1話 悪夢への招待状
俺の名はクライン、孤児院出身の傭兵だ。
とある貴族の不良な三男坊が立ち上げ、自ら団長をしている傭兵団に所属している。
学もない、職もない、昼から酒をかっくらって暴れるだけだったゴロツキどもを拾い上げ、居場所を与え役目を与えてくれたありがてぇお人だ。
貴族とは思えねえ豪快な性格のお人で、俺たちは「おやっさん」と呼んで親しんでいる。
俺は成人となる15のときに孤児院からおやっさんに引き抜かれた。
鍛えれば使えると何度も死ぬ目に合わされながら扱かれ、やがて腕っ節を認められ副団長をしている。
副団長といっても偉くもなんともねえ。ちょいとオイタの過ぎた荒くれどもにお仕置きをするのが俺の役目だ。
もう一人の副団長であるキースが小難しいことや細かいことを担当している。
もともとはキーウェルスという長ったらしい名で上流貴族の長男だったらしいが、おやっさんの貴族のあり方に対する考え方(俺には良くわからんが)に感銘を受けて弟に家銘を譲って傭兵団に入った変わり者だ。
お貴族様特有のすました感じが俺は苦手だけどな。
そんな俺もひとたび戦争があれば戦場を大量の敵の血で染め上げ、黒髪黒目の容姿から『黒狼』なんてあだ名をつけられ恐れられる存在…
になる可能性もあるかもしれない……。
だがここ100年以上も戦争がなく、また今後も起こる可能性など皆無である平和なこの国では城下の平民街の自警団や何でも屋がせいぜいだ。
酒場の酔っ払いの喧嘩を両方ぶちのめして仲裁したり、祭りの繁忙期に大量のパン生地をこねる手伝いをしたり、俺は勇者になる!と城下町の外に飛び出していった薬屋の息子をスマキにして連れ戻したり、酒場の歌姫の麗しい巨乳様を個人的に人知れず魔の手から守ったりなどだな。
ちなみに俺は孤児院出身で身よりもなく、傭兵団の独身寮で暮らしている。
成人とされる15で一般の奴は結婚をしてガキをつくるなかで、こわもて・ゴロツキな傭兵団の連中は結婚している奴のほうが少ない。
成人から10年ほど過ぎた俺もまだ嫁さん候補になるような女はいない。
言っておくが、俺はもてないわけではない。
そう、決して も て な い わけではない!
理想的、実用的に筋肉の引き締まったこの肉体。
若干猫背ではあるが身長はそこらの男より頭ひとつは高い。
顔に関しちゃこれまた自信アリで、荒くれどもに似合わない整った顔だとか薄い唇がセクシーだとか鋭い漆黒の瞳に吸い込まれちゃいそうとか、飲み屋の姉ちゃんたちには傭兵団の中でも1,2位を争うくらいもてている。
だが、育ちの悪さがとくに、とくに目に出ちまって、よく言えば鋭い眼光、そのまま言ってしまえばひたすらに目つきが悪くそこらのお嬢ちゃんじゃびびっちまって俺からは声をかけることもできない状態だ。
ま、そんな野性的な魅力にあふれすぎる俺は飲み屋の姉ちゃんをひやかしつつ、娼館のいいお得意様でありつつ、酒場の歌姫の麗しい巨乳様をあがめつつ、傭兵団の荒くれどもと馬鹿をやりながら気楽な独身貴族を謳歌していた。
ある招待状が俺の元に届くまでは。
『 親愛なるクラインへ
僕ももうすぐ世間でいう妖精・賢者になろうとしています。
その前に僕は生まれ変わろうと思います。
僕の人生で唯一の友人である君に、その瞬間を見届けてもらいたいと思います。
君の友人にて魔導士のサルバンより 』
休日に俺は王都を出て、街道から外れた森の中を歩いていた。
懐かしい奴から招待状がきた。同じ孤児院にいたサルバンという男だ。
奴を一言で言えば根暗、小太りでいつもおどおどして子どもの輪に入らず、ひとりで部屋のかたすみで静かに何かをしているような奴だった。
だがあることをきっかけに俺と奴は二人でつるむようになり、俺より5年先に孤児院を出た後は自分の理想を求めると言って魔導士になり日夜研究に勤しんでいる。
「あ~アイツが孤児院出てから会ってねえからもう15年ぶりか?あいつももう30になるくらいか」
俺は独り言を言いながら人気のない森をひたすら歩いていた。
魔導士とは「この世にないモノの実現」または「現存するモノの発展」を目標に掲げ研究をしているうさんくさい連中のことをいう。
変わり者が多く、また研究のために人のいない静かな環境にいることが多い。
おかげで傭兵団の騒がしさに慣れている俺は、ぶつぶつと独り言をつぶやきながら奴の研究所である隠れ家を目指していた。