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31話 甘酸っぱさとほろ苦さと

「ここだよ。」


 確かにそこはおとぎ話に出てくるような可愛らしい雰囲気で客も女ばかりの、クラインの俺だったらぜってぇ近寄らない類の店だった。

貴族が来るほどお上品ってわけでもないが平民にはちいっと敷居が高く、商人のいいとこのお嬢さんが来るような感じだ。


「入ってみようか。」

エアリアスは俺の手をギュッと握ると、店の扉に手をかけた。

扉につけられた鐘がカランカランと音をたて、店員の女の子が俺たちを窓際の席に案内した。

エアリアスが自然な動作で椅子をひき、俺を座らせてくれた。


「う~ん、何を頼もうか。こういった女の子が行くような店に入るのは初めてだから、わくわくしてしまうよ。」

エアリアスは軽い興奮に目をキラキラさせながらメニューを眺めている。

俺も一応孤児院とおやっさんから文字の読み方は教えてもらっていたので、メニューを眺めたのだが詩みたいな文章ばかりで何がなにやらさっぱりわからなかった。


 顔をしかめて眺めていると、ふとエアリアスとメニュー越しに目が合い、なんだかおかしくなって二人で笑ってしまった。


 なんでこんな何でもないことに笑っちまったんだ、俺?


 エアリアスは笑いをおさめると俺に「任せてもらっていいかな?」と確認し、店員を呼んで「私たち二人におすすめのものを出してほしい。」と注文した。

えらいアバウトな注文で店員も軽く驚いたようだが、「かしこまりました」と言うと厨房に引っ込んでいった。

なんつうか、変な注文の仕方なのに押し付けがましくなくスマートなんだよな…。


「いつもはどんな店に行くんですか?」

俺は待ち時間に黙って過ごすのもなんだと思い、話を振ってみた。


「う~ん、部下と大衆食堂に行ったり、お忍びで酒場に行ったりかな。」

「…すいぶん男前ですね。」

「男職場にいるからね。それに私は生まれたときから男として育てられたから、そっちが楽なんだ。」


 そこで店員がやってきて、俺には甘酸っぱそうな木苺をふんだんにつかったケーキとレモン水、エアリアスにはほろ苦そうな大人向けのチョコケーキと紅茶のセットを持ってきた。


「さすが、いいチョイスだね。ありがとう。」

エアリアスが店員の女の子にウインクをしてみせると、女の子は顔を真っ赤にして厨房に走って引っ込んでしまった。奥からなんか「キャーッ!!」と絶叫が聞こえたが気にしないでおいた。



「…男として育てられたというのは?」

俺は初めて聞く奴の生い立ちに興味をもった。

そもそもエアリアスがいっつも暴走して俺を追っかけまわすだけなので、まともに話をしたのはこれが初めてだった。


「軍事顧問である父はどうしても男の子が欲しかったようでね、私を男として育てることにしたんだ。母も周りの貴族の方々も、王ですらやめるように説得したらしいんだが、そのときの父は暴走していたらしい。」

あぁ、お前の暴走は親父さんの遺伝かい。


「私の名前もそもそも男の名前だからね。」

そう言ってエアリアスは自然に笑った。そこには自嘲するような様子は一切無かった。

「父は私に剣術や体術を叩き込み、寄宿学校にも特例で通わせて、男として社交界デビューまであと少しという時に弟が産まれたんだ。」

エアリアスは、当時を思い出すように遠い目をして微笑んだ。


「そこでやっと父は我に返ってね、私に頭を下げて謝ったんだ。ふふっ、その時の母の怒りようがもの凄くてね…。私は自分の感情を実感する前に母の怒りに圧倒されてしまったんだ。」

俺は何も言えずに固まって聞くしかなかった。

そんな俺に気付いたのか、エアリアスは軽く笑い「そんなに真剣に聞かれちゃうと困っちゃうな…。ごめんね、我が家では笑い話として話しているからつい、そのつもりだったんだけど…。」と小首を傾げてケーキを食べるように促した。


「お父さんを恨んだりはしてないんですか?」

俺は促されて一口だけケーキを食べて飲み込むと、どうしても気になって聞いた。

優雅な仕草で紅茶を飲んでいたエアリアスは、俺の質問を聞いて苦笑した。


「あ~、つい懐かしくなって初対面の君にいろいろと話してしまってごめんね。つい楽しくてはしゃいでしまったようだ。何だか心配させてしまったようだね。

私はもともと男として過ごすほうが合っていたみたいで、男として生きることに何も疑問にも思わなかったし、父上に鍛えられて周りの男の子たちより強くなっていくことがとても楽しくて仕方なかったよ。ただ…」

「ただ…?」

「立ち回りをするのにだんだん胸が邪魔になってきて、こんな胸が無ければいいのにということだけが強く不満だったな…」

「なんという神への冒涜だ…!」

「え?」

「いえ、何でもありません。」


 危ない危ない、つい心の叫びが出てしまった。


「弟が生まれて、父に女に戻っていいと言われたときは、あんなビラビラのドレスを着てお上品に笑う人生なんて嫌だと思って。それで今の生活なんだ。私の実力で今の地位にいると言いたいところだけど、自分の身分と父の影響が全くないといえないところが悲しいところだけどね。」

そう締めくくって奴は紅茶に口をつけた。



 う~ん、いつもの暴走している姿からは思いもつかない生い立ちだったな…。

俺だったらグレて親父を殴って家を飛び出していたかもしれない。

そもそも俺がクラインだったらこんなに落ち着いて話もできなかっただろうから、こうやってカフェで向かい合ってコイツの生い立ちを聞いている状況も、ある意味奇跡なのか…?


 俺が考え込んでいると、エアリアスは何か勘違いをしたようで苦笑しながら話しかけてきた。

「いつも女性といるときは聞き役なもので、お嬢さん相手に気の利いた話ができないんだ。」

なんか想像できるわ。


「いつもはどんな話を?」

「歴史上の軍略についての見解を述べ合ったり、体術の効率よい組み手の仕方について語り合ったり、筋肉の美しいつき方について語り合ったりだな。」



 あぁ、最後だけは俺も話があいそうだ…。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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