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10話 密室の人妻

 


 おやっさんが寝室で一人寝ている頃、俺と奥さんは狭い個室に二人きりで向かい合っていた。

妙な緊張感に俺の唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。


 奥さんは俺の体を服の上から嫌らしく頭から足の先まで眺めた後、俺の服に手をかけた。

俺が制止の声をあげると人妻は薄く笑い、「主人は寝ているのですもの、見ているものはいないわ。ここにいるのは私とあなただけ、何も遠慮することはなくてよ?」そう言って俺の頬をゆっくりと感触を確かめるように撫でた。


 相手は上司の妻なのだ、俺は必死に服を脱がそうとする手に抵抗した。

そんな俺の様子に奥さんは「そんなに恥ずかしがることはないわ、全てを私に任せてしまいなさい。」と妖艶に笑った。

 やがて抵抗をあきらめ力を抜いた俺を見て、奥さんは慣れた手つきで俺の衣服をはいだ。

乾いた音をたて衣服が床に落ち、俺は下着のみの姿になった。

「…くっ。」

俺は一方的な陵辱に羞恥心を覚え、舐めるような視線から少しでも体を隠そうと身をよじる。


「…魅力的な身体ね。」

そうため息まじりに妖しく囁くと、人妻はそっと俺の肩や腕をなぞった。

その妖しい感触に俺の身体は震えた。

「あなたは何もせずに私に身を任せていればいいの。そうすれば全てがうまくいくわ…。」


 俺は無力感にあらがえず、目を閉じ人妻に身をゆだねた。

「いい子ね。ふふっ。」

視覚を遮断し触覚が敏感になったため、ゆっくりと人妻の手が俺の髪を梳くのを感じる。

「こんな姿を主人が見たらなんて言うかしら…。」

暗闇の世界で妖しげにクスクス笑う人妻の声を聞きながら、俺は為されるがままになるしかなかった…。







 そして髪を背中で軽く結い、簡素だが上品な室内着に着せ替えてもらった俺の姿が衣装室にあった。

「うふふっ、こんな可愛いクランちゃんの姿、早くパパに見せてあげたいわね!」

俺の姿に満足げに奥さんははしゃいだ。


 ちなみに、なぜ男の子しかいないこの家に女の子モノのネグリジェや服があるのかというと、奥さんがつい無意識に縫い上げていたのだそうだ。その数30着ほど。

どれだけ女の子が欲しかったのか…そりゃ幼女の俺を見て歓喜するわけだ。


 何着かはサルバンのところにあったようなレースビラビラのドレスみたいな服も合ったが、ほとんどは上品ながら無駄な装飾の無い服が多かったのありがたく頂くことにした。

ズボンなども昨夜に団長から頼まれたそうで、昼から町に出て布を見繕い何着か縫ってもらえることになった。さすが団長わかってるぜ!


 だがズボンならわざわざ新調しなくても団長のお子さんのをもらえばいいと訴えたら、「男の子のズボンは、汚れたり破けたりではきつぶしておしまいなのよ…。」と苦い顔で教えてくれた。

俺も孤児院でよく破いてはシスターに縫ってもらって当て継ぎだらけのズボンをはいていたのでよくわかる。

 


 ちなみに一般的に既製品の服は値段がはるため、平民や商人や下級貴族は布を買って自分で服を縫う。

お貴族様のことは知らないが、商店街に衣服店やオーダーメイドの店があるということはそういうことなんだと思う。

おやっさんちが特別なのか、どこの貴族もこうなのか俺にはまったくわからない。


 だからこそ、サルバンが幼女モノの衣服をあれだけ集めていたことの異常さがわかるだろうか?

店で買ったにしろ、自分でつくったにしろ、異様な執念によることを改めて感じ俺は身震いをした。



 二度寝中のおやっさんは昨夜のうちに、傭兵団に昼から行くと伝言をしていたらしい。

なので昼前まで寝かせておくことになった。



 食堂にいくと5人がけくらいの大きさのテーブルに俺と奥さんの分の食事が置かれていた。

「おはようございます奥様、お嬢様。」

テーブルの横に白髪というよりは上品な銀髪の壮齢の執事と、まあまあ年季のはいった恰幅のいいおばちゃんメイドが立っていた。

 

 執事は奥さんを序列二位の席に、おばちゃんメイドは俺の手を取ってその向かいの席に案内し椅子を引いて座らせてくれた。

俺は成人の男で、相手はたとえおばちゃんであろうともれっきとしたレディだ。

本来ならエスコートは俺の役目なのだ!


 そんな申し訳なさもあり「ありがとうございます。」と俺がおば…メイドさんに頭を下げると、「あらまぁ、これはご丁寧にどういたしまして。」と優雅に一礼を返された。

その動作は格式ばったものではないがとても洗練された上品さがあり、このメイドも貴族であることをうかがわせた。


「わたくしはメイドのマリエスと申します。旦那様や奥様からはマリーとお呼びいただいています。何かご用事がございましたらわたくしめに遠慮なくお申し付けくださいね、お嬢様。」

最後にマリーさんは茶目っ気を見せて俺にウインクして見せた。


 そんなマリーさんの紹介を受け継いで、執事のおっちゃんもキビキビとした歩きで俺のほうに来た。

そのカチッとした動きに、コレが本当の執事ってものかぁとのんきに感心した。

「わたくしはこの家の家令長を勤めさせていただいておりますフィルスと申します。お嬢様のことは旦那様からお話を承っております。その小さいお体で大変ご苦労をされたと伺い、僭越ながらわたくし達使用人一同は心からあなたさまのお力になりたいと思っております。 この家にご滞在される間は、ここをご自分の家だと思い気楽に過ごされてください。」

そう言い切ると、これまたカチッとした見事な礼をした。


 おっちゃんには悪いが、半分も意味がわからなかった…。

そんな俺の顔を見て奥さんはクスッと笑っておっちゃんに「もう、フィルったら堅苦しすぎてわからないわよ。」ととりなしてくれた。


「これは失礼いたしました。つい感情が高ぶってしまいまして、これは執事失格でございますね。」

そう言って首を振ったおっちゃん、フィルスは俺に向き直った。

「クランお嬢様、この家はあなたの家、旦那様や奥様はもちろん私たちのことも家族と思って、たくさんわがままを言ってくださいね。」


 今度ははっきり意味も、そして皆の好意もしっかりと受け取ることができた。

俺は自然と頭を下げもう一度、感謝の意を伝えた。


「お、わたしの名はクランです、そう呼んでください。今日の昼までの短い間ですが、どうぞよろしくお願いします。」

そう言って顔を上げるとフィルスとマリーはキョトンとした顔をした後、そろって奥さんのほうを見た。

あれ?俺何かおかしなこと言ったか?


「今日傭兵団に行くのはパパだけよ。クランちゃんはこのおうちで何日か身の回りのことを自分でできるようにお勉強するのよ。ここにず~っと居てほしいけど、傭兵団の寮で暮らすなら身の回りのことを一人でできないとね。」

見た目はこうでも俺は成人なわけで、身の回りのことなんて当然できるんだがなぁ…?

納得いかない俺の顔をみて、奥さんはウインクして見せた。


「詳しいくは聞いていないけれど、クランちゃんは今まで生きていくのに最低限必要なことしかしていないってパパから聞いたわ。一人で髪を洗うのは思うより大変なのよ。せっかくクランちゃんは綺麗な髪をしているんだからちゃんとお手入れをしないとね。パパから女の子の身だしなみをしっかりと覚えるように言われてるわ。」



 あ~、なるほど川で水浴びするだけじゃだめってことか。めんどくせぇ、後で髪は切っちまおう。



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