第二章 【康時】
ピ ピ ピ ピ ピピピピピピピピピピピピピッ
「うう…うんっと」
僕は目覚ましのアラームを切って、上半身を起こした。
七時だ。
「いけない…もうこんな時間か…」
僕は急いで制服に着替えると一階の台所へ向かい、母があらかじめ用意してくれている朝食のパンに喰らいついた。
母はまだ寝ているらしく、隣の寝室から大きないびきが聞こえてくる。無理もない。昨日も夜遅くまで仕事をしていたのだから…
朝食を食べ終えると皿を流しに置いて、再び自分の部屋に戻った。鞄を取りに行くためである。
明りをつけると改めて自分の部屋を見渡した。ぐしゃぐしゃのプリントや服。今日は使わない教科書やノート。もう二度と身に着けたくない桂高校野球部のユニフォームとスパイク…それらがまるで絨毯の様に床に散乱していた。今週の週末にでも部屋の掃除をやったほうがいいだろう。とてもじゃないが女性を招待できるような部屋ではない。
僕は溜息を吐きながら、それらに半ば埋もれている自分の鞄を引きずり出して肩に提げた。入学して二ヶ月…だんだんこの鞄も自分の身体に馴染んできた。
「そろそろ行かないとな…」
時計を見て僕は玄関へ行き、靴べらが必要な位に窮屈になった靴に片足を思い切り捻じ込んだ。
「痛っ…」
この靴もそろそろ買い換えなくてはならない。
もう一方の足も同じように捻じ込んで、さあ学校に行こうと思った時、リビングの固定電話が高々と鳴り出した。
「…くそっ!」
僕は苦労して履いた靴を脱ぎ捨てるとリビングに向かい、受話器を取った。
「はい、もしもし」
「よう、霜田か」
電話の相手は特に親しくもないクラスメイトの男子生徒だった。
「緊急連絡網だ。この電話が切れたら、次の出席番号の奴に電話してくれ」
緊急連絡網…何か事件や事故等があった時に、クラスの中等で回していく電話の事だ。
「分かったよ。それで、何かあったのか?」
「何かな…」




