のくせ毛を後ろできゅっとまとめ、鼻の周りにそばかすをちらした愛嬌のある顔の女性がかがみこんで俺を見つめていた。
このけたたましい話し方は…
「お前、メイルか!? ったく、そのやかましい喋り方、ちっとも変わってねえじゃねえか!」
「え!? なに? クライン本人!?」
「んなわけわるか、バカ!」
俺はそこではっと口を押さえた。
ついつい懐かしくて昔のガキの頃のように口走ってしまった。
俺の目の前で驚いているこの女、メリルといって孤児院で一緒だったやかましい女だ。
気が強くてよく俺たち男連中と口げんかをしていた。
しばらく俺は冷や汗をかきながら必死で考えた。
メリルは穴が開きそうなくらい俺のことをじっと見つめている。
俺は…、そっとオレンジのスカートの両端をつまんだ。
「…こ、こんにちは、お姉ちゃん…」
小首をかしげてはにかんでみた。
「………」
メリルはまだ俺を凝視している。
「………」
しばし二人で見詰め合う。
メリルはいきなり俺の両肩に勢いよく手をおいた。
「何かよくわからないけど、可愛いから許すっ!!」
うしっ! こいつは昔から小さい女の子は正義だと言っていたからな!!
俺は心の中でガッツポーズをした。
「それで、お嬢ちゃんは?」
「クラインの生き別れの妹で、クランといいます。メリルさんのことは兄のクラインからよく聞いていたので、つい兄の真似をしてお話しちゃいました!」
駄目押しでパン屋のサーヤお得意のテヘペロをしてみせた。
「そっか、クランちゃんはお茶目さんだね!」
うん、あいかわらずコイツは馬鹿だった!
話を聞くと、メリルは孤児院の手伝いをしているらしい。
なんと結婚しているそうだ。
くそっ、この馬鹿に負けるとは! 俺もいつか素敵な花嫁さんに…って、おい!
俺が脳内であほなことを考えていると、メリルは俺の手をひき懐かしそうに言った。
「そういえば、クラインからサルバンさんのこととか聞いてないかな?」
「サルバンッ!?」
廊下に俺の裏返った声が響いた。




