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6話 おやっさんと下着

 


 おやっさんは威圧感を抑えることもなくおもむろに話し出した。


「さておじょうちゃん、クラインは隠し子なんて作れるような器用なタマでもなけりゃ、てめぇのガキを放っておくような薄情なやつでもねぇ。てっきり騙り(ニセモノ)と検討をつけて来てみたが…」

そこでおやっさんは複雑な顔をして俺の顔を凝視した。


「その顔じゃクラインの血縁者といわれて疑うこともできねぇな。だがさっきの俺の態度を見ても屁とも感じちゃいねぇとこを見ると、普通のガキってわけでもあるめぇ。お前さん、いったい何者なんだ?」


 俺はそこで、はじめてクラインの証明証を出しておやっさんに渡した。

おやさんは受け取って確認すると、ますます眉間にしわを寄せ「まさか本当に隠し子…」とつぶやいた。


「おやっさん。」

俺の呼びかけに証明証を食い入るように見ていたおやっさんは顔を上げた。

俺はおやっさんの目を見つめ、一言ひとこと区切りながら言った。

「信じられないでしょうが、俺は、クラインです。」


「続けろ。」

おやっさんは余計なことは言わずいつも通りに俺に先を促す。

混乱していないわけではなかろうがその表情は冷静で、正直一笑で切り捨てられる可能性も考えていた俺にはとても頼もしかった。


 俺は孤児院の知り合いの魔導士に会いに行ったこと、そこで巻き込まれて幼女になってしまったこと、国家魔導士に知られると命の危険があること、この体の寿命自体どうなるかわからないこと、戻れる可能性がほとんど無いこと、そして危険でも今までのクラインとして暮らしたいことを説明した。



 おやっさんはしばらく考え込むと、静かに尋ねてきた。

「俺がお前を孤児院から引き取ったきっかけは?」

「2階に干してあったシスターの下着を盗もうと木に登って手を伸ばしていたところをおやっさんに怒鳴られ、驚いて落っこちたが怪我が無いのを見て鍛えれば使えるとおやっさんが思ったのがきっかけです。」

誰にも話していない、俺とおやっさんが出会ったきっかけだ。

ちなみにそのシスターは俺に巨乳の魅力をはじめて気付かせてくれたお人だ。


 おやっさんが遠い目をしながら更に質問を重ねる。

「俺のフルネームは?」

「ライオネル・なんちゃらかんちゃらら。わりぃ、覚えてねぇ。」


「お前! これっぽっちも悪いなんざ思ってねぇだろうが!!」

「わぷっ!?」


 おやっさんは机の向こうから身を乗り出して俺の髪をワサワサとかき回した。

あぁ、いつものやり取りだ。

俺はなんでもない日常のやりとりに胸を熱くしながら髪を元に戻す。

いつもならグシャグシャになった髪を戻すのだが、恐ろしくサラッサラなこの髪は顔に掛かった分を後ろに流すだけで終わった。ささいな違いに、向上していた気持ちが少し沈んだ。


「間違いなくお前はクラインだよ。ずいぶん可愛らしいかっこうになっちまったがな!」

「おやっさぁぁぁぁぁん!!」

「うをぉぉぉっ!?」


 丸太のような腕を組みいつもの調子で言い切ったおやっさんに、俺は感極まって机の上から飛びついてしがみつくと大声を上げて泣き出してしまった。

恥ずかしいが、俺は自分で思っていたより情緒不安定だったようだ。

おやっさんに否定されたら俺はクラインという自分を無くしたも同然だった。

おやっさんは最初めんくらっていたが、泣きじゃくる俺を優しく抱きしめるとゆっくりと背中を叩いて落ち着くまであやし続けてくれた。


あ~~、もう恥ずかしすぎて死ねるぜ!!




 ひとしきり泣いて落ち着いた後、我に返って土下座する俺に「座って待ってろ、すぐ帰ってくる」と言い置いておやっさんはいったん部屋を出て行った。

帰ってきたおやっさんの手には、濡れタオルと水の入った杯が握られていた。

「少し喉をうるおしとけ、まだ話すことはたくさんあるからな。あと目を冷やせ、腫れるぞ。」


 本当にあんたはできたお人だよ。

涙腺のゆるくなっている俺は、さっきとは別の涙が出てくるのを慌てて隠すように目元を濡れタオルで覆った。


「それでお前の気持ちはわかるんだがな、その(なり)で傭兵を続けるのは無理だ。俺の信用のおける知り合いが村で畑仕事をしている。ことが落ち着くまでそこにいちゃどうだ?悪いようにはしないぞ。」

「ありがたい話だが、もし俺の素性がばれた場合おやっさんにアシがついちまう。ただの一般市民を匿うのとわけが違う、国家魔導士が関わってくるとなると貴族のおやっさんにどう影響があるかわからねぇ。」


 おやっさんは複雑な顔をしながら「んなことお前が気にするんじゃねぇ」と俺の頭を軽く撫でた。

ちなみに今の座り方は先ほどの対面ではなく、椅子と椅子を直角に向き合わせて座っていておやっさんにいたっては椅子を反対にして背もたれに顔を乗せてくだけた様子で座っている。

俺が気楽に話せるようにとおやっさんの気遣いだろう。


 おやっさんの膝に座って話すか聞かれたが、それは丁寧に断っておいた。

俺をクラインと認めつつも見た目が幼女なもんで扱い方に戸惑っているんだろうな。

子ども好きなおやっさんが単純に膝に乗せたかっただけの可能性もあるが…。


 おやっさんの実家はかなり位の高い貴族で、おやっさんの兄貴は二人とも国の政に関わっているらしいしおやっさんの親父さんにいたっては大臣をしている。

おやっさんも俺は実家と関係ねぇと言いつつ、貴族がらみのことはとても慎重に動いている。


「それなら新しい戸籍を取得して孤児院の世話になるか?」

「見た目は幼児だろうが中身はれっきとした成人なんだ。てめぇの食い扶持ぐらいてめぇで稼ぎたい。」


 それは孤児院で育ち、善意の寄付で養ってもらった俺のどうしても譲れないところだった。

「そうなると…」

おやっさんが顎をさすりながら唸ったときだった。




「クラインの隠し子がいるというのは、この部屋ですかっ!?」



 勢いよく個室のドアが開けられ、髪を振り乱したキースが立っていた。


 俺は無言で、水の入った木の杯をキースに向かって投げつけた。

肩で息をしていたキースは、顔にぶつかる寸前でようやっと杯を受け止めたが中の水を思い切りかぶり呆然としていた。



 だから、声がでかいっつうの!!



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