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34話 ボンボンの保護

 


 休みの日の朝、俺は待機所で真剣に考えていた。

幼女として前向きに生きることになった場合のことだ。

もちろん元に戻ることをあきらめたわけでは決してないが、エアリアスと話して以来全てにおいて前向きに検討してみようかという気になっていた。


 前向きにか…。

クラインのときはできなくて、幼女であるクランだからこそできること……。

………風呂とかで女の裸を堂々と見れること?


 住民街には公衆浴場がある。

貴族はどうなのか知らないが、平民は盥に水かお湯をはって布で身体をぬぐうか、数日に一回ほど公衆浴場を利用する

傭兵団の独身寮ではただでさえ野郎臭いとの噂なので、規則で一日一回は必ず身体を洗うように決まっている。

とはいえ野郎どもは面倒くさがる奴が多く、裏庭に皆で素っ裸になって水を掛け合うのがいつもの習慣だった。

 ちなみに今は、自分の部屋まで盥に水を運び込んで身体を洗っている。

面倒くさいかぎりだ。


 傭兵団の奴らが何ヶ月かに一回だけ公衆浴場に行くときがある。

公衆浴場は混浴で、つまり、女の裸を見に行くのだ。

まぁ薄暗くはあるし、傭兵団の野郎が入ると男も女もそそくさと風呂から上がってしまうためそこまで収穫はない。

それでもせこせこと通うのは、悲しい男の(さが)だった。



 このクランの姿なら、風呂に行っても誰も気にしないし、見放題だ。

…しかし、この身体になってからそういった欲求がわいてこず、しかもマルゲルスのような変態がいることを知った今ではこの身体を人目にさらすことに抵抗があった。


 あぁ、他に思いつかねえな。

男ならいろいろと思いつく。ハーレムを作りたいとか、世界をまわってお宝を探したいとか、美女の巨乳を拝みたいとか、名を売って有名になりたいとか、人に言えないようなもろもろとか…。


 幼女として前向きに生きるってのはやっぱり難しいもんだと実感した。



 俺はそれ以上考えることをあきらめると、少し早めの昼飯を食べに行くことにした。

『俺の台所亭』に向かい平民街を歩いていると、屋台を覗き込んでいる12、3くらいの少年が目に入った。

普段なら気にすることはないが、その少年は平民街に似つかわしくない貴族の格好をしていた。


 たまにいるんだ、寄宿学校に行っている貴族のお坊ちゃんで、度胸試しのような感覚で平民街に抜け出してくる奴が。

平民街は俺たち傭兵団が警護しているからって、完璧に安全なわけじゃない。

とくに世間知らずの貴族のボンボンなんて、誘拐して身代金をかせぐのにもってこいの金づるだ。

すぐに裏家業の連中が寄ってくる。

とうぜん寄宿学校が注意をしているのだが、危険を知らない馬鹿はいつもわいてくる。


 その時にバカなボンボンを保護すべく駆りだされるのが、貴族街の衛兵か俺たち傭兵団のおやっさんとキースだ。

なぜおやっさんとキース限定なのか、それは他の連中の容貌が容貌だけに、お上品な貴族のボンボンどもがビビッちまってよけい逃げまわって保護ができないからだ。

正直なとこ、言いつけを守れずに衛兵やおやっさんたちを駆りだすようなバカどもには、トラウマになるくらい俺たちが追い掛け回したほうが世のためだと思うんだがな。



 そんなわけで、俺はその貴族の少年をさっさと保護して、傭兵団の本部か衛兵所に突き出してやろうと近づいていった。

近づいたところでよく見ると、少年には珍しく帽子をかぶっていた。あまり見たことがない形だが、顔を隠す目的なのだろう。つばが大きく、鼻から下しか確認することができなかった。


「僕に何か用かな?」

少年が俺に気付き声をかけてきた。

俺のほうを向いたその顔は空色の目と褐色の肌でなかなか整っており、この国の貴族の格好をしているが砂漠の国の貴族の息子だと俺は検討をつけた。

他国からの留学生が来ることもあるそうで、そういう奴は物珍しさから更に平民街で無茶をすることが多い。コイツもその一人なのだろう。


 こりゃ、早急に保護しないとひと騒動起きそうだな…。

俺はため息をつきながらその少年に話しかけた。

「お兄さんて、ここらへんじゃ見かけない立派なかっこうをしてるのね。」


「ほら、言ったではないですか! アナタはただでさえ目立つのです。こんな少女にさえ声をかけられているではないですか!」


 それは目の前の少年ではなく、少年の後ろのほうにまるで影のように付き添う15、6歳くらいの少年から発せられた。


 もう一人いたのかよ!ぜんっぜん気付かなかったぞ。

その少年も布を頭に巻いており髪の色は見えなかったが、褐色の肌に黒茶色の目をしていた。

それは一緒に抜け出した悪友というよりは、空色の目の少年の従者のようだった。

しかもわがままな主人に振り回されているタイプの従者だ。

俺の予想は間違っていないことを証明するように、黒茶色の瞳の少年は疲れたように話しかける。


「さぁ、これ以上目立たないうちにもう帰りましょう。」

「ヴァル、レディが話しかけてくれているのに失礼じゃないかい?お嬢さん、お名前は?」

「…クラン。」

「クラン、良い名前だね。僕の名前は…オルンだよ。」

オルンと名乗った少年は華やかな笑顔を見せた。たぶん偽名だろう、従者がついていることといい、かなり位の高い貴族だろう。ほんと、騒動が起きる前に帰ってくれ!


「お嬢さん」

オルンは俺の手をとって微笑みかけてきた。

うえ、何かいやな予感がする。

「僕にすこし案内をしてくれませんか?一緒にお昼をとりましょう。」

「若ッ…!いえ、オル…ン様、何を。」


 オルンは従者の少年、ヴァルを見た。

「このお嬢さんと一緒にお昼を食べたら帰る。」

「ちょっと!」

「オルン様!」


「約束するから、ね、お願い!」

オルンは両手を合わせながら小首をかしげて上目遣いでヴァルにお願いをしている。

…かなりやり慣れてるな。

対するヴァルの方は苦い顔をして悩んでいる。簡単に折れるんじゃねえぞ、頑張れ!

「…わかりました。お嬢さん、よろしいでしょうか?」

「…わかりました…。」


 ヴァルの少年ながらに疲労に満ちた顔をみて、思わず俺もうなずいてしまった。

苦い顔をする俺とヴァルの横で、オルンだけがニコニコと上機嫌に笑っていた。




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