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2話 幼女になった傭兵

 


「ったくよ、慣れない書類整備をしてみりゃあ、ごほうびが奴との再会とかなぁ・・・」


 最近街からの意見書や要望書がとにかく多く、重要度によって仕分ける作業に俺まで駆り出されて昨夜遅くまでしていたのだ。

その褒美に今日の休みをもらえたわけだが、せっかくの休みにわざわざ奴に会いに行くのは懐かしいからとかそんな理由じゃない。




『 親愛なるクラインへ

  

 僕ももうすぐ世間でいう妖精・賢者になろうとしています。

 その前に僕は生まれ変わろうと思います。

 僕の人生で唯一の友人である君にその瞬間を見届けてもらいたいと思います。

                            

                 君の友人にて魔導士のサルバンより』





 ……正直関わりたくない。意味もまったくわからない。

だが放置すれば間違いなく大きな厄介ごとになりそうな予感がする。

サルバンが何かやらかしたら、お世話になった孤児院に迷惑がかかる。

犯罪者を出した孤児院として寄付が無くなったり、孤児院の子どもたちが後ろ指をさされたりするような事態は阻止しなければならない。




 目の前にようやく建物らしきものが現れたとたん、身がすくむような禍々しい何かに圧倒された。




「っっつ!!  何だこれはっ!?」


 間違いなくあの建物からだ。


「くそっ!!  何やらかしたんだよっっ!!」


 足がすくみそうになるのを叱咤しながら俺は建物に駆け寄り、ドアを思い切り蹴り開けた。


 中には入らずドアの外から素早く状況確認を行う。

床一面に書かれた不可解な文字とその中央の魔法陣のようなものが、両方まぶしいくらいに光っている。

その真ん中にうつろな目をして座り込むローブをまとった小太りの男の姿があった。

まちがいなくサルバンだ。


 サルバンは俺の怒鳴り声にもピクリとも反応をせず座り込んだままだ。何かの暴発?意識がない?


 その間にもますます光は強くなっていき、禍々しい気もどんどん濃くなっていく。


「くそおおおぉっっ!!」


 目を光に焼かれないようにかばいながら俺は部屋に飛び込み、サルバンのローブを引っ掴んだ。


「これで止まってくれぇぇぇぇっ!!」


 その勢いのまま男を魔方陣のそとに投げ飛ばす。「…ぐうっ!」床に激しく身を打ちつけた男が声をもらした。


 その直後、男が床に倒れたまま血走った目をカッと見開き俺に向かって叫ぶのと、光に包まれた俺の体が陽炎のようにゆらぎ崩れ落ちるのは同時だった。




「僕の奇跡があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」




 この世の終わりを嘆くような悲痛な叫び声が、光に包まれた部屋にむなしく響いた。




「ぐううぅうぅぅっ…」


 熱い、熱い、熱いっ!!

体の細胞のひとつひとつが沸騰して、まるで体の中から燃やされるようだ。


 もしかして悪魔召還の生贄になるのか?

巨乳でボンキュッボンの女悪魔なら命を差し出しても悔いはないっっ!!

このまま死んでしまうのならベッドの下の俺の愛読書「The 巨乳 愛蔵版」は歌姫リーシャちゃん親衛隊副隊長のコルク、お前に隊長の座とともにくれてやるぜ…っ!!

こんなことなら親衛隊第一条「リーシャちゃんは皆の女神である。抜け駆けは禁止。」を守らずにアタックすれば良かったな…。



そんな俺の混乱をよそにいつの間にか光はおさまり、魔方陣のなかに座り込んでいた俺は―――






 もともと黒かった色はそのままに、サラッサラに細い毛の腰まで伸びた髪。

ひざの前でそろえた手は、節くれだった指に剣だこのあった俺の手の面影は全くなく、ふっくらとしてやわらかそうな小さな手。

成人の男物の服はダボダボで肩でようやく引っかかっている状態だった。


 その隙間から中を見ると、筋肉のないやわらかそうなまっ平らな胸、腹筋のわれた腹はまんまるなポンポコ腹になっている。

ずれた下穿きの中は……


 生まれてから物心つくまではおもちゃであり、あるときは友、あるときはお守り、あるときは相棒、あるときは精神安定剤、あるときはやんちゃな暴君なアレがなかった。



「俺の息子がないぃぃぃぃぃっぃっ!!」


 喉も裂けよと叫んだその声は、高くて細くてやわらかい子どもの声だった。


 そう、俺は幼女になっていた。

鏡を見ないことにはこれ以上の情報はわからねえ。

だが体の大きさからまだ初潮もきてねえような小さな女の子になってやがる。



 ことの根源であろう男のほうを見ると、呆けた顔でブツブツ何か呟いてやがる。

瞬間的に頭に血が上り、男に駆け寄り胸倉をつかもうとして俺はその場に立ち上がる。


 バサバサッ


 あぶねえぇぇっ!!

下穿きとズボンが落ちて我に返る。

上着が膝下までのワンピースのようになり、色々とセーフだった。


 別に俺の股間が出たとしても、たとえそれが人前だろうと焦ったりする俺じゃない。

だが幼女のこの姿だと、羞恥心というよりいたたまれなさがある。

俺の目に入れちゃいけないという罪悪感もある。

自分の体だという実感が一切ないからな。



 そんな上着も肩から半分ずり落ちており、気を抜けばストンと落ちる可能性大だったので慌てて服を首元で寄せて握り締めた。


「うおっっつ!!」

すると今度は服の下が膝上のきわどいところまで一気に引き上げらる。

下穿きも落ちた今、もちろん服の下はツルンツルンだ。


「…あの…」


 微妙な服の調節をしながら俺がモジモジしていると、男がおずおずと声をかけてきた。

そういやお前がいたな!何も見てねえだろうな!

男のほうを睨みつける。

おい、なに鼻血出してやがる!!



「隣の部屋の洋服ダンスに服がたくさんあるから…」

とにかく俺は男が示す部屋に、服を微妙な位置でおさえたまま飛び込んだ。



 部屋は小さく、ベッドと洋服ダンスだけでいっぱいいっぱいだった。

この洋服ダンスがいやに馬鹿でかい。


 俺は傭兵の直感か、嫌な予感がしつつおそるおそる洋服ダンスを開けた。





 中には、この体にピッタリのサイズのさまざまな幼女服がズラーーッとそろっていた。


 そのとき、俺の脳裏に、昨夜遅くまで書類整備していた町からの要望書の内容が溢れ出して来た。


『ここ数日、見かけないローブを着た男がうろついている。町の見回りをしてくれないか。』

『女の子物の子供服を、怪しい男が大量に買って行った。何か薄気味悪かった。』

『幼い娘と買い物をしていると、怪しい男が遠くからじっと見ていた。ひとさらいかもしれない。』

『ローブの男が孤児院をじっと見ていた。声をかけると何も言わずに去って行ったが、ありゃ怪しいねえ』





「あれも全部っ、お前かぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 もう一度建物に、幼女の絶叫が響き渡った。




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