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63話 チリチリ

 

 俺も湯でからだを流しながら、連中の股間をチラチラ確認する。

特におかしいところはない…。

あえて言うなら、俺のほうがでかいな!



 残るはサイスの奴か。

横目で確認すると、サイスのヤツはかがみこんでチマチマと体を洗っていた。

ここからは股間が見えない。


 やがて、サイスが立ち上がったのが見えた。

あろうことか、ヤツは布で股間を隠していた!


 やっぱりお前なのか!!


 俺は決定的な証拠をつかむため、奴の股間に向かって飛び込む。

「見せやがれぇぇええええっ!!」

しっかりと股間を隠していた布をつかむと、その手を大きく振り払い戸惑うサイスから取り上げた。


「ひぃぃいいい!!」

…ぃぃいい

…ぃぃ…

浴場にサイスの情けない悲鳴が反響した。



「何これ…」


 そこには…

脛はツルツル、股間は…焼けて黒くこげた下の毛がかろうじて残っているような状態だった。


 サイスと俺以外の連中が、腹を抱えて大爆笑をはじめた。

「うけるよな~!」

「お前、これが見たくて俺たちを誘ったのか! 最初から言ってくれればいいのによ!」



「何これ…」

俺はサイスの股間と脛を眺めながら、もう一度呆然とつぶやいた。


「え? サイスの奴が失恋したから、景気付けにパァーッとち○毛を燃やして、すね毛をむしってやって…え? お前、知ってたんじゃねえの?」

「え? 何ソレ」

「え? 知っててここ(浴場)に誘ったんじゃねえの?」

「え?」

「え? じゃクラン坊、ただ俺たちの股間が見たかったの…?」

「え…、え゛!?」



 浴場で、顔を見合わせたまま皆が固まった。



「…あなた方は、何をやっているんですか?」


 全裸で立ち尽くしていた俺たちに、静かな声がかけられた。

声のしたほうを見ると、呆れ顔のキースが入り口に立っていた。

服を着込んだ状態でだ。


「…キースさんこそ、なんでここに?」

「本部に夜勤でいたら、傭兵団の人間が公衆浴場で大騒ぎしていると通報がありましてね。」

「…なるほど…」

俺はきまずく答えた。


「俺たちは何もしてねえよ! クラン坊が俺たちの股間を見ようと大暴れしただけで!」

「ちょっと! 俺はそんなことしてないっ!!」

「……クラン坊に、辱めをうけました…」


 床に座り込んだサイスが涙声で訴え、それでサイスの姿を確認したキースがギョッとした。

「サイス…それは一体…」

「いや、俺…わたしがしたわけじゃないから!」

「クラン坊が嫌がるサイスの股間を、無理やりさらしたんだ!」


 俺たちは全裸のまま、それぞれが必死にキースに訴える。


「…とりあえず、服を着て本部に戻りましょう。そこでゆっくりと話を聞きます…」

キースは頭痛でもするようにこめかみを押さえると、入り口の扉を閉めてさっさと浴場から姿を消してしまった。



 残された俺たちは顔を見合わせ、もそもそと服を着て本部に帰った。


 副団長室で、全員そろってキースの事情聴取を受けた。


 サイスの奴が失恋したので広間を借りて酒盛りをしていた。

あんまりにもサイスがうじうじしていたので、景気付けのために下の毛を燃やしたりすね毛をむしったらしい。


 公衆浴場で聞いたとおり、これで以上だった。

つまり、規則違反なんてしたヤツはいなかったのだ。

完全な俺の空回りだったのだ。


 そういえば、俺も失恋祝いだとか言って誰かの下の毛を燃やしたことあったわ。

あれ、一気にぼわっと燃えておもしろいんだよな……って今はそれどころじゃねえか。

男であったときの記憶が遠い過去にいってしまったようで、俺は頭をかかえた。


 キースからは、嫌といえない新人にこういう事をするのはどうかと言われたが、サイス自身が「あのときは俺も酔っ払ってて、しかも失恋してやけくそになってたのもあってその場のノリで一緒に盛り上がりました。」と自己申告をしたので下の毛チリチリに関しては、ほどほどに、と軽い注意で終わった。

ただ、冷静になってチリチリに焦げた股間を誰にも見せたくなかったのを、俺が強引に暴いたとして、俺がきつく叱られた。


 その後、公衆浴場での騒ぎの件も軽い口頭での注意をうけ、俺たちはその場で解散した。


「あ、クライ…クラン、ちょっと待ってください」

副団長室を出て行こうとして、俺だけキースに呼び止められた。


「ゆっくり湯につかりたい気持ちもわかりますが、その体でいるうちはあまり裸を衆目にさらさないほうが良いのでは…。どうしても入りたいのであれば、私の家のお風呂をお貸ししますよ?」

「はい…」

すいません、野郎の股間を確認する目的で行きました…。


 いつになく素直に返事する俺に、キースは苦笑しながら頭をなでてきた。

「さ、もうおやすみなさい。夜更かしはいけませんよ。」

「…は~い。」


いろいろな反省をこめ、俺は大人しく部屋に戻って眠りについたのだった。



 次の日の朝礼後、俺は団長室に呼ばれた。

机についているおやっさんの前に立つ。


「昨夜のことは反省しています。」

おやっさんが座るように促す前に、先に謝った。

「あぁ、うん。」

おやっさんは微妙な顔をしてうなずいた。


 あれ、浴場の騒ぎのことじゃないのか?


 おやっさんは机の上で手を組むと、大きなため息をついて口を開いた。

「傭兵団のなかでな、クランであるお前が男の裸に興味をもちだしたんじゃないかって噂が出てな…。独身寮にいる環境が、年頃のお前によくないんじゃないかって話まで出てきている。」

「え゛、それはありえないですよ! だって、俺は男なんですから。野郎の裸なんか興味ないですよ!」


「…それは本当だな?」

おやっさんが少し間をおいて訊いてきた。

「…どういう意味ですか…?」


「男の裸に、興味はないんだな…?」

「何言ってるんですか!! あるわけないでしょう!?」

俺は腕に鳥肌をたてながら抗議した。


 なにが悲しくて野郎の裸を見らにゃいかんのだ!

確かに昨夜の行動はちょっとおかしかったけど、俺は女の裸、巨乳が好きなんだ!

そう!

「俺は、巨乳が好きでっっす!」


 団長室に細い幼女の叫び声が響いた。


「…そうか。うん、…わかった。今後、騒ぎを起こさないようにな…」


 退室の許可をもらい団長室の扉を閉めたとこで、おやっさんとまともに目が合わなかったことに気が付いた。

「あれ?」

首をかしげながら、洗濯をするために裏庭に向かった。



 廊下ですれ違う連中がニヤニヤしながら「クラン坊。お前、痴女だったの?」「男に興味が出たとは、お前も女だったんだな」といろいろ声をかけてきた。

そんな日が何日も続いた…。



 違うってぇぇえええ!! バカバカァア!!




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