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35話 砂漠の太陽



「その前にヴァルさん、ちょっとお話が…。」


 俺は有無を言わさずヴァルの腕をつかみ、オルンから少し離れる。

腕をひっぱりヴァルをしゃがませると、耳元に小声で話しかけた。


「衛兵か傭兵団のほうに連絡を入れて、お二人の保護を願いますか?そうじゃなくても連絡を入れておかないと、今頃大騒ぎで捜索願いが出されている可能性はないですか?」


ヴァルは驚いていったん身体を離し、俺を上から下までまじまじと見た。

あんまりレディをジロジロと見るもんじゃないぜ、坊や。


「驚いた、そんなに小さいのにしっかりしている…。…若にも見習って欲しい…。」

よっぽど苦労してるんだな、お前。


 今度はヴァルが俺の耳元に話しかけてきた。

「一応抜け出す際に書置きはしてきました。オルン様は約束は守られる方だから、昼食後にすぐに戻れば問題はないと思う。お気遣いはありがたく思うが、あまり大事(おおごと)にはしたくない。」

「わかった、ただしここらの治安は完璧ってわけじゃない。一応傭兵団に連絡だけは入れさせてもらうぞ。」


「…君は一体何者なんだい…?」

「俺の名はクラン、ただの幼女さ。」

あんまりにも素直に驚くヴァルに気を良くして、俺はちょっと決めてみた。



「二人で何をコソコソしてるの?早く行こうよ~」

「ほ~い。」

「はい、ただいま!」


 オルンにどんなところがいいか聞き、平民街の食堂に行ってみたいとリクエストがあったので当初の予定のまま『俺の台所亭』に行くことにした。

途中でオルンに気づかれないように鳥便を扱っている店に寄り、おやっさんかキース宛に貴族のボンボン2名と『俺の台所亭』にいることと保護は必要ないことを記して飛ばした。





「おうおう、クラン、貴族のお坊ちゃんとデートかよ!お前やるじゃねえか!よし、今日の飯は俺のおごりだ!」

「親父さんそんなことばかりしてると、この店つぶれちゃうよ!」

「バァカ、そんなやわな店じゃねえよ!!」

そんな俺たちのやり取りにオルンは目を丸くしていた。


「…まるで砂漠の荒々しい太陽のようだ…」

オルンの目線が親父さんのハゲ頭に行っていたことは、気付かないふりをしといた。


 俺たちが適当に空いている席に座ると、親父さん自らが注文をとりにきた。

「しかし貴族のお坊ちゃんとデートなら俺の店じゃなくて、それらしい雰囲気のあるとこに行けよ。クラン、お前が案内してきたんだろ?この平民街にだってちょっと気取った店ぐらいあんだろうがよ!」


「お客さんつれてきてあげたんだから、『ありがとうございますクラン様』だけ言っとけばいいの!こちらの方が大衆食堂に行きたいってお望みだったの。」

「…ははぁ、寄宿学校のお坊ちゃんの度胸試しかよ…。そんなら気を使う必要はねえな。今日のお勧め定食でいいな!母ちゃん、おすすめ定職3っつだ!!」

親父さんは合点がいったようにうなずき自分で注文を決めてしまうと、厨房に戻っていった。


今までのどこに気を使ってたって?



「あいよ!おすすめ3っつね!アンタ、あの子がクランちゃんのいい人だって?」

厨房から女の人のでかい声が聞こえてくる。

昼間の食堂のときは親父さんの奥さんも一緒に働いている。

恰幅も懐も、声も馬鹿でかいおばちゃんだ。


「違うってよ!また寄宿学校のお坊ちゃんの度胸試しだ。」

「なぁんだ、そうなのかい。期待して損したよ!」

親父さん、おばちゃん、ばかでけぇ声が食堂に駄々漏れだよ…。



 もちろん親父さんとおばちゃんの声だけでなく、客も飯を食いながら話していて、食堂の中はいつもの喧騒に包まれている。


「大衆食堂って、活気があるんだねぇ…。一言も口を利かずに、奏でられる音楽を聴きながら食べる食事もいいけど、こんな喧騒のなかで食べる食事もいいかもしれないね。」

オルンは珍しそうにキョロキョロとしながらつぶやく。

音楽を聴きながら食べる食事風景なんて、俺にはちっとも想像つかねえよ。


「はい、おすすめお待ちどぉ!あらあら、二人ともいい男じゃないの!クランちゃん、やるねぇ!」

おばちゃんがでかい盆に定食を3つを器用に載せてやってきた。

アンタ達さっき厨房で、俺とは関係ないって話してたじゃんよ…。


「ありがとうございます、マダム。メニューの説明をお聞きしても?」

オルンは完璧な笑顔をおばちゃんに向けた。

おばちゃんは「あらあら嫌だよ、こんなおばちゃんに!」と頬に手をあて満更でもなさそうに説明をして厨房に戻っていった。


 今日のメニューはウサギ肉のローストに、山盛りのサラダと野菜を煮込んだスープといつもの黒いパンだった。パンは固いのでそのまま噛みしめてもいいが、いつもついてくるスープに浸して食べるのが一般的な食べ方だった。

お貴族様は白くて柔らかいパンしか食べないので、この食べ方を知らない奴が多い。

案の定オルンとヴァルの二人も、黒いパンをちぎって口に入れた後、いつまでもモグモグ噛んでいたので教えてやった。


 そもそも砂漠の国のやつが何をどう食ってるのか俺は知らない。

他の料理を食べるのも見守ったが、他は問題なく、しかもお上品に食べているのを見届けて俺は自分の飯をたいらげることに集中した。

俺は飯を食べ終わるまで黙って集中して食べるのだが、オルンは一口食べるごとに味付けがどうのとか、食文化がどうのとか、特産品がどうのとかヴァルと感想を言いながら食べていた。

まぁ、気に入ってもらえているようで、つれてきた手前俺も安心しながら目の前の定食をたいらげていった。




 食事が終わり一息つくと、いつの間にかヴァルが3人分の食事代を払っていた。

さすができる従者は違うねぇ!女とデートするときも、コイツならスマートにエスコートできそうだな。…主人から目を離してデートする時間があるならだけどな…。


 俺がヴァルの未来に思いを馳せていると、ヴァルが俺の横に膝をついていた。

「本日は無理なお願いにもかかわらず、このように案内していただいたこと、誠にありがとうございました。我が主もつかの間の自由を存分に楽しめたことと思います。私からも、また主にかわりましても、クラン殿にお礼を申し上げます。」


「ちょっと!そんな大したことしてないし、人目をひくからやめてくださいよ!」

現に、厨房から「ちょっと、ちょっとアンタ!クランちゃんが男を跪かせているよ!やるねぇ!!」という声と、「バカやろう!黙って見守ってやれよ!」という馬鹿でかい声が聞こえてくる。


「君のおかげで楽しめたよ。本当にありがとう。」

ヴァルと厨房に気を取られていると、オルンがいつの間にか俺の手をとり口付けをしてきた。


 俺はいたたまれなくなって、黄色い声が上がっている厨房を精一杯無視して、まだ礼を言おうとしている二人を無理やり引っ張って食堂をあとにした。



 なんでお貴族様ってのは時と場所をわきまえないんだよ!!




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