第一章 【昌子】
一体、どうすればいいのだろう?
私は職員室の扉を閉めながら大きく溜息を吐いた。
私に桂高校文芸部の部長の座が移ってきてからもう数ヶ月が経ったが、私は今だに文芸部の活動らしい活動はできていなかった。というのも、私より一学年上の先輩達が引退してから、文芸部の部員は私以外に居なくなってしまったからである。もちろん最初は「今は私一人だけかもしれないけれど、四月にでもなれば新しい一年生が何人か入部してくれるはずだ」という淡い期待を胸に抱いて一人寂しい日々を耐え忍んできたが、いざ、四月になって新しい一年生が入学してきても、誰も文芸部に入部してくれないのである。ビラ配り、ポスター作り、体験入部の実施…やれる努力は全てやったというのに!
最も、詩や小説を書いたりする事は私一人でもする事はできるのだが、文芸部の活動の集大成である文集の製作は私一人でする事はできない。こういった、学校で出す文集は多くの人間の作品が入っているからこそ良いのである。
だからせめて、私はあと一人だけでもいいから部員がほしかった。
表玄関で下靴に履き替えて外に出ると、丁度私の目の前を数人の陸上部の部員が喋りながら駆けていった。
楽しそう…私も、先輩達が引退する数ヶ月前まではこんな風に楽しくはないけれど楽しくやっていたのに…
私は制服の袖をめくって、腕時計を見た。
今六時か…家に着くのは半になりそうね…
そう思った時、私は体育館の裏の方で小さな人だかりができているのに気がついた。
何だろう?
久し振りに私の胸に好奇心というのもが走った。提げていた鞄をその場に置いて、駆け足でその場へ向かう。
「一体、何があってるの?」
私は先に来ていた特に親しくもない男子生徒に聞いた。その男子生徒は何も言わず、顎で前の方をしゃくって見せた。
「……………」
私の胸からスウッと好奇心が消えた。
リンチだった。
野球部の数人の部員達が、地面に丸まっている一人の部員をバットで殴ったり、足で蹴ったりしている。
最低だ。
基本、私は人間関係がどうとかいった物にあまり興味はない。だが、強者が弱者を平然と痛めつける等といった行為は絶対に許せない…というのがかつての私の信条だったのだが、今の私はそんな事を思ってはならないのだ。
気持ち悪い…早く帰ろう…
そう思って私がその場を立ち去ろうとした時だった。
「オラァ!」
一人の野球部員の放った蹴りが、リンチを受けている少年の顔面に喰らいこんだ。
「ウッ…!」
蹴りの衝撃でその部員の身体が仰け反った時、今まで隠れて見えなかった顔が一瞬だけ見えた。
!?
気がつけば私は群集を押しのけて、その少年のもとに駆け寄っていた。