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51話 とうとうやっちゃった…

 


 おやっさんは必死で見上げる俺を見て少し固まっていたが、ゆるゆると動き俺を抱き上げた。


「…応接間で一緒に寝るか?」

俺は必死でうなずいた。


「そうか、…なら行こう。」

おやっさんは首にすがりつく俺を抱いたまま、応接間に戻った。




 応接間は寝ている奴…いや、半目を開いて意識を失っている奴が半分、目がいっちゃってるがまだ動いているのが半分というひどい有様だった。


 途中で屋敷の人たちが布団をしこうと申し出たらしいが、酒などで汚すことになるだろうからおやっさんが断ったらしい。

俺たちも酒で酔っ払ってそのまま床で寝ることは慣れているから、特に問題はなかった。


 おやっさんは俺を抱いたまま、開いたスペースを確保して横になる。

俺もおやっさんにしがみついて横になった。

こうやって密着していると、安心する。

おやっさんも俺の身体を片手で抱き、開いた手で俺の背中を軽くさすってくれた。


 俺はおやっさんのぬくもりを感じながら眠りについた。





「うっ…ひっく、…うぅ、ぐすっ…」


 薄暗く静まり返っている応接間に、俺の押し殺した鳴き声だけが響く。


 明け方に、股の辺りが生暖かくなったことで俺は目を覚ました。

悲鳴も叫び声も出ず、目が覚めた体勢のまま恐る恐るネグリジェの股の部分に手を伸ばす。


ピチャ…。

手のひらに濡れた感触がしっかりと伝わる。


 …とうとう、やってしまった…。


 血の気が引くのと同時に、股の温もりも冷えていく。

そして俺は、自分がすがりついている温もりの存在を思い出す。


 ゆるゆると顔をあげると、俺はおやっさんにすがりつき、密着した状態のままだった。

祈る思いでゆっくりと俺の身体を抱くおやっさんの腕をほどき、身体を離してみる…。

奇跡はおこらず、しっかりとおやっさんの服に染みがついていた…。


 どうしよう、このままおやっさんが起きるまで待っていたら、服の染みも乾いたりしないだろうか…。

それとも恥をしのんで今起こして、ささっと着替えて後始末をしたほうがいいのだろうか…。


 しばらくの間、眠っているおやっさんを悩みながら見守っていると、俺が離れたことにより濡れた部分が冷えたのか、おやっさんがもぞもぞと身動きを始めた。

そのまま腕が濡れた部分を確認するように触れ、おやっさんが飛び起きた。


 すでに恥ずかしさと居たたまれなさですすり泣きしていた俺と、おやっさんの目が合った。

「…うっ、ううっ…」

「………」


 しばし見詰め合い、おやっさんは一言もしゃべらぬまま床の水溜りを視認した。


「…え~と、クラン…」

「ううっ、ずずっ…ひっく、…は、い…」

「俺と、この屋敷のメイド、どちらに処理してもらうほうが、お前の尊厳は守られるだろうか…?」

「うっ…、ゆ、行きずりの、メイドっさん、が、いいでっす…」

「…行きずり…」


 しゃくりあげながら必死で伝える俺の言葉に、おやっさんは静かにうなずいた。

「昨夜はなにもかもが異例だったんだ。とにかく気にスンナ。いいな。」

「うう゛~っつ!!」

再度涙が滝のようにあふれだす。

おやっさんはガッ!と勢いよく俺の頭を抱え込み、自分の身体に俺の顔を押し付けた。

俺が落ち着くまでそのままの姿勢でひたすら何もしゃべらなかった。




 その後、おやっさんが呼んできたメイドに、床の始末と湯浴みと着替えの世話をしてもらった。

俺はされるがまま一言もしゃべらず、全てが終わりさっぱりした後、客間に連れて行かれメイドさんが呼んできた医者に診察された。


 医者は穏やかな顔のちょっと小太りなご老人だった。

アネスト卿がこの領地に来てからの友人のようで、昨晩から付きっ切りでアネスト卿を診察していたのもこの人だった。

結果、精神的ショックによる発熱と診断され、ベッドのなかに入れられた。


 牛乳と野菜が溶けるまで煮込んだ粥を、メイドさんに一口ずつ食わせてもらい嬉しいような悲しいような複雑な思いをし、今は横になって布団のなかでうつらうつらしていた。


 俺のベッドの横ではおやっさんがメイドさんたちに、あんなことがあった後にすぐに寝せなかったとか、こんな小さい女の子を床に寝せたとか、いろいろと責められて頭を下げっぱなしだった。


 俺はベッドの中で、「俺が一緒に寝たいと無理言ったんだし、おやっさん関係なく熱が出たと思います。」と声をかけた。

メイドさんたちが仕事に戻り部屋からいなくなった後、おやっさんはベッドの横に立って更に謝ってきた。

狼やアネスト卿の怪我のことでいっぱいいっぱいだった俺に、更に娘さん夫婦のことや俺の過去話をして追い討ちをかけて熱を出す原因の1つ、…いや2つか3つを作ったと。


「…その件なんですけど…」

「ん?」

「俺、一生懸命、それこそ熱が出るくらい考えたんですけどね…」

「…あぁ…」

おやっさんはベッドの横に座り、俺の顔をのぞきこんだ。


「俺、やっぱりどうしたらいいかわからないです。」

「……そうか。わかった、あとは難しいことは考えないで眠れ。」

「…はい」


 俺が目を閉じようとしたとき、客間のドアが軽くノックされた。

おやっさんが入室の許可を出すと、メイドさんが入ってきた。


「失礼したします。主人が目を覚まされまして、クラン様とお話をしたいと…。」


 俺とおやっさんは顔を見合わせた。




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