41話 涙の留守番
団長室に入ると、おやっさんが苦々しい顔をして俺を待っていた。
「クライン、今回はお前を連れて行くことにした。」
「えぇっ!? 俺を狼の餌にしておびき寄せるんですか!?」
「バカ言えっ、いくら飢えた狼だって餌は選ぶわ!」
「うわっ、俺って餌以下!? 」
そこでおやっさんは大きなため息をついた。
「俺が留守のあいだ、お前が何しでかすかわからねぇからな…。目の届くところに置いて監視しとかねぇと…。」
そりゃないぜ、おやっさん。俺はいつも巻き込まれてるだけだって!
「でもおやっさん、俺が王都外に出るための許可証はできないでしょう?」
「お前の、ならな。」
「へ?」
意味が解らず首をかしげる俺を、おやっさんはいたずらが成功したようにニヤリと笑った。
「団体での許可証をとる。」
「あぁ、そうか!」
俺は思い出し両手をたたいた。
団体での許可証とは、「目的・所属を同じくする、10人以上の集団に発行される許可証」だ。
大勢で王都を出る場合、一人一人に証明証を発行していたら手間がかかるため、一気に全員まとめてしまおうって許可証だ。
「目的」「王都の住人であることを証明する責任者」「王都を出入りする人数」さえ提出すれば発行される。
先日出て行ったウサギ狩り隊も、俺が小部隊を率いて王都外に出るときも、この団体用許可証を利用している。
出入りの人数が一緒でいいならということで、入れ替わりを考えようとする奴もいるかもしれない。
実際、王都外の愛人を密かに呼びたかった貴族が、この団体用許可証を利用して使用人の女と入れ替えさせたらしい。
何でばれたかは秘密にされているが、城門で入れ替わりがばれたために責任者であったそのスケベ貴族は、貴族の位を剥奪されて愛人ともども処刑されたらしい。
理由がスケベなだけに報われない…。
「領地が遠いんでな、往復と討伐に要する日数を考えて10日分は最低限必要なものを用意しておけ。」
「へ? いつも現地調達でしょう?」
遠出をする場合、食料は現地調達(依頼人のほとんどが農民なんで野菜をわけてもらったり、料理をわけてもらったりする)、服は着替えをひとつか一張羅で身軽に行動できるようにする。
「バカ、その姿で着替えもなしに素っ裸で過ごすつもりか? 何着か着替えは持っていけよ! なんならベティちゃんも持っていけ。」
「…いや、ベティちゃんはいいっす…。…準備してきま~す…。」
俺は部屋に戻って作業用の服を何着かと、下着、石鹸などを準備した。
それから長袖の上着に、動きやすいスカートが短めのワンピースにベルトを締めて、足首まであるズボンをはいた。
街道を移動するので虫や泥よけのためだ。
ふとベッドを見る。
ベティちゃんが、つぶらな瞳で俺を見つめている。
俺たちはしばし黙って見つめあった。
(…クラン、わたしは大丈夫よ。しっかりお留守番してるわ。気をつけていってらっしゃい…。)
(ベティちゃん…)
俺はベッドによじ登ると、しっかりとベティちゃんを抱きしめた。
「討伐隊、出発!」
本部の前でキースや居残り組みに見送られ、俺たち20人の討伐隊は出発した。
領地までは大人の足で歩いて1日半ほどかかるので、俺は馬が引く荷車に荷物にはさまれるように乗せられて行くことになった。
しっかりと荷物はロープで固定されているが、荷崩れをおこしたら俺つぶされるわ…。
何人かが薪を背負うための背負子で俺を担いでくれようとしたが、いろいろな理由により断った。
俺たちがちんたら歩いていくよりも、王宮の騎馬隊が半日で駆けつけたほうが早いような気がするのだが、前にも言ったとおり王宮は手続きがいっぱいあるので、歩きの俺たちより遅くなるのだそうだ。
…なんのための兵士なんだか。
幸い野盗に会うこともなく、順調に歩き旅は進んでいた。
「隊列、止まれ! 少しここで休憩をとる。」
おやっさんの声で隊列は足をとめた。
なんの変哲もない、林にそった道だ。
確かもう少し行った先に村があったはず、休憩するならそこのほうが良さそうだが…。
他のヤツはとくに思う奴もいないようで、額の汗をふきながら街道をはずれて、おのおの林の木の根元に座り込む。
俺は荷車の上からおやっさんを探した。
おやっさんは他の連中と離れて、街道を挟んで林の反対側のヤブの側にたたずんでいた。
「…?」
おやっさんは白い花束をヤブに向かって放り投げた。
俺からはその表情は見えなかったが、その背中は声をかけるのをためらうような何かがあった。
その後、何もなかったように討伐隊は出発し、荷車の揺れにいつの間にか眠っていた俺が目を覚ましたときには、泊まる予定の村に到着したところだった。
寝ぼけ眼のままおやっさんにおんぶされて宿屋へと移動する。
村じたいは他の村と特にかわりない大きさだが、王都にほど近いためか宿屋はなかなか大きかった。
俺に振り分けられた部屋に荷物を置くと、おやっさんは俺を背負ったまま宿屋の一階にある食堂に移動した。
「団長、遅いっすよ! もう腹が減って倒れそうっすよ!」
「わりぃな、コイツがもうおねむでよ。」
そこかしこから笑い声や「夜はこれからだろ!」「長旅で疲れたんだろう」という声が聞こえてくる。
なんか水の中を漂っている気分だ。
見るもの聞くものがぼんやりとしか入ってこない。
「食っとかねえと、明日動けねえぞ。」
おやっさんの声と同時に目の前に置かれた、でかい野菜がゴロゴロ入ったスープと、とろけたチーズのかかったパンを半目でモソモソと食べる。
あぁ、しっかりと味わいたかったな……。
その思いを最後に、俺はもう机に頭をつけて夢の中だった。
許可証のくだりは、ちゃんと説明になっていたでしょうか…。
団体入場券とでも思ってください。
割引はもちろんありません。




